第27話 【偽りの敗北】

「さっきは真夕さんが物凄ものすごく怒っているように見えたから、一体どうなってしまうのかとハラハラしていたんだ。」


「彼女がに手を出してきたから放っておけなかったの。最初はもう少し言うつもりだったんだけど、彼女のあまりのレベルの低さに怒る気が無くなってしまったのよ。」


「それにしても遠山さんは随分ずいぶん持ち物にこだわっていたよね。」


「良い物を持つ事を否定はしないわ。だけどそれを勝ち負けの道具に使うのは馬鹿げている。初等部の頃から頭の良い子ではなかったけど、6年かけてバカにみがきがかかった様ね。」


「バカにみがきって・・・とにかくあの場で大喧嘩にならなくてホッとしたよ。」


「彼女に勝つのは容易たやすい事だけど、あのタイプは後々が面倒なので負けてあげたのよ。もっとも相手は単純に勝ったと思い込んで喜んでいるでしょうね。」


「あれは真夕さんが負けた事になるんだ。私にはどっちが勝ったとか分からなかったよ。」


「だけど彼女がもう一度あなたを侮辱ぶじょくしたら、その時はたたきのめすつもりだったわ。」


『そうか、私侮辱ぶじょくされていたんだ。だから真夕さんは怒ったんだ。』


遠山遥の真意と真夕さんの真意を同時に知った私は、精一杯のお礼の気持ちを彼女に伝える。


「ありがとう、真夕さん。私のために怒ってくれて・・・」


わずかに微笑ほほえんだ真夕さんは、短く言葉を返す。


「友人の名誉はまもる義務があるわ。」


「何て言うかさあ・・・真夕さんってカッコイイよね。」


私のポンコツな感想に目を丸くした真夕さんは、何度目かの言葉を口にする。


「あなたって面白い人よね、珊瑚。」

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