第26話 【世界の全て】

カフェテリアの出口で真夕さんと別れた私は、そのまま午後の授業に向かった。


だが昼休みの事件のせいで、とても授業に集中できる精神状態ではない。


『真夕さんが言ってたケリーって何だろう? ブランドの名前かな? さらに謎なのはヒマラヤだよ。どうして地名が出てくるの? ヒマラヤ産のバッグ? そんな訳ないよね?』


頭の中に次から次へと疑問が浮かんできて、授業内容は全く頭に入って来ない。


答えが全く見つからないまま午後の授業は終わり、私は真夕さんとの待ち合わせ場所に急いでいた。


先に着いていた真夕さんは私の顔を見るなり、意外な言葉を口にする。


「ああいう人種じんしゅ、初めて見たでしょう?」


「遠山さんの事? うん、そうだね・・・ちょっとびっくりしたかな。でも何ていうか、ルックスはTheお嬢様という感じで圧倒されたよ。」


「外見だけはね・・・内部進学者が全部あんな人ばかりではないけれど、ああいうのも一定数はいるわね。」


「そうなんだ・・・まあ確かに遠山さんと仲良くなるのは難しいと思う。」


「向こうも珊瑚と仲良くする気なんて最初から無いから、そんな心配はしなくていいわ。」


「それもそうか。」


真夕さんの表情が急に真面目になる。


「あの人たちは内部進学者だけの小さなコミュニティの中で生きていて、それが世界の全てなの。」


「世界の全て?」


「そうよ。そして彼女たちは小さな世界の中で勝った負けたを繰り広げている・・・本当に下らないわ。」


真夕さんの表情は嫌悪感に満ちており、私は彼女の内面をほんの少しだけ垣間かいま見た気がした。


もう私にも分かっていた。


真夕さんは他人たにんを頼らない。

いつだって一人で問題を解決しようとする。


私にはそれが不満だった。

私だって少しは役に立つ事が出来るのに・・・。


いつか真夕さんは、私に本当の気持ちを話してくれる時が来るのだろうか?


私もまた、自分の本当の気持ちを彼女に話せないでいた。

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