第24話 【対決Ⅰ】

「そうね・・・今の話は30点」


「30点!? いくら何でも低すぎだよ。再審査を要求します。」


「却下」


「それってひどくない?」


午前の授業が終わった私達は、いつものカフェテリアに来ている。


私が高校時代の面白おもしろエピソードを話して、それに彼女まゆさんが点数を付けるというのが、最近の私達のブームだ。


風も無くおだやかな日差しの中、私達はオープンテラスの席でランチを取りながら、他愛のないお喋りを楽しんでいた。


だがここから、彼女と過ごす幸福な時間は一変いっぺんする。


「お話し中失礼。」


不意に話しかけられ、反射的に振り向いた私達の目の前には、一人の女子学生が立っていた。


『うわっ、凄い美人・・・』


私は思わずため息が出そうになる。


元々の素材が良いのはもちろんだが、ヘアセットやメイクは完璧で一分いちぶすきも見当たらない。


朝起きてからまで仕上げるのに、一体どれだけの手間と時間がかかるのだろうかと、他人事ひとごとながら余計な心配をしてしまう程だ。


目の前の彼女はキラキラした美人という表現がピッタリと当てはまる。


真夕さんとはタイプがことなる美人であり、私は彼女が内部進学者である事を確信する。


「お久しぶりね、橘さん。」


にこやかに話しかける彼女に対して、真夕さんの返答は意外なものだった。


「私達に何か御用?」


真夕さんの様子は明らかに普段と異なっており、私は真夕さんの表情をそっとうかがう。


『えっ!?』


彼女は今まで見た事も無いような硬い表情をしていた。

さっきまでの真夕さんとは別人である。


『そうか、これが笹井さんの言っていた、他人を近付けない真夕さんなんだ・・・』


事前に話を聞いていたため、今の真夕さんの変貌へんぼうぶりを見ても、私はそれほど驚かなかった。


「特に用があるわけではないわ、なつかしい顔が見えたので、挨拶に来ただけよ。」


「特に用もないのに挨拶するのであれば、自分から名乗るのが礼儀ではないかしら?」


彼女は真夕さんがはなった一言に激烈げきれつに反応した。


遠山とおやまはるかよ!まさか忘れたとは言わせないわよ!」


「6年ぶりね、遠山さん。」


「・・・まあいいわ、ところで向かいの方は橘さんのお友達? 紹介してもらえると嬉しいわ。」


一瞬の沈黙の後、真夕さんは硬い表情を崩さないまま私に話しかける


「珊瑚、こちらは遠山遥さん。初等部時代の同級生よ。」


「初めまして遠山さん、大汐珊瑚です。」


「ええ、よろしくね。ところであなた、ご出身はどちら?」


「東京ですけど。」


「えぇっ! 東京なの?」


彼女はみょうに芝居がかった口調で驚いて見せる。


「あらぁ、私は地方出身の方とばかり・・・勘違いしてごめんなさいね。」


『ん? 何の事? この人何であやまってるの?』


ポンコツな私は、彼女の丁寧ていねい謝罪しゃざいの裏にある悪意が理解出来ず、曖昧あいまいな言葉を返す。


「いえ、別に・・・」


だがその瞬間、向かいの席から強烈きょうれついかりのオーラを感じた私は、全身をぞくりとふるわせる。


『あれっ? 真夕さん怒ってる?』

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