第2話 2021年5月10日(月) きっかけ

そもそも私は何故よりにもよって母の日にそんな重大なことを知ってしまうことになったのか?


これは、私のこれまでの怠慢によるツケが回ってきたものだと思う。


私は母の日の前日の土曜日、5月8日の昼前に実家に帰っていた。

実家までの帰りの途中にある店で母の好物であるメロンと一輪の黄色いカーネーションを購入した。

当然これらは母の日の贈り物としてだ。


私は実家に着くと母の日の前日にはなるのだが、すぐに母に贈り物を渡し一緒に昼食を取った。


プレゼントを受け取り母は機嫌が良かったが、この日に少し気になったのは、母がよく咳をしていたことだった。


本人は、少し風邪気味かもと言っていたが、その症状は翌日の母の日になっても続いた。

むしろ、少し悪化していた。


そして、母の日の午後、母は私に言った。


「明日、念のためいつも検査に行ってる病院に行こうと思うんだけど……」

「そっか、仕事の年休もまだまだあるって言ってたし、俺も診てもらうのがいいと思う」

「前にも伝えたけど私は間質性肺炎だから気になるしね」

「そうだね」


こんなやりとりをしていたが、この時まだ私は、この病気、間質性肺炎について何も調べていなかった。


実は、母は前年の10月に私でメールで病名を伝えていたのだ。

しかし私は、その本当の意味を見落としていた。


母はこの時に職場の健康診断で肺レントゲンの精密検査に引っかかり、レントゲン写真に白い影があると告げられていた。

私を含む周囲は、もし肺がんだったらと考えとても心配した。

そして、しばらくしてから検査の結果について母からメールで連絡が送られてきて、


「癌ではありませんでした。間質性肺炎でした。薬は飲まなくても大丈夫だけど、今後も定期的に経過をみることになりました」


と書かれていた。


当時、私はこのメールを見て単純に、癌じゃなくて良かった、と思いそこで考えることをやめてしまっていた。


今考えるとなんて楽観的で愚かなのだろうと思わずにはいられない。

私が病気について調べなかった理由は、このように非常に愚かなものだ。


結局、今年の母の日も私は実家で普段通りに過ごした。

そして母と夕食を取った後、私は隣町の自宅に戻った。

部屋に帰ってからは自宅でシャワーを浴び、日課のゲームを2時間ほど遊んだ。

それからベッドに入り、翌日の仕事に備えてさて寝るかというタイミングでのことだった。

何故かこの時、母の言っていた「間質性肺炎」という言葉が私の心に引っかかったのだ。


私はスマートフォンの目覚ましアラームを設定した後、軽い気持ちでブラウザを立ち上げ、このキーワードを検索し、そして、絶望した。




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