5話 モリスとルディ


 俺は『エスパー』の能力を使いてきを倒した後、

 拠点の前で倒れているモリスに、すぐけ寄った。


「モリス! モリス大丈夫か!? モリス!!!!」


 モリスは、俺のせいで怪我けがをしてしまったのだ。

 だから、何としてでも助けなければならない。

 

 だが、何度びかけても返事がない。

 息はしているが、意識があるかは分からなかった。


(回復系の能力さえあれば……)


 『エスパー』の能力に回復系は無い。

 なので、モリスを治すことが出来ないのだ。


(どうしよう。このままだとモリスが……

 そうだ! 拠点! 拠点に回復薬ポーションがある!!)


 俺は、能力を使った。


『アポーツ』


 この能力は、自分の行った事のある場所に物を送ったりできる。

 反対に、物を引き寄せることも出来るのだ。


 そうして俺は、一瞬で回復薬ポーションを自分の手元に引き寄せた。


(よし! これをモリスに使えば治るはず)


 俺が手にしたのは、普通の回復薬ポーション

 これが、モリスにどれだけ効いてくれるかは分からない。

 だが、これしかないのだ。


たのむ。効いてくれ!)

 

 そう願いながら、俺はモリスの口の中に回復薬ポーションを流し込んだ。

 すると、ひどかった火傷が徐々じょじょに落ち着いていき、熱湯をかぶったぐらいの火傷へと変わっていく。


 そして……


「ア、アニキ??」


 モリスが目覚めたのだったーー


 ……1時間後。


 モリスは、かなり回復した。

 まだ、痛い所があるみたいだが、立てるようにもなっていた。

 そんなモリスに、俺はあらためてあやまった。


「モリス。本当に悪かった。もっと早く力を使っていれば……」


「もう気にしないで下さいっす! アニキのおかげで、治ったんすから!」


 モリスは、俺に気を使わせないようにそう言った。

 しかし、それでは俺の気がおさまらない。


「いやいや。そもそも俺が、最初っかーー」


「もう大丈夫っすよアニキ!! とにかく2人とも無事で良かったじゃないすか!」


 モリスは、俺の言葉をさえぎってそう言った。

 その時のモリスの表情は明るく、本心から言っているようだった。

 そんなモリスを見て、俺は何も言えなくなる。


「まあ、俺達が無事で良かったけどさ……」


「そのアニキの力ってヤツを使わなければ、自分達はつかまってたかもしれないんすよ?」


「……まあ、そうかもな。……でもさ」


「じゃあアニキのおかげでもあるじゃないすか! ありがとっすアニキ!」


「いや、だから……」


(やばい。これじゃあ、あたかも俺が悪くないみたいじゃないか) 


 モリスは、ヤンキーの様な見た目の割に口がうまかった。

 よって、俺は言いくるめられてしまったのだ。

 こうして、俺の謝罪しゃざいはモリスに受け取ってもらえず失敗したのだった。


 そして話は、次の話題へと移る。


「アニキ。気になってたんすけど……アニキの力ってなんすか??」


 どうやらモリスは、俺の力について疑問ぎもんに思ったようだ。

 本来なら、俺が絶対に誰にも言わない内容だ。

 しかし、モリスは例外。

 俺のことを、自分の身をけずってまで助けてくれたモリスに隠すことは無かった。

 なので、モリスにはちゃんと全てを話そうと思ったのだ。


「あぁー。おどろかないで欲しいんだけどさ」


「はいっす」


「俺、エスパーなんだよね……」


「へ??」


 どうやら、伝わらなかったようだ。


(エスパーは結構有名なはずなんだけど……知らないのかな?)


 聞こえなかったっていう可能性を考えて、俺はもう一度言うことにした。


「俺、エスパーなんだよね」


「え? ええ?? ……えええええええええええええええええええええええええええ!?」


 今度は聞き取れたようで、モリスの表情がこわれ始める。

 目は落ちそうなほど飛び出て、口は握り拳にぎりこぶしが2つぐらい入る程開いていた。

 どうやら、相当おどろいたようだ。


「ア、ア、ア、ア、ア、アニキ……。

 エ、エ、エ、エスパー!? マジっすか?」


「マジ」


「嘘っすよね!!??」


「マジ」


「えええええええええええええええええええええ!?」


 モリスは、事の大きさを理解してもう一度おどろいた。

 そして何かを思い出したのか、あわてて俺に話しかけてきた。

 

「アニキやばいじゃないですか!?

 エスパーがいると分かった瞬間に、全ての国が協力して殺しに来るらしいっすよ!!」


「そう。そうなんだよね。めちゃくちゃやばいんだよね……

 だからさ、ここから出ていこうと思うんだ」


 俺は、力を使った時から覚悟をしていた。

 これからの人生が、ずっと追われるだけの人生になってしまうということを。


「だからさ、モリス。ここでお別れだな!」


「え? なんでっすか!? 自分はアニキに、付いていきたいっす!!」


「ダメだ」


「何ですか!?」


「俺といると危ないからだよ」


「じ、自分一人の方が危ないっす」


「え? なんで?」


 俺は、意味が分からなかった。

 どう考えても、俺といるより一人でいる方が安全だろう。

 世界中から追われてしまう俺といるより、よっぽど平和に生きていけるに違いないのだ。

 だから、素直に聞いてみることにした。


「なんで、モリス一人の方が危ないんだよ!」


 そう聞くとモリスは、すごく言いずらそうに答えた。


「ア、ア、アニキと関わったから……じ、自分も危ないっす」


(ウッ!? コイツ!?

 そんなこと言われたら何も言えねーじゃねーかよ!!)


「だから、最後までちゃんと面倒めんどう見て欲しいっす」


(くっそ。これで断った後に、モリスに何かあっても困るし。

 連れてくしかねーじゃんかよ!!!)


 結果。

 俺は、モリスを連れていくことに決めたのだった。


「……仕方ない。俺がモリスを守るよ」


 俺がそういった時のモリスの顔は、すごく良い笑顔をしていた。

 そんな顔を見て、(ここまでしたってくれるのも悪くないな)と思い、モリスに対して居心地の良さを感じたのだった。


「じゃあ行こうか」


「了解っす!! あっ。でもその前に、1つ聞いてもいいっすか?」


「ん? いいけど?」


「もしかして、エスパーの能力を使って本当に連続殺人を……」


「してねーわ!!!! 俺を疑うな!!」


「嘘っす! ごめんなさいっす!!」


 

 このモリスの冗談で、俺は笑った。

 ここ最近、俺は笑うことがなかった俺にとってこの笑いは大きかった。


 モリスといればきっと楽しい逃亡生活になる。

 そう思わせられたのだから……。


 そして俺たちは、新たな地を目指して出発したのだった。

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