第25話 【対決Ⅱ】

遠山遥の登場によりの空気は一変した。

対峙たいじする二人の間には、ギリギリとした緊張感がみなぎっている。


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「うわぁ、なんかいきなり修羅場しゅらばだよ・・・それにしても真夕さんは何で怒ってるの? 私のせい?」


真夕さんと遠山遥の神経戦が理解できていない私は、二人の動きについて行けず、戦いから完全に取り残されていた。


そんな中、先に仕掛けたのは遠山遥だった。


「素敵なバッグね、それ。」


「そう、どうもありがとう。」


「見た事無いモデルだけど、まさか中古品なんて事は無いわよねぇ?」


「違うわ。単にあなたが知らないだけ。」


「私が無知だって言いたい訳? どうせでしょう!?」


真夕さんは遠山遥の挑発ちょうはつを全く相手にしない。


「遠山さんのはケリーね。」


真夕さんの指摘に対して遠山遥は得意げな笑みを浮かべると、手に持っていた銀色のバッグを見せつける様にして、待ってましたとばかりに喋り出す。


「分かる? ヒマラヤよ。本当は日本に入って来ないモデルを特別に取り寄せてもらったの。」


「凄いわね。」


真夕さんの返答を聞いた遠山遥は喜色満面になる。


「銀座の本店メゾンに月に一度は行くから、色々と融通ゆうずうが利くのよ。普通のお客じゃ無理ね。」


「そう。」


「あなたも欲しいなら紹介してあげてもいいのよ。」


「遠慮しておくわ。それから一つ確認するけど、あなたはお店に『行く』のね。」


真夕さんの確認がよほど意外だったのだろう。彼女は何を当たり前の事を聞くのかと、怪訝けげんな表情で返答する。


「ええ、そうだけど・・・」


「遠山さん、ご挨拶ありがとう。楽しかったわ。」


真夕さんは有無を言わせぬ圧力で遠山遥に言い放つと、改めて私の方に視線を移す。


「珊瑚、午後の授業に遅れるわよ。」


真夕さんはいつもの表情に戻っていたので、私としては一安心だ。


「あ! 本当だ、急ごう。」


食器トレーを持った真夕さんは、呆気あっけにとられた表情の遠山遥を見ようともせずにスタスタと歩き去ってしまう。


残された私は、遠山遥に軽く会釈えしゃくすると、真夕さんの後を急いで追いかけるのだった。

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