第39話 2021年7月5日(月) 病院の付き添い

今日は3か月に一度行うことになっている母の病気の定期検診日だった。

平日ではあるが、病院に付き添うために前もって私は今年最初の夏休をこの日で申請していた。

病院での診察の予約時間は、朝9時だったので休みにしたと言っても起床する時間はいつもの仕事がある日と変わらなかったが。


朝食を食べた後は、すぐに病院に向かった。

これまでの定期検診では母は自分で車を運転して病院に行っていたが、今回は私の車に母を乗せて私が運転して送り迎えをする。

私は自分が運転するときは、運転に集中するために口数は少なくなる方だ。

だからカーナビから流れる朝のテレビのニュース番組の音声が車内を満たしていた。

だけど、その時はこの状態の方がありがたかった。

この時の私の頭の中では、もし病院で母が深刻な状態だと分かった場合など良くないケースばかりを考えていたため、とてもじゃないがあまり楽しい話ができる状態ではなかったのだ。


そもそも私は母の病状についてあまり詳しいことは分かっていない。

私は母の病状については、母が自分から言う情報以外に知り得る手段はなかったからだ。

これまでに私が病状について聞いても、母からは「分からない」とか「大丈夫」と答えることがほとんどであったので詳しいことは聞けていない。

例えば母の病気である間質性肺炎についても、母本人は担当医が現段階で服薬は必要なく大丈夫と言っているということで詳しい分類は覚えていないらしい。

この病気は細かく分けると分類が5種以上あり、原因や体へのリスクについても大きく異なるが、詳しいことが分からなければ、私の性なのかどうしても悪い方向の予想をするようになってしまう。


一方で母も私が心配することを好んでいないので、病状に関わらず私を心配させないために私が何か聞いても「大丈夫」と答える可能性も十分にある。

こうなってしまうと「大丈夫」という言葉は「分からない」と同義であり不安材料になってしまう。


病院に到着して受付を済ませると、事務員から検査の案内をされた。

今回は行うのはどうやらレントゲンと肺活量の検査で、その後に担当医からの問診という流れだった。


予約しているだけあって検査はスムーズで待ち時間はほとんどなかった。

病院に入って15分もしない内に担当医との問診になった。


診察室に母と一緒に入り、母が私が付き添いであると医師に紹介した。

医師は明るい調子で同席しても問題ないと答え、替わりにではないが今日は研修医が同席するが構わないかと確認された。

特段断る理由もないので私と母は二つ返事で了承した。


医師がマウスを操作するとディスプレイ上に今日のレントゲンの結果が表示された。

医師の隣に座る研修医も画像をじっと見つめており、私と母と研修医の3人は写真についての医師の説明を真剣に聞いた。

レントゲン写真には確かに肺の下部に小さくではあるが、間質性肺炎の特徴である白く写っている部分があった。

3か月前に撮影したレントゲン写真と比較すると、白い部分の面積に変化はないとの見解だった。

また、続けて表示された肺活量の検査についても正常値の範囲であり、パルスオキシメーターを使って測定した血中酸素飽和度も95%以上であり、良好な状態であった。


つまり病状は進行はしていないとの結論だった。


「これまでと同様にこの状態なら投薬の必要はありませんね」


そう言いながら医師はマウスを操作して画面に表示されているレントゲン写真の画像や肺活量のグラフを閉じた。


画面には電子カルテが表示されていた。

そこには母の名前、生年月日、診察日、そして病名が記載されていた。


非特異性間質性肺炎 


これを目にした瞬間、私は息を呑んだ。


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