动荡的开始 01

傲羅漢のオフィスを出る際、エレベーターまで見送りに来たのは月嫦だけだった。


「困っておられますわね、先生?」

羅漢の前とは打って変わって、その美貌に浮かぶ笑みは生き生きと、直截に言うなら悪辣なものになっている。


「何の腹づもりで大将を唆したか知らねぇが。人参果が手に入ったって、アンタの役にゃ立たねぇだろうに」

「あら。先生を片付けられれば、それでよくってよ?」

「月一回の小顔鍼灸と痩身按摩を諦められるんなら、いつでも切って捨てな」

月嫦の言葉は半分が本心、半分は嘘だ。

太白の医者としての腕は、今の大黄瓜に有益なものだ。

太白が握っている月嫦の秘密と、大黄瓜が握っている太白の弱み。

この拮抗が崩れない限り、月嫦は積極的に太白を排除しない。


つまり、太白は組織に自分の利用価値を示し続けなければならず、羅漢の頼みを断れない。


自身の意思ではどうにもならない状況に、重いため息が漏れる。

気落ちする太白が見られて上機嫌な月嫦は、自身の知る人参果の情報をペラペラと教えてくれた。加えて、必要な経費はこれで落とせとマネーカードまで渡してくる。

表面の液晶に移る額面を見て、太白は軽く目を見張った。

羅漢のポケットマネーから出ているのだろうが、軽くひと財産はある金額だ。

これを月々〝お小遣い〟としてもらっているのだから、金遣いも超一流なはずだ。


「ねぇ、先生?」

「なんだ? 返せってか?」

「違います! 人参果ですけれど、例の副作用を抑えつつ、若返りの効果だけを残すことは可能ですの?」

なるほど、目的はこれか。

己の美貌に絶対の自信をもつ月嫦が唯一恐れているのは、加齢による衰えだ。

もちろん、年齢相応以上の美を保つことはできるだろう。

しかし彼女の美は今がまさに絶頂であり、そこから転落することは死に等しいと考えている。

太白を邪魔に思いつつ、手放せない理由がそこにあった。


「その実自体を調べてみないことには、確かなことは言えねぇがな」

真剣に返答を待つ姿は、普通以上に愛らしいが。

「世の中そうそう、都合よくできちゃいねぇよ。果物食って長生きできるなら、楊貴妃は死ななかったろ?」

「……もうっ!」

満足のいく回答を得られなかった月嫦が、ピンヒールで太白を蹴ろうとしてくる。

尻に穴を開けられては堪らないので早々に退散しようと、エレベーターの釦を押した。

程なく扉が開き、さっさと中に滑り込んだ。


閉まる扉の向こうで、まだ眉を吊り上げた月嫦が、

「おひとりじゃ大変でしょうから、紅棍をお付けしますわ。こき使ってやりなさいな」

と告げてきた。

「至れり尽くせりだねぇ」

ボヤいた頃には扉は閉まり、胃の腑が浮かぶような感覚を味わった後、太白はエントランスへと戻ってきた。

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