第38話 2021年7月3日(土) 引き継ぎたい味付け
7月5日の月曜日は母の通院の付き添いのため、私は今年初めての職場での夏休みを使うことにした。
3日4日の土日を含めると実質3連休となる。
ただ3連休ではあるものの、現在は梅雨シーズンのため、ここ最近はあまり天気が良くない日が続いている。
この地域のあたりでは時折、激しい雨が降り続くタイミングもあり、役所から避難所を設置したとの放送もあった。
この状況では、実家に戻っても農作業においてできることはかなり限られてくるので、天候が安定するまでは実家で別のこともしていこうと考えた。
その一つは料理だ。
もっと正確に言うと、母の料理を再現できるようにすることだ。
もし、今の状態で母がいなくなれば、その味の料理はもう口にすることはできないだろう。
だから、完全ではないにしろ、自分である程度は再現できるようにすることでその問題に対応したい。
母は栄養士と調理師の資格を持ち、長年、地域の保育園で給食の仕事に携わってきており、和、洋、中のどのジャンルの料理も一通り作ることができる。
もちろん、お店でプロの料理人が作る料理と比べると、家の中で母が作る料理はそこまで手が混んでいるものではない。
ただし、これまで家では私が苦手な食材を使わない限り、これまでの記憶の中で不味いと感じるようなものが出てきたことはほとんどない。
私自身も今でも一人暮らしを続けてきているから多少は自炊をすることはできる。
しかし、この料理はこれは母の味ではないし、私ができるのも炒め物等あくまで簡単に作れるものだけだ。
また、世間一般にはこれを料理するという考えに含めていいのか分からないが、食材を混ぜるだけでできる中華料理みたいなシリーズもよく使う。
私のスキルはこんな状態ではあるが、私が今後、婚活をするにあたっても料理ができるのに越したことないので、その点でも今よりもまともな料理が作れるようにするのは悪いことではないだろう。
ただ、今回実家に戻って改めて母の料理を見た結果、この計画の問題も数多く見つけることになった。
例えば一般的に母の味と言えば味噌汁だが、私の母はあまり味噌汁を作らない。
人数的に効率の問題もあるのだろうが、汁物が欲しいと思う時はインスタントの味噌汁やお吸い物を使うことが多い。
まあ、ある意味、私にとっては味噌汁は母の味というイメージではないので、この手の副菜的な汁物は対象外にしても問題はないのだが。
他の問題としては、味付けの際にその場で思い付きで分量や混ぜるものを変えていることが多いのもはっきりした。
例えばこの日の夕食は手作り餃子だったが、母の作り方を見ていたら、調味料の類は分量を量ったりしないでほぼ目分量で投じていた。
加えて、冷蔵庫にたまたま残っていたチューブのショウガを入れたり、具材はいつもの白菜ではなく近所からのもらいもののキャベツを使っていたりした。
他にも思い付きでいろいろ試したりする。
ただ、これで出来上がったものは結果として普通に美味かった。
同時にいつもの味と大きくは変わっていなかったのだ。
普通は私みたいな料理のレベルだと、こういうある種いい加減なことをやると失敗するのだろうが、母はこれまでの経験から失敗しない範疇を感覚的に理解しているから上手くできるのだろう。
また、このように毎回微妙に味や食感が変わるから、食べる側にしても飽きにくい面もあることが理解できた。
しかし、これは逆に言えば、母の料理は毎回味付けや食感が変わるため、単純に再現をすることは難しくなるということでもある。
ただ、料理は科学の一種であるという話も聞いたことがあるが、同じ材料や手順を踏めば基本的に再現するものだ。
とりあえず手順は今後、時間をかけて学習するにして、まず調味料等の材料にどこのメーカーの何を使っているか記録をしていこうと思う。
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