第38話 【逆転劇】

「真夕さんの気持ちは嬉しいけど、やっぱりこの話は受けられないよ。」


「・・・理由を聞かせてもらえるかしら。」


真夕さんを傷つけないように、私は自分の気持ちを正直に、そして誠実に話す必要があった。


「うまく説明できるか自信が無いんだけど・・・バーキンの代金を真夕さんが立て替えても、真夕さんは何も気にしないし、何も変わらないと思うけど、私の方が気にするの。だって立て替えてもらう理由が無いもの。」


「・・・・・・」


「何かの記念日とか誕生日プレゼントというならともかく、何の理由もなく立て替えてもらう訳にはいかないよ。」


私はここで致命的ちめいてきなミスを犯しているのだが、自分自身はその事に気が付いていない。


しかし真夕さんが私の失言を聞き逃す事はなかった。


「・・・そう、良く分かったわ。つまり誕生日プレゼントであれば受け取る訳ね。」


「あっ・・・」


『しまった!』と思ったがもう遅い。


それに対して、真夕さんは既に勝利を確信した表情になっている。


「珊瑚、あなたの誕生日は来月よね。」


「あれぇ? そうだったかなぁ~」


「誤魔化そうとしても無駄よ。私覚えているんだから。」


私のささやかな抵抗は一蹴いっしゅうされた。

そうだった、真夕さんは記憶力も良いのだ。


「あなたへの誕生日プレゼントを何にするか迷っていたけど、たった今決まったわ。」


真夕さんはパッと正面に向き直る。


「斉藤さん、このバッグは頂きます。」


「承知しました。本日お持ち帰りになられますか?」


「ええ。それからギフトラッピングをお願いします。」


10秒で商談を終えた真夕さんは私の方をちらり見ると、最後にとどめを刺す。


「珊瑚の誕生日プレゼントに何を選ぼうが、私の自由よね。」


そう、真夕さんはと言ったら絶対にやるのだ。


「あなたが気に入ったものを誕生日にプレゼントできて、本当に良かったわ。」


真夕さんの勝利宣言に対し、私に抵抗のすべは残っていなかった。


「うぅ、真夕さんの意地悪。」


いじけた私とは対照的に、真夕さんはとても楽しそうだ。


真夕さんという強敵ともを相手に、不用意な発言をした私の完敗だった。


この一件以降、私は毎年真夕さんからの誕生日プレゼントという名の攻撃に悩まされ続ける事になるのだが、それはまた別の話である。

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