第12話 【カフェテリア】

「サンゴ? 珍しい名前ね、どう書くの?」


珊瑚礁さんごしょう珊瑚さんごです。めったに使われない漢字だから書ける人も少ないし、今まで同じ名前の人に会った事が無いです。」


「私は書けるわよ。」


私達が今いるのは学生食堂に隣接りんせつしたカフェテリアだ。


フランス語の授業が終わり、昼休みに入った私達は食事のため、カフェテリアに来ている。


麗央れいおう創立150周年記念事業の一環いっかんとして新設されたカフェテリアは、一般の店と比べても遜色そんしょくのないレベルのお洒落しゃれなものであった。


陽当たりの良いカフェテリアのテーブルで、彼女は授業で使っていたノートを取り出すと「珊瑚さんご」の漢字をサラサラと書き始める。


「うわ、凄い。本当に書けている。」


「まるで書けては困るような言い方ね。」


「いや、全然そんなつもりは無くて・・・『珊瑚さんご』はそれくらい珍しい名前だから、友達なんかはみんな私の事を苗字の『大汐おおしお』ではなく『珊瑚さんご』って呼ぶんです。『大汐おおしお』ってどうも発音しにくいみたいで・・・」


「そう・・・では私もあなたの事を『珊瑚さんご』って呼ぶことにするわ。」


「本当ですか!?」


「だってそう呼んで欲しいのでしょう?私の事も『真夕まゆ』でいいわ。」


「よろしくお願いします!」


「・・・あなたって面白い人よね。」


「え!そうかな・・・確かにポンコツの自覚はあります。」


彼女との会話は、私にとって至福しふくの時間だった。


何でニューヨーク映画祭でプレゼンターをしていたのか?

傘を届けた老紳士は誰なのか?


私にとって彼女は謎の多すぎる存在であり、まだまだ聞きたい事は山ほどあったが、彼女の事情がそれを許さなかった。


「さて、そろそろ行かなくてはいけないの。楽しかったわ、珊瑚さんご


「また食事にさそっても良いですか?」


「もちろん」


私は去って行く彼女の姿が見えなくなるまで見送るのだった。

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