第45話 女子達と海に行くことがどんなに素晴らしいことか、身を持って体験しました。

「おまたせ~」


 聞き覚えのある可愛い声の方を振り向くと――――


 ぐっは……!


 太陽のように輝いていた。


「おおお!!!」


「おぉ………………」


 成瀬がピンク色の声を上げ、前林が嘆息した。そして俺と吉田は言葉を失った。


「お、遅かったな」


 吉田が訊くと、御代がうんざりした様子で、


「ナンパだよナンパ。立花と行くといつもこうなるんだよね~」


 女性の体で腹筋が割れているのを始めて見た。


 茉莉のように縦の線がうっすら入ってるのではなく、シックスパックが見えている。


 腕や脚も名刀のように研ぎ澄まされている。


 それでいて女性らしさを感じる柔らかさもあわせせ持つ。


 鹿島と同じくらいの胸囲だが、御代の場合はそこが一番柔らかさそうだから、鹿島にはない艶めかしさを感じる。


 そんな褐色の肌色を持つ御代が着る水着は、純白のビキニ。


 その紐と同じ位置に色が薄い場所があり、それが普段どんな下着を着ているのかわかってしまう。


 ちらっと見てしまうのは、罪ではないはずだ。


 俺が悪いんじゃない。御代が悪い。


「楓だって見られていたからね。そのくびれはずるいもん」


 口を尖らせる立花。


 俺から言わせれば、その芸能人顔負けの容姿、ほどよく膨らんだ胸、理想的な細さを持つ身体を持つ立花のほうも十分ずるい。


 カーキのフリルビキニが、高校1年生にしては大きい胸を更に大きく見せる。


「おい、あの胸、おそらくEかGだぞ」


 頼んでもいないのに、成瀬が皐月のバストサイズを耳打ちしてきた。


 いいぞ、その調子で他の3人のサイズも教えてくれ。


 ナンパしてきた相手よほど嫌だったのか、シックな白のスイムシャツの袖に腕を通した。


「それに一番見られていたのは茉莉だったじゃん」


 一同、茉莉を見る。


 茉莉のやつ、ちゃんと水着を着てきたな。


 いや、それよりもみんなとこうやって海に来ること自体、レアか。


 一度見たことあるけど、試着室で見るのと海で見るのとは大違いだな。


「どうでもいい。それより―――」


 茉莉が少しだけ俺の方に近づく。


「似合ってる?」


 なんで俺に訊くんだ。つか、前に見たから。似合ってるって言ったし。


 せめて男子全員に聞くようにしろ。

 

「い、いや、俺に聞いても……みんなは?」


 前林と成瀬は「お、おう。似合ってる似合ってる」と興奮を必死に抑えながら言った。


 吉田は少し残念そうな顔をするも、「似合ってる」と笑顔で答えた。


「ありがと。で、喜太郎は?」


「……似合ってるよ」


 一応、答えた。


「そう」


 茉莉は静かに頷いた。いつもは滅多に変わらない頬を、ほんの少し朱色に染めていたのは、夏の日差しのせいだろう。


「ほー。じゃあ私のはどう?」


 茉莉の後ろからずいっと出てきたのは、梨沙子だった。


 水色ベースで花柄のオフショルダービキニを着ていた。


「うん、普通に似合ってる」


 普通に可愛い。あと、意外にも肩が綺麗。傷もほくろもない。


「なんか男子達、反応薄くない?」


「いや、そんなことはないよ」

 

 違うんだ、梨沙子。 


 お前が悪いんじゃない。周りが強すぎた。今の俺の状況みたいにな。


 それだけなんだよ。


「まぁでも全員揃ったことだし、みんなで遊ぼうぜ」


 前林の提案に、周りが頷く。


 俺は心の中でガッツポーズした。


 俺の夏は、ここから始まる。


 この時の俺は完全に浮かれていた。


 だから、アイツが抱いていた気持ちに気付けなかった。

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