第38話 チーキーガールと梨沙子②
鹿島と2人がかりで
宥める過程で温かい言葉をかけてもらったこともあり、小幸もだんだん鹿島と打ち解けてきた。
今では自分から話しかけている。
打ち解けると、
それに、同性の知り合いができたほうが、小幸にとってもいいだろう。
同性だから共感できるもあるだろうし。
そんな感じで、3人楽しくぶらぶら歩いていると、恐怖感漂うアトラクションを見つけた。
「これなんですか?」
「お化け屋敷だな。これはー……」
俺は説明文を読み、
「乗り物に乗って地獄を
「じごく……おばけ……」
小幸が少しだけ後ずさった。
子どもは大体ホラーは苦手だろう。俺も好きじゃないし、800円も払って乗りたくない。だったら、1000円の観覧車に乗った方がマシだ。
「怖いやつだから乗らなくていいよ。もっと楽しそうなのを乗ろうぜ」
「むっ……」
怯えていた小幸の態度が強気に変わる。
「こわくないですぅ。むしろ、キタローがこわいんじゃないんですかぁ?」
「いや、俺は別に」
ホラーは好きではないだけで、苦手なわけじゃない。グロテスクなのは苦手だが、小幸が入れるので心配無用だろう。
「へっ、へぇー…………なっ……なら、はいりますです!」
勇ましい顔付きで言っていたが、両手はぎゅっと握られていた。
「え、小幸ちゃん、本当に入るの?」
「うっ………」
鹿島の優しい問いかけに一瞬心が怯むも、
「もちろんですぅ! わたしはオトナなほうですから」
「お化け屋敷に入れることが大人とは言わないんだぞ。苦手なものは苦手と言えるのが大人なんだぞ」
「ニガテなものなんか、ピーマンとセロリぐらいしかないですぅ!」
結構、野菜食べられるじゃねぇか。感心したぞ。
「まあ、小幸ちゃんが入りたいなら入るけど……」
トーンダウンする鹿島。まぁ、そうなるよな。
あの様子だと、明らかに強がっているだけだ。
スタートした瞬間に泣きじゃくるイメージしか浮かばない。
そんなことを思っていると、鹿島が急に耳元に寄ってくる。
「ねぇ、私が真ん中に乗ってもいい?」
「いや、小幸だろ。普通に考えて」
「だよね……」
不安そうな顔を俺に向ける。
「もしかして、怖いの苦手?」
「ちょびっとだけ」
絶対にちょびっとだけじゃない気がする。
お化け屋敷の前にある券売機の前に立つ。お金を入れる前に後ろを振り返った。
2人とも顔が地獄に向かうような顔をしている。
これさ、入っても誰も得しないんじゃないかな。
小幸は変に強がってるし、そのせいで鹿島が乗りたくないと言い出せないし、俺はそもそも乗りたくないし。
「あの、お金の無駄だと思うし、やめない?」
鹿島の顔がパッと明るくなった。
「そうだね。ここはやめて――――」
「キタロー、やっぱりこわいんじゃないですかぁ」
小幸が小生意気な顔で言ってくる。
なんで救いの手を差し伸べたのに、振りほどいてくるんだか。
ここは痛い目を見てもらおう。
「じゃあ、入ろう」
券売機に5000円札を突っ込んだ。鹿島の絶望の
悪いが、お前も道連れだ。恨むんなら、小幸を恨むんだな。
発券されたチケットを取った後、鹿島の前に手を出す。
「え、なに?」
「お金」
「え、私払うの?」
「当然だろう。だって入りたいんだろ?」
えぇ……と言いつつ、鹿島は財布から金を出した。
うっわ、すっごい惜しそうに渡してくるじゃん。
素直に出したのは小幸の前だからだろう。ゴネるところを見せたくなかったか。
「ようこそ、チケットを拝見します」
チケットを受け取った従業員は、黒くてちょっと汚いカーテンの向こう側へ案内されつつ説明を始めた。
「あなた様方は地獄へと落とされました。ここではたくさんの地獄がを待っていることでしょう。さて、この地獄から正気で出られますかでしょうか」
めちゃくちゃ棒読みだったが、とっても聞き取りやすい滑舌だった。
屋敷に入ると、地獄みたいなオブジェクトが俺達を出迎えた。
へぇ、結構雰囲気が出ているな。
ちらっと横を見る。
2人ともすでにビビり散らかしていた。
ベルトコンベアーのように流され、鹿島、小幸、俺の並び順でアトラクションに乗らされる。
「では、いってらっしゃい」
座席につき、スタートした。
小幸はすでに涙目。鹿島は目を瞑って耳を塞ぎ、自分の膝に顔を埋めている。
もう、地獄に行く前から地獄絵図となっている。勘弁してくれよ……。
「よく来たなお前達。ここから生きて帰れると思うなよ」
「まずはその嘘ばかりつく舌を抜くところからだぁ!」
閻魔が人間の舌をペンチでびよーんと引っこ抜こうとするシーンが出た。
「ぎょえええええええええ!」
気合の入った断末魔が流れ、舌が引っこ抜かれた。
閻魔様は抜いた舌を持ったまま、
「貴様らは、嘘をついていないだろうな」
この貴様らというのは俺達、客のことを指しているのだろうな。
「もし過去に嘘をついたら、舌を引っこ抜いてやるゥ~!」
「ひぃ……」
小幸は両手で口元を抑えた。
「………こわいのか?」
「こ、こわっ……くないですぅ……」
「嘘をつくと、閻魔様に舌を抜かれるぞ」
「う……うぅ……」
小幸が
「あのっ……キタロー……ちょっ、ちょっとだけ、てをにぎることをきょかします!」
「いや、別にいい」
断ると、小幸の方から手を握ってきた。
「なんだよ」
「きょかしますぅっ!」
「わかったわかった」
途端に、ガタンと揺れる
「「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
2人がアトラクションの音より大きい悲鳴を上げる。
「痛でででででででで!!!!!」
俺の腕が強く握られる。小幸のやつ、めちゃくちゃ力強い。肉が引きちぎれる。
―――――と思って腕を見ると、掴んでいたのは鹿島だった。
「ちょっ、鹿島、痛いって!」
「いっ、いいじゃんっ! が、我慢してよ!」
「お前こそ我慢して小幸を守ってやれよ!」
「喜太郎が私達を守ってよ!」
ビュウ! 風が吹く。
「竜巻地獄じゃぁ!」
そんな地獄は存在しないだろう、と誰もが思うところだが、
「「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
もう、何しても恐怖する2人であった。
「うぅ~……パパママ助けて。パパママ助けて。助けて」
小幸は撃沈。泣きじゃくっている。
鹿島は小幸ごと俺に抱きついてきた。
「………………………」
残念なことに、胸の感触が全く無ぇ。こーゆーときって、少なからず柔らかい感触があってもいいのだが、ブラだと思われる感触しかない。
あと、力がめっちゃ強い。もう、これ絶対
百歩譲って子どもの小幸が痛くするのはわかるが、鹿島は許さん。加減ってものがあるだろう。
自由に動く左手で、仕返しとばかりに鹿島のうなじをひょいと触る。
「きゃあっ、
「ぐぉッ!」
鹿島の鉄拳が俺の
そして再び俺に抱きついてきた。
どさくさに紛れて悪いことするもんではないな。
※
「貴様ら、運がよかったな。次に来た時は、もっと可愛がってやる」
体感1時間ぐらい。めちゃくちゃ長かった。
最後なんか、地獄なのか、魔界なのか、よくわからないくらいの地獄とお化けが出てきた。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしてます」
二度と行くかよ。
はぁ、マジで疲れた。もう、どこかで休みたい。
「うっ…………うっ………………」
地獄から生還してきたというのに、しくしく泣いて出てくる小幸。
自業自得なんだけど、さすがにちょっと可哀想だった。
「コズミックワールドなんか嫌いですぅ………」
一方、鹿島の方は「はぁー」と大きなため息をついて、ぶつぶつ言っていた。
「はぁ…………夢に出てきそう。今日、夜トイレ行けないよぉー………」
子どもか。
幽霊ならまだしも、夜中に
そして、俺はチケット代1600円がこれに消えたことをやや後悔した。
あと、腕が痛い。がっつり
誰も救われない結果となった。
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