第34話 【In a secret room Ⅰ】

別のフロアに移動した私達は、斉藤さんの先導で店の奥へと案内される。


そこには目立たない扉があり、扉の向こうには通路が続いていた。

そして通路の最初の角を曲がった先に、さらに扉があった。


「どうぞ」


斉藤さんが開けてくれた扉を通り、私達は部屋の中へ招き入れられた。


中はそれほど広くない。

窓は無く、出入り口も一つだけだ。

ソファーとローテーブルの応接セットが置かれている以外は、目立った調度品も存在しない。


照明とカーペットは他と同じものが使われているため、殺風景とまでは言えないが、どことなく秘密めいた雰囲気の部屋である。


「少々お待ちください。」


案内を終えた斉藤さんは、私達を残して一旦退出した。


真夕さんと二人きりになった私は、早速部屋の感想を口にする。


「まるで密談用の部屋だよね。」


「『まるで』ではなくて、そのための部屋だと思うわ。」


「特別な客と商談するための部屋という事?」


「遠山さんがヒマラヤを見せられたのも、この部屋ではないかしら。」


私が今日体験した通り、銀座本店に入るだけなら、ある意味誰でも可能だ。


しかし特別な客でない限り部屋に招かれる事は無く、一般客はその存在を知る事も無い。


もし私一人であれば、この部屋に来る事は決して無かっただろう。


その意味では「ヒマラヤ」を手に入れた遠山遥だって特別な客には違いないのだ。


ただその上の世界が存在する事を、彼女は知らない。

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