第6話 【Identity check】

「大人気だったじゃない。振り袖にして正解だったわ。」


「・・・・・・」


私は叔母の軽口に対して怒る気力も無くしていた。


そんな私に叔母は更に追い打ちをかける。


「あれだけ歓声を頂いたのに、何でみんなに手を振らないのよ、全く情けないわねぇ」


「いや、そんなの無理だし・・・」


そう、叔母は最初からそういう人なのだ。


抗議が無駄である事を悟った私は、あえて何も反論しなかった。


「ところで招待者がリムジンで送迎される理由は理解したかしら?」


「何だろう?・・・雰囲気作りのためかな。」


「的外れではないけど、正解とは言えないレベルね。いい、主催者が大勢の出席者の顔を全部覚える事なんて不可能だって事は分かるわよね?それでゲストが地下鉄の駅から歩いて会場に入ろうとしたらどうなると思う?」


「それは入り口で招待状を見せる事になると思う。」


「正解。会場の入り口で身元チェックをしなければならなくなる。でもそれってすごく格好悪いし、見栄みばえがしないと思わない?少なくともイベントとしては致命傷ね。」


「まあ、確かに・・・」


「主催者がチャーターしたリムジンで会場に乗り付けて、中からドレスアップした男女が出てきたら、誰の目にも招待者だって分かるでしょう?そうすれば身元チェックが不要になるし、何よりはなやかな雰囲気を演出できるじゃない。ニューヨークにはリムジンカーが山ほどあって競争も激しいから、リムジンのチャーター料って思ったほど高くないのよ。つまりニューヨークでは、これが一番合理的な方法という訳。」


「私はリムジンで会場入りするとか、そういうのは俳優さんの役目だと思っていたよ。」


「むしろ逆ね。顔を知られていない私達こそリムジンで来るべきなのよ。」


「確かにそうだね。」


最初に説明が無かったのは不本意ながら、叔母の説明には納得せざるを得なかかった。


そして叔母のサプライズが終わる訳が無い事を、私はなかば確信していた。

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