2話 唯一の味方

 俺の名前は、ルディ・エグル・アーサー。

 Sランク冒険者で、『ドラゴンの牙』の一員……だった。

 実は、さっきそのパーティーを追放されたところだ。


 そして現在。

 俺は、『ドラゴンの牙』の奴らが放棄ほうきした拠点の中にいる。

 山の中にポツンとある、落ち着ける拠点だ。

 この拠点では、黙っていると木葉このはの音や動物の声がよく聞こえてくる。


「落ち着くな~」

 

 木葉このはの音にいやされ、鳥の鳴く声がひびき、どんどん眠くなる。

 その時。

 小さな幸せを感じていた俺に、誰かが拠点の外から話しかけてきた。


「アニキー!!! アニキー!!! おーいアニキー!!」

 

 誰かが俺を、アニキと呼でいる。


(きっとこの声は……思い出した!

 あの声は、モリスだ。

 確か、茶髪ちゃぱつのオールバックに、ピチピチの服着てるヤツだったな。

 そうそう!

 ヤンキーみたいな奴だ!) 


 俺が思いだしているうちに、モリスが近づいてくる音が聞こえる。


タッタッタッタッタッタッ。 バタンッ。


 ドアが開く音がした。

 そして姿を現したのは、やっぱりモリスだった。


「アニキ!!! ……って。なんだ、いるじゃないすか! 返事くらいしてほしいっす」


「ん? あー。 悪い悪い! お前のこと思い出してて」


「ま、まあそれならいいんすけど。それより大変っすよ!!」


 モリスは、かなり落ち着かない様子だった。

 そんなモリスのあわてた様子に、俺も戸惑とまどう。

 だが、とりあえず話を聞くことにした。

 

「何かあったの?」


「何かあったのじゃないっすよ!! アニキが犯罪者として、指名手配されてるっす!」


「はぁぁぁぁぁあ!? なんでだよ!!」


 なんてこった。

 全く意味が分からない。

 俺が、悪事あくじはたらかせたことは一度も無いのに……

 

「俺が、一体何したんだっていうんだよ!!」


「連続殺人をアニキがしたらしいっす! アニキは人を殺せるほど強くないんですけどね……」


 はぁぁぁ????

 俺そんなことやってないんだけど!!

 なんで俺が連続殺人をしたことになってんだよ!?


「全然納得なっとくいかないんだけど!? モリスは、誰が俺を犯罪者にしたのか分かってるの??」


「もちろんっす! それはっすね! ドラゴンの牙のメンバー達っす! 国王様に、直接報告ほうこくしたんすよ! Sランクなんですぐ信用されたっぽいっす」


 おいおい。

 まじかよ……。

 証拠しょうこもないのに、人殺しが起きたことを信じるか??

 しかも犯人は、ドラゴンの牙のメンバーかよ!!

 アイツら、何してくれてんだよ。


「本当に、アイツらの仕業しわざなの?」


「マジっす!! だからアニキやばいっすよ!! 兵隊がアニキを捕まえにここまで……」


ザッザッザッザッザッザッザッザッ。


「ああああ! ホラ!! 来ちまったっすよ!? ア、アニキ!!!!!」


 どうやら、俺らが話している間に兵隊が来てしまったようだ。

 そして、一人であわてるモリスをおいて、指揮官らしき人が声を上げた。


「アハハハハハハ。よし! 全体止まれ!! この建物の中に例の犯罪者。ルディ・エグル・アーサーがいる。気を引き締めて陣形じんけいを組め! アハハハハハハ」


「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」


 指揮官が合図をしたとたん、俺の拠点ごと一瞬にして兵に囲まれた。

 もう少し早ければ逃げられたかもしれない。

 だが、今からだと逃げようがなかった。


 自分たちが兵に囲まれたのを見たモリスが、更にあせりだす。

 ヤンキーみたいな見た目なのに、涙目になっていて、足もガクガクふるわせている。

 どうやらかなりビビっているようだ。


「や、やばいっすよ! ア、アニキ。ど、ど、ど、ど、どうします??」


 モリスが、かなりあわてた様子で俺に聞いてきた。

 それに俺が答える。

 

「うーん……。とりあえず話してみようかな。俺、人殺してないし」


「ア、アニキ?? 話し合いするつもりっすか?? 無茶っすよ!!」


「え? なんで??」


「アニキは弱いんすよ? 弱い人の言葉なんて聞いてもらえないっすよ!」


 モリスは怖かったのか、外に出ようとする俺を必死に説得してきた。

 だが、俺は兵隊の奴らと話し合うことをやめる気はない。


「あーそっか。でも、このままでもきっと捕まるだけだし、行ってくるよ。モリスはココにいていいよ」


「え……?」


「アイツら、俺ねらいなんでしょ? なら、俺だけが行けばいい。そうすればモリスは助かるよね?」


「そ、そうっすけど……いや! ア、アニキがいなくなるのなんて、自分絶対いやっす!」


「いーよ。危険な目にわせたくないし。俺だけでも行ってくる」


「ア、アニキ! 本当に行くんすか!!!」


 俺は、話しかけてくるモリスを置いて外に出た。

 だが、


「お、おい……モリス、苦しいからあまり引っ張らないでくれないかな?」


 あんなに俺を引きめてたモリスは、俺の背中の服を引っ張りながらも付いてきた。


「だ、だって、怖いんすよ……」


「だから、出て来なくていいって」


「いや、1人よりはアニキがいるほうが100倍いいっす。こ、怖いっすけど」


「お前な……。まあいっか」


 俺は、頑張って必死にしがみついてるモリスが可笑しく、嬉しかった。


 そして、ようやく外に出た俺たち。

 その目の前には、1000を超える数の兵隊たちと元仲間ユーリの姿があったのだった……。

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