第32話 【Price tag】

そこは1階と同じ様に間接照明を使っているため全体的に薄暗いのだが、所々にスポット照明が効果的に使われており、それらが商品を際立きわだたせる絶好のアクセントになっていた。


床にはよごれ一つないカーペットが一面にめられている。


BGMは一切流されていない上に、毛先の長い高級カーペットが吸音材の役割を果たしているため、店内はとにかく静かだ。


フロアに店員はいるものの、見事に存在感を消しており、店員同士が私語を交わす事も全く無い。


高級感を売りにする店であっても、何処どこかにすきや荒れた部分が見つかるものだが、ここには全くそれが無かった。


全てが高度に洗練されており、客が商品に向き合うための完璧な空間を演出していた。


普通の店には絶対に出来ない芸当だろう。


一つだけ残念なのは、フロアに置かれているバッグが思ったよりも少なかった事だ。


余裕のある陳列というのを通り越して、まばらに置かれていると言っても差しつかえない程である。


銀座本店メゾンというからには、もっと多くのバッグが並べられているのを期待していた私としては、少し物足りなさを感じていた。


私が店内をぐるりと見渡した、そんな時だった。


「珍しいわね、普通は店頭に並ばないと聞いていたけど・・・」


真夕さんはそう言うと一つのバッグに近付いていく。


つられるようにバッグに近付いた私は、目の前のバッグに違和感を感じる。


「ケリーとは違う・・・」


「これは『バーキン』というバッグよ。ケリーと同じくらい有名なモデルね。」


「それなら私も名前だけは知っていたよ、これがバーキンなんだ・・・」


陳列棚に置かれたバーキンの手前にある小さなプライスタグ何気なく見た私は、驚きの声を上げる。


「13万2千円! 高っ!」


一般女子大生の私から見れば、1万円のバッグだって十分な高級バッグだ。

私にとって、13万2千円はあり得ない価格と断言できる。


「それは13万2千円じゃないわよ。値札タグを良く見て。」


「えっ!?」


私はプライスタグをと見つめながら、慎重しんちょうに0の数を数え直す


『一、十、百、千・・・132万円!!』


もはや私は声も出なかった。

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