3話 隠していた力

 ようやく拠点の外に出た俺達。

 その目の前には、1000を超える数の兵隊たちと元仲間ユーリの姿があった。

 ユーリは、王子様風でかなりイケメンな男。

 反対に、性格は最悪と言える。

 常に人を馬鹿にして有利な状態ではないと戦わないずるい奴なのだ。


 そんなユーリが今、俺をとらえに来ていた。


「ユ、ユーリ!? なんでここに!?」


「アハハハハハハ。ようやく出て来たんだねルディ! よし全員!! かまえ!!!」


「「「「「はっ!!!」」」」」


 元仲間ユーリの掛け声で、一同いちどうが戦闘のかまえをとる。


(やばいな。

 攻撃してきそうだ。

 その前に、ユーリを止めないと)


 そう思い、俺はユーリに話しかける。


「ユーリ! こんなことはやめてくれ!」


「アハハハハハハ。なんでやめなければいけないのかな??

 ルディ。君は犯罪者なんだよ? わざわざ1000人の兵隊を連れて来たんだから、大人しく捕まってくれないかな? アハハハハハハ」


(何笑ってんだよ!

 なんで、無実の俺が大人しく捕まんなきゃなんねーんだよ!) 

 

「ユーリなら俺が無罪なのは知ってるよね?」

 

「アハハハハハハ。そんな事は知らないね! 王が有罪を出したから、君は有罪。

 逆らうなら反逆罪はんぎゃくざい処罰しょばつあたえる。

 まあ、最弱のルディでは逆らえないと思うけどね!

 アハハハハハハ」

 

 俺は、この時点でどうする事も出来ないことをさとった。

 ユーリは、完全に俺を捕まえようとしている。

 しかも、俺が無罪だと言っても王が有罪と言えば有罪。

 これ以上の話し合いは無駄だと分かった。


 そうして俺が困惑こんわくしていると、次はユーリの方から声をかけて来た。


「アハハハハハハ。もう言い残す事はないかな? それなら、覚悟かくごを決めなルディ!

 王は、ルディを殺さなければいいと言っていたんだよねー。

 つまりさ、いたぶる事は止められていないんだよ。

 楽しみだなー! ルディをボコボコにするの!!

 アハハハハハハ」


(なんなんだよコイツ!!!!

 チクショウ……。

 俺の力はまだ出したくないし、どうしよう)


 俺は、腹が立ちだまってしまったのた。

 すると、ユーリが動き出す。


「アハハハハハハ。もういいかな? なら、こっちから行く……」

 

「ちょ、ちょっと待ってほしいっす」


 モリスがそう言って、ユーリの言葉をさえぎった。

 俺の後ろで、ガクガクふるえていたモリスが俺の前に出てきてたのだ。


「ア、アニキは人殺しをやってないっす」


 なんと。

 怖がっていたはずのモリスが、俺をかばう為に意見をしてくれたのだった。

 だが、事態じたいは動かない。

 むしろ悪化してしまう。


「アハハハハハハ。何度も言わせないでよ。王が有罪と言えば有罪。

 ここでルディは捕まる運命なんだよ! て、いうことで全員!! 攻撃用意!!!」


「「「「「はっ!!!」」」」」 


 そのけ声により、兵隊達は無駄むだのない動きで攻撃体制を取る。

 そして、ついにユーリは攻撃命令を出す。


「アハハハハハハ。よし放て!!」


「「「「「火の玉ファイアーボール」」」」」


 敵が繰り出して来たのは、初級魔法火の玉ファイアーボール

 それは、本来なら弱い魔法。

 しかし、兵隊の数は1000人近くいる。

 1000人が火の玉ファイアーボールを放てば、それは相当な威力と共に大火事にもなる。

 そんな火の玉ファイアーボールが俺とモリスにせまって来ていた。


(やばい! このままだと当たる……?

 いや、違う。

 コイツらめちゃくちゃ下手くそだ。

 このままだと俺とモリスには、当たんないな)


 俺は、安心した。

 初級魔法を、的にちゃんと当てる事が出来ない相手なら大した事は無いと思ったのだった。


 そうして、俺たちの上の方へれていく火の玉ファイアーボールを俺は見ていた。


 だが、事件は起きる。

 下手くそだと思っていたが、そんな事はなかった。

 なんと、外れたと思った火の玉ファイアーボールは空中で一つにまとまりだしたのだ。

 1つまた1つ組み合わさっていき、巨大な玉へとなる。

 そして、組み合わさった火の玉ファイアーボールはどんどん圧縮あっしゅくされていく。

 更に、赤かった火の玉ファイアーボールは黒い炎へと変色したのだった。


(……まさかあれ、落ちてこないよな??)


 そう思っていると、そのまさかが起きた。

 なんと、下に落ちて来たのだ。

 しかも、最悪なことにその黒い炎は自分に向かって落ちていくる。

 その時だった。


「アニキ! 危ないっす!!」


 モリスは、そう言うと俺を突き飛ばした。

 そして……。


バッコーーーーーーーーン!!!!!!


「グフッ!!!!!」


 俺をかばったモリスに攻撃が当たってしまった。


「モリス!!!!!」


 俺は急いでモリスへけ寄る。


「モリス! モリス大丈夫か!?」


 見てみるとモリスは、ひどい火傷をおって動けそうになかった。

 あの攻撃は、モリスが死んでしまってもおかしくない程の威力だった。

 どう考えても、これはかなりやばい状況だ。


 そうして、俺があせっているとモリスの目がうっすらと開いた。

 モリスは生きていたのだ。


「モ、モリス!?」


「ア、アニキ……。大丈夫っす。自分のことはいいんで逃げてくださいっす」

 

 か細く、弱っている声で、俺の心配をしてくれるモリス。

 そんなモリスを見て、俺は、精神的に追い込まれていた。


(なんでこんなことになった?


 なんでモリスは俺をかばったんだ?


 なんで俺はモリスを助けられなかったんだ?


 なんでだ……なんでなんだ???


 力を隠してたせいか?


 俺があのパーティーに入った事が悪かったのか?


 俺が自分の事だけを考えて、力を使わなかったからか?)



 俺は、考えた。

 考えて考えて……気づく。



(力さえ使っていれば……


 俺は国の犯罪者になる事も、モリスが俺をかばい怪我する事も無かったはず。


 全部俺のせいだ。


 だから、もう隠さない。

 

 全てを守る為に、この力を使おう)



 俺は、決心した。

 もう何も失わないように、隠していた力を開放すると。

 

 そして俺は、ついに開放する。


 この世界でたった一人しか持っていない俺の能力『エスパー』を――


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