第33話 【A new arrival】

もちろん安いバッグでない事は分かっていた。


それでも132万円と言う価格は想像の範囲を超えており、私に十分な衝撃を与えるものだった。


『バッグ1個が132万円!? 何で? 冗談でしょう? 車が買えるじゃない。こんなの買う人いるの? いかん、頭がクラクラしてきた・・・』


あまりの事に挙動不審きょどうふしんおちいっている私を見た彼女まゆさんが、落ち着かせようと声をかけてくれる。


「確かに安くはないわね。」


「高いよ!! バーキンってみんなこんな値段なの!?」


「バーキンとしては、極々ごくごく普通の値段ね。むしろこれより安いものは数が少ないわ。」


「・・・せめてセール品とか、もっと安いモデルはないの。」


「無い事はないけど、それでも半額以下にはならないわよ。」


「うぅ、何て事なの、そんなの絶対無理じゃん・・・」


「まるで購入を前提としているような話し方ね。」


「あっ!」


そうだ、何でそんな事を考えていたんだろう。

真夕さんが言う通り、今日の私の目的は見学であり、色々なバッグや小物を見る事が出来れば満足するはずだった。


気を取り直した私は、真夕さんに確認する。


「ねぇ、これって手に取っていいの?」


「陳列してあるのだから、別に構わないわ。」


正直なところ、持ってみたいとは思う。でも値段を知ってしまった私に度胸は無かった。


「ううん、やっぱりやめておく。落としたりしたら弁償出来ないし。」


「・・・・・・」


しばらく無言だった真夕さんは、店内にひっそりと立っている店員に視線を向ける。


真夕さんの視線に気が付いた店員は、すぐに私達のもとに近付いてきた。


「斉藤さんを呼んで頂ける?」


「少々お待ち下さいませ。」


店員は一礼すると店の奥へと消えていく。


それからほとんど待たされる事無く、斉藤さんは姿を現した。


「お待たせしました、もうよろしいのですか?」


「ええ、十分です。それよりもバーキンが店頭に並んでいるなんて、珍しいですよね。」


「これは昨日入荷したばかりです。人気のある色ですし、恐らく明日までには売れてしまうでしょう。」


『えっ!?1個132万円だよね、それがそんなにホイホイ売れるものなの? もうわけが分からん・・・』


私の内心と関わりなく、真夕さんと斉藤さんは話を進めていく。


「こちらも見せて頂けますか?」


「それはもちろん構いませんが、それほど珍しいおしなではございませんよ。」


「ええ、それで良いのです。」


「承知しました。それではこちらも一緒に奥にお持ちします。」


「真夕さん?」


「大丈夫」


意味深いみしんな表情を浮かべた真夕さんは、私の言葉を制する。


『これから一体何が起こるんだろう・・・』


私達は一般の客が立ち入る事が許されない「特別な場所」に向かおうとしている。

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