第7話 【T.P.O.】

会場にいる招待者は全員がドレスアップしており、本当にはなやかな雰囲気に包まれている。


ホテルのロビーで叔母を見つけた時は、随分ずいぶん派手なドレスに感じられたのだが、会場内のロビーでは全く普通な格好であり、もっと派手でも良いという感覚になるから不思議なものだ。


私の感想を聞いた叔母は満足げにうなずくと、理由を説明してくれる。


「それがTPOって言われるものなの。あなたが大人の女性になるために是非とも身に付けて欲しい常識の一つね。TPOを身に付けるには場数ばかずむ事が重要なのよ。話を聞くより実体験する方がよほど勉強になるわ。」


「言葉としては知っていたけど、こういう事なんだね。」


「出席するイベントの目的は何か?そのイベントでの自分の立場は何なのか?時間は昼か夜か?それによって相応ふさわしい服装が全く違ってくる。TPOは結構奥が深い世界よ。」


「貴重な体験をさせてくれてありがとう。」


珊瑚さんご、あなたは飛行機の中で『麗央れいおう大学に入学した事を後悔している』と話してくれたけど、私はあなたの選択が間違っていたとは思えない。」


「えっ、そうなの?」


「私から見れば麗央れいおう大学の4年間は、あなたにとって有意義な時間になるはずよ。そのために大切なのは、大学時代に一人でも良いから親友を見つける事。何十人の友人より一人の親友を作る方を優先しなさい。親友というのは、それほど得難えがたい存在よ。」


「でも親友なんて、どうやって作れば良いのか分からないよ。」


「そうね・・・そもそも作ろうとして作れるものではないから、簡単には作れない。一人か、多くても精々せいぜい数人が限界ね。だから私は100人の親友がいるなどど言う人を決して信用しない。それはきっと何かの勘違いか単なる嘘つきね。」


「そうなんだ・・・」


「出会いを大切にしなさい、珊瑚さんご。神様がきっと運命の相手に引き合わせてくださるわ。」


「分かった。」


叔母はにっこりと微笑ほほえむと話題を変える。


「あそこにバーがあるわ、行ってみましょう。」


そこは来場者が開場までの待ち時間を過ごすために用意された、即席のバーである。


即席とは言え、初めてバーを利用する私は興味津々きょうみしんしんで叔母の後を追いかけるのだった。

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