第9話 校内インタビューで、運命的な出会いを! ①
朝、通学中にスマホからメッセージが来る。
(おはよう。今日は最初の休み時間からバリバリ訊きまくるよ!)
「…………」
なんでこの子はこんなノリノリなんだろうね。
正直、締め切りまで上手いプロットが完成するとは思えない。
だが、ドタキャンすると二度と仕事が来ないうえに菜月さんにシバかれる。
ので、やるしかない。
例えゴミみたいなキュンキュン0,ときめき0のラブコメであろうとも。
そのためには全ての時間を書くことに使いたいのだが、そうはいかない。
鹿島がやる気満々だからだ。
今更断るなんてこと、俺には出来ない。
(ありがとう。今日一日よろしく!)
スマホをポケットにしまい、空を見上げる。
すぐ終わることを祈りながら、学校に行った。
※
1時間目、生物。
定年間近のおっさんが教師。
酒とタバコにやられた声をしている。
淡々と授業が進んでいくので、面白くないし、置いてかれる。
とっくのとうに置いてかれたので、生物は執筆の時間となっている。
ノートに目を落とし、創作しようとするも何も浮かばず。
このまま考えても書けないと思った俺は、仕方なくおっさんの解説に耳を傾ける。
黒板に目を向けるとき、学校ナンバー1美少女と噂される
あ――――
彼女が落とした消しゴムを拾った時、ちらっと横顔が見えた。
可愛い。
気づくと、俺の他にも皐月を見ている人間が3人いた。
系統は違えど、3人ともイケメンである。
「はぁー」
無意識にため息がでた。
イケメンですら
俺なんかじゃ負けるどころか、スタートラインにすら立てない。
どうにかして勝てる方法はないだろうか?
考えたが、思いつかなかった。
スタートラインに立てなくてもいい。
ただ一度でいいから、楽しくお
チャイムが鳴ると同時に一人の女子が俺に近づいて、
「ほら、行くよ」
異様にノリノリな鹿島だった。
「え、今から?」
「メッセで言ったじゃん。……あ、待って
え?
※
「えーっと、
俺と鹿島を前にたじたじする皐月さん。
とんでもなく可愛い。
「インタビュー」
「インタ……え?」
「インタビュー。とにかく質問するから、それに答えて」
俺と鹿島は鉛筆とメモ帳を出した。俺はわかるが、なぜ鹿島もメモするんだ。
「な、なんでインタビュー?」
「まぁ気にせず気にせず」
「えぇ…………う、うん」
やや困惑した
まさか、学年—――いや、学校ナンバー1と噂される
「えーっと、話すのは初めてだよね。
「滝藤喜太郎です」
アナタもか。
皐月さんは顔の前で両手をちょこんと合わせて、笑いながら「ごめーん」と謝った。
可愛いから許す。
ついでに、話すのは今日が初めてではない。入学式の時に少し話した。
しかし、可愛いから許す。
「もう、立花ったら。クラスメイトの名前くらい覚えておきなよ」
どの口が言うんだよ。
「ごめんごめん。それよりも梨沙、彼氏が出来たんだね」
「いや、彼氏じゃないから。私だって相手は選ぶよ」
その発言は可愛くても許さない。
ふざけんな。第一、俺だって選ぶ権利あるわ。売れっ子作家になった時に擦り寄ってきたって遅いからな。逃した魚のデカさを教えてやる。
……いや、そんなことより、と鹿島に耳打ちする。
「お前、皐月さんと知り合いなのか?」
「うん、まぁね。中学からの付き合い」
「……あとで連絡先とか教えてもらえないかな?」
「教えてはもらえるけど、付き合うのは無理だと思うよ。立花の理想、めちゃくちゃ高いし」
「ねぇ、二人でなにこしょこしょ話しているの?」
「え、いやぁ、こっちの話です。ははは」
「なんで同級生なのに敬語なの?」
「いや、恐れ多くて……」
正直、同じ人とは思えないほど顔の作りが美しい。将来、芸能界入りするだろう。今のうちにサイン貰っちゃおうかな。
「面白いね」
皐月さんが笑う。絵になるなぁ。つられて俺も笑った。
「なに気持ち悪い顔でニヤけてんの。そんなことより質問だよ質問」
こつんと鹿島に突っ込まれる。
あれ、おかしいな。笑ったはずなのに。
努めて真顔を作って、
「えーっと、じ、じゃあ、最初の質問です。ここで話すのもなんですし、放課後、2人きりでカフェに行きますか? イエスかノーでお答え下さい」
「ノーで。ごめんなさい」
一瞬たりとも迷わず断ってきた。
クラスの男子が鼻で笑う。
つか、男子どもめ。
いつもは俺のことなど気にも留めてないくせに、皐月さんがか関わった瞬間、こちらに気を向けやがって。ムカつくぜ。
「ねえ、真面目にやらないと怒るよ?」
鹿島が俺を
「ご、ごめんごめん。真面目にやるから。えーっと……今付き合ってる人はいますか?」
「いないなぁ。残念ながら」
クラスが少しだけそわそわしだした。
どうやらクラスの男子にとっては
「じゃあ、次の質問。好きな人はいますか?」
「いないかなぁ」
クラスがまたそわそわした。
中には心に火をともした人間もいたようだ。そのうちの一人が俺。
「じゃあ、憧れるシチュエーションとかありますか?」
「憧れるシチュエーションかぁ。あ、でも体育祭とかで私のために1位取るって宣言して、頑張ってくれるのとかキュンとするかも」
へぇ……。ランニングすっかな。最近、腹まわりが気になるんだよねぇ。
「あとは、スポーツとか、勉強もだけど、何かに一生懸命打ち込んでる人は好きかな。やっぱ頑張ってる人は好きだなぁ」
うーん、当てはまっているなぁ俺に。
普段、めちゃくちゃ頑張ってるし。
今も頑張ってるし。
「あと……恥ずかしいけど、
クラスの何人かが、急にワイシャツの袖をまくり始めた。
単純だな、このクラスの男子は。
彼らを
あ、せっかくだから訊いてみよう。
「このクラスで好きなタイプの人っていますか?」
ついに周りの男子の声が小さくなった。
「うーん……」
きっとみんな、俺同様に心臓がバクンバクン鳴っていることだろう。
「このクラスで言ったら……」
男子の心の声が聞こえる。誰だ。誰だ。誰だ。
「吉田くんとか、かっこいいと思うよ。勉強も体育もスゴイ一生懸命だしね」
皐月さんが少し照れた笑顔でそう言った瞬間、俺含むクラスの男子全員の顔がしょげた。
※
吉田をいかにして
次にインタビューする相手は隣のクラスのカップルだった。
教室でやると注目を浴びるので、廊下に呼び出した。
金髪の彼氏は高身長で肌が白い。聞いたところ、中学の頃はバスケ部だったらしい。現在は帰宅部だそうだ。
一方、俺より少し背の低い茶髪彼女の特徴は、なんといっても胸だ。グラビアアイドルと戦えるくらい胸がデカい。
身長差が絶妙にあっている
「付き合って何か月?」
不機嫌を隠さずに尋ねた。
この男、さっき美男と思ったが、よく見るとフツメンだ。
雰囲気でイケメンを装っているだけだ。吉田には数段劣る。
俺も髪型を変えればかっこよくなる―――わけないよなぁ。
くそ、余計腹立ってきた。
「まだ1ヶ月経ってないくらいだよな?」
「うん」
デレデレすんな。互いに目を合わせるな。幸せオーラ出すな。
「どっちから告白したの?」
鹿島が興味津々そうに訊いた。
思ったのだが、このインタビューって鹿島の趣味の
「そりゃあ、俺の方からでしょ」
「きゃぁーっ!」
「うわぁー!」
死ねええええええええ!!!!
何がきゃぁーだ。見せつけるんじゃない。
鹿島もうわぁーって騒ぐんじゃない。お前だって皐月さんや茉莉には劣るが、モテるだろうが。
「はぁ……」
気分が悪い。頭痛もしてきた。さっさと切り上げよう。
「はい、ご協力ありが―――――」
「こら。なんでここで終わらすの。まだ何も聞いてないじゃない」
ちっ、やっぱ終わらせてくれないか。
「ねぇねぇ、どこまでいったの?」
鹿島が俺の前に出てカップルに尋ねる。カップルは顔を見合わせた。
「どこまでいったって……ねぇ」
「うん……」
ポッと彼女の頬に朱がさし、それを隠すように両手を頬に重ねる。
ま、まさか……っ!
「最後までだよ」
くっそォォォォォォォォォォ!!!!
馬鹿な、こんなことが……。
つか、早くない?
最近の高校生ってこんなに進んでるのか。
壁を殴りたい。
誰か、誰か壁を!
壁をォォォォォォォォォ!!!!!
「へぇー!」
鹿島よ、お前そんなに目をキラキラさせて……。悔しくないのか?
と思ったら、こいつモテるんだった。
異性に告白されたことないのは俺だけか。
「場所はどこ?」
人目を
「俺の家かな?」
「最初は怖くて、こんなに大きいの入らないよって思ったけど、
「へぇー!」
べきっ! 鉛筆を握り折ってしまった。
「まぁまぁまぁ、落ち着いてって」
俺の肩に手を置いて、笑いながら
あ、こいつ、俺の反応を楽しんでやがるな。
「
すけべぇな目で
こいつら、見た目のわりに古風な名前してるんだな。俺も人のこと言えないけど。
「なによぉ……」
甘い声を出すな。
「でも、隆史とそういうことして、初めて胸が大きくてよかったなと思った」
「は?」
俺の隣から低く冷たい声が聞こえる。
横を見ると、鹿島が頬を引きつらせていた。お、怒っている……。
「普段は邪魔でしょうがなかったし」
べきっ!
鹿島も鉛筆を折った。
「こらこら、お前がキレてどうする」
そういえばこいつ、胸が無いなぁ。目の前にいる彼女が山なら、小さな丘、いや平野かもしれない。かろうじてBぐらいか?
「重いし、男性からヘンな目で見られたりして嫌だったもん。大きくてもCぐらいがよかったな」
「……んだって? C?」
鹿島が俺にしか聞こえない声で
こえー。
隣でブツブツ言ってる鹿島をほっとき、俺は最後の質問をした。
「次にデートで行きたいところは?」
2人は目を合わせ、
「ラブホかな」
教師にチクろうと決心した。
何の収穫もないどころか、俺達に黒いしこりを与えたカップルのインタビューが終わり、俺達は教室に戻る。
その道すがら、鹿島は少し胸を強調したポージングを俺に見せる。
「ねぇ、小さ—――美乳はどうかな?」
「いったいどうした?」
頭おかしくなったのかな?
「いや、ほら、ね」
はっはーん。さてはこいつ、気にしているな。
仕方ない。本当は大きい方が好きなのだが、たまには機嫌をとってやろう。
「貧乳の方がいいと思うぜ」
「び・にゅ・う!!」
※
良い胸とは何か、という未解決問題に挑戦して英語文法の授業をやり過ごし、今日3度目の休み時間を迎える。
「え、上のフロアに行くの?」
「うん。先輩にはもう言っといたから」
上は2年生の階なので、出来れば行きたくなかったが、綺麗でかっこいい女の先輩に会わせてあげると言われたからには行くしかない。
大人の女性と言われれば、
堂々と上級生のフロアを歩く鹿島の後ろを、俺は申し訳さそうについて行った。
「あ、
鹿島が駆け足で近づいていった。俺も
亜澄先輩は引き締まった顔立ちをした、日焼けした肌が
俺はすぐピンと来た。
「ソフトボールやってます?」
「ぶぶー。ハズレ。野球だね」
「ちょっと滝藤、ウチの高校、女子野球部はあるけどソフトボール部はないじゃない」
「そうだった」
ちょっと恥ずかしかった。探偵顔で言わなきゃよかったな。
「つかね、亜澄先輩ってすごいんだよ。1年の頃からエースで四番」
「え、二刀流!? それは凄いですね」
「ありがと」
亜澄先輩は特に嬉しがることもなく、照れもしなかった。多分だけど、自分自身が納得していないのだろうな。ストイックな人だ。
「それよりもリサ、彼氏?」
「先輩まで言う。やめてくださいよ。そんなに合ってます?」
「いや、釣り合ってはないけど」
それって、俺がかっこよすぎて鹿島じゃ釣り合わないって意味ですよね? よく、わかります。
「つか鹿島、亜澄先輩とはどんな繋がりなんだ? また同じ中学校とかか?」
「いや、亜澄先輩とは一昨年知り合ったの。私のこと好きって言ってくれた男子が試合を見に来てって言われて見に行った時、相手チームに男子に混じって球を投げている女子がいたの。それが亜澄先輩」
「その時リサが、敵チームなのに私のこと応援してくれて。あれはちょっと困惑した。試合終わった後、一緒に写真撮ってサインをしてほしいって言ってきたよね」
「いやもう本当すごかったんですもん! 将来大物になるって思いましたし」
「大物になるかどうか、わからないけど、なりたいなって思ってるよ」
「え、それって将来はプロ野球選手に……?」
俺の問いかけに亜澄先輩は少しだけ恥ずかしそうに頷いた。
「うん。まだまだ全国レベルにすら及ばないけどね。出来れば、大好きな野球を仕事にしたい」
「先輩なら絶対になれます」
鹿島の顔は尊敬に満ち
「ありがと。キミも、よかったら今度の試合、見に来てよ」
「え、俺も見に行っていいんですか?」
「もちろん。女子野球の存在、広がってほしいからね。知らない人も多いし、否定的な意見も多いから。小説の題材にしてくれたら、嬉しんだけどね」
「え、どうしてそれを―――」
はっと、鹿島を見る。
「…………てへぺろっ!」
こいつ、バラしたな。
鬼、それもかなり凶悪な鬼の形相で鹿島に詰め寄る。
「ちょ、近い近い近いって! よ、寄らないで!」
「あぁん!? お前がバラさなきゃ近づいてねぇんだよ!」
壁際に追い詰める。右横に逃げようとする鹿島を右の壁ドンで、ついで左横に逃げようとする鹿島を左の壁ドンで阻止。
勢いよく壁ドンした結果、手がぐにゃりとした。かなり痛い。
「ご、ごめんって!」
「ごめんで済んだら警察とか検察とか教師とか
「まぁまぁ」
亜澄先輩が落ち着いた声で俺をなだめる。
「小説家になるのが夢でなんでしょ? 」
「はい?」
……もう、なってるけど?
鹿島が
なるほど、そういうことか。本当と嘘を混ぜたな。
おそらく、尊敬する先輩に嘘をつくけないが、かといって全て正直に話すのは俺に申し訳ないと思い、その中間である半分ホントで半分ウソ、になったのだろうな。
しゃーない。今回だけは特別だ。
俺は鹿島から離れ、亜澄先輩に向き直る。両手がじんじんする。
「じゃ、気を取り直して―――」
その後は主に鹿島が質問した。その間、手が痛すぎてメモできなかったので、必死に笑顔を取り
休み時間が終わる2分前で切り上げた。
「いやぁ、正直、今回が一番参考になったな」
リスクとダメージに見合うかと言われれば、首を傾げるが。
それでも、野球をしているヒロインという発想は俺にはなかったので、良い収穫ではあった。ただ、手の痛みでほとんど質問できず、話した内容も覚えていないけども。
というか、満足していたのは鹿島だった。久しぶりに話せて嬉しかったとも言っていた。ファンか。
教室への帰り道、鹿島が俺を見た。
「さて、次は私も一度もしゃべったことない人に行こうと思う」
「社交性全振りのお前が、喋ったことのない人間なんているんだな」
「うん。だからこれをきっかけに仲良くなれたらなって思ってる。それに、滝藤混ぜて話した方が盛り上がると思うし」
「え、俺? 自慢じゃないが、俺に友達なんていねぇぞ?」
「いるじゃん」
「はぁ?」
俺に友達なんていたか?
……いや、待てよ。友達はいないが―――
「早川茉莉ちゃんだよ」
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