第5話 2021年5月13日 期待されていること

私の母親は、独身の私に彼女の存在や結婚のことについて、これまで何か意見や希望を言ってきたことはほとんどなかった。

もちろん、私自身も全然モテないため、この手の話題を意図的避けてきたということもあるが。


しかし言わないからということが、思ってない、ということにはならない。


一体、母親は私に何を望んで期待しているのか?


それは母がいなくなった後でも、安心できる姿を母に見せることだろう。

誰だって不安に感じることは、できるだけ少ない方がいいと考える。


では安心できる姿とは何なのだろうか?


これは考えてみても正直よく分からない。

具体的に他人を安心させてあげられるような自分のイメージが浮かんでこない。


こんな時は逆から考えてみると分かりやすくなることがある。


この場合だと、母親から見て安心できない、言い換えると不安や悲しい私自分の姿を考えると、すぐにそのイメージが浮かんだ。


何も残さないまま老いた自分が、独りきりで、薄暗い部屋が食事をとる姿。

そしてそれが、その後、何年も、もしかしたら20年、30年続くかもしれない状況。


人間ネガティブな想像の方が簡単にできてしまうものだが、これは酷い。

自分で想像したにも関わらず、絶対に大切な人には見られたくない姿だ。


しかし、このイメージから遠ざかることができれば、それは自然に母親を安心させることのできる姿に近づくことができるだろう。

少なくとも方向性を大きく間違えることはないはずだ。


この姿の反対は何か?

独りにならないようにパートナーを作り、結婚する。

そして未来を託せるような子供を残す。

そんな妻子と幸せな家庭を作る。


つまりはこういうことだ。

勿体ぶった考察の割に、結論はずいぶんとありふれた話になってしまったが、別にここでオリジナリティを求める必要はない。


大切なことは、母親に残された時間がどれだけあるか分からない私は、できるだけ早くこれを成し遂げなければならないということだ。


成し遂げた姿を見てもらわないと、私はきっと納得できない。


だからこのとき、私は本気で婚活を始めることを決意をした。

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