「第2章:そば粉のタルト・タタン」
第6話「その女、フレデリカ」
さぼらずきちんと働けば、美味しい料理が食べられる。
パブロフの犬さながらにその事実を知ったセラは、猛然と働くようになった。
皿洗いや食材洗いはもちろん、それまでは4人ずつの交代制だった朝夕の食事の配膳までも、率先して行うようになった。
もちろんひとりでは配膳しきれないため、セラ以外の他3人は変わらずの交代制なのだが……。
「……何よあいつ。急に心でも入れ替えたみたいに」
「ま、いいんじゃない? こっちはこっちで適当にやってれば」
「あいつが頑張る分、こっちは楽出来るしねえー」
最初は呆れたようなバカにするような目で見ていた者たちも。
「な……なんだかちょっと悪い気がするわね。少しだけ手伝ってやろうかしら。ほら、あいつってちっちゃいから、頑張ってるわりには作業が人一倍遅いし……」
「え? なんで? だってセラだよ?」
「や、あたしもなんか、悪い気がしてきた……」
自分たちより遥かに小さいセラがせっせと働いている姿を目にして気まずくなったのだろう、以前よりきびきびと働くようになった。
配膳される側もただ待っているだけではなく、自ら立ち上がったり手を伸ばしたり、声をかけ合ったり、何かとセラへ協力するようになっていった。
「はーいどうぞー、ご飯でーっす。ジローの料理は美味しいよーっ♪ 今日はねえー、パンにナッツとレーズンが入ってるんだー。しかもはちみつ漬けだからねーっ。美味しいんだよーっ♪」
みんなのおかげで余裕が出て来たセラは、きゃっきゃと笑顔を振りまくようになった。
その日の献立の説明をしたりして、食卓に笑いをもたらすようになった。
食事のたびにもたらされる穏やかな和みは、みんなの生活に確実な潤いをもたらした。
相変わらず俺とセラの関係を疑っているカーラさんは眉をひそめたままだったけれど、状況はおおむね上手く巡っていた。
だが俺は、一切油断していなかった。
厨房の端から、ずっと目を光らせていた。
セラに断食破りをさせる発端となった事件。
そこにはとあるシスターが関わっているのだ。
そのシスターの名はフレデリカ・レーブ。
王国一円にその名を知られた、レーブ公爵家のご令嬢である。
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