第4話 【Stretch limousine】

待ち合わせ時間の少し前にホテルのロビーに戻った時には、すで身支度みじたくを終えた叔母が私を待っていた。


「お待たせ」


「時間通りね、珊瑚さんご迷子まいごになってないかと少し心配したわ。」


「あの距離ならさすがに迷子まいごにならないよ。」


Worldワールド Tradeトレード Centerセンターはどうだった?」


「そうだね・・・本当に行って良かったと思う。」


ニューヨーク国際映画祭の授賞式はTimesタイムズ Squareスクエアで行われる。


私たちが今いるLowerロウアー ManhattanマンハッタンManhattanマンハッタンのビジネス街であるのに対して、Centralセントラル Parkパークの南に位置するMidtownミッドタウンManhattanマンハッタン繫華街はんかがいであり、その中心となる場所がTimesタイムズ Squareスクエアである。


つまりニューヨークの文化・観光の中心地がTimesタイムズ Squareスクエアと言っても過言ではない。


そこはアメリカ国内はもちろんの事、世界中から観光客が集まる超有名スポットだ。


ニューヨーク市地下鉄の「Timesタイムズ Squareスクエア42nd42 Street丁目」駅は複数の路線が交差こうさするターミナル駅であり、Lowerロウアー ManhattanマンハッタンからTimesタイムズ Squareスクエアに行くためには地下鉄が最も便利な交通機関である。


「会場には地下鉄で行くんだよね?」


私の質問に対して叔母は首を振る。


「じゃあタクシーで行くの?」


「それも不正解」


「まさか徒歩とか・・・」


「そんなわけないでしょう。」


「分かった!バスだ。」


「いい、私たちは観光客ではなく映画祭の受賞者として正式に招待されたのよ。」


「?」


「とにかく付いていらっしゃい。」


そう言うと叔母はと一人で歩きだしてしまう。


私はわけが分からないまま、叔母を追いかける。


「ここで待ちましょう。」


叔母はエントランスから外に出ると車寄せの前で立ち止まった。


『待つって、タクシーじゃないんだよね・・・』


そんな疑問を感じていた私に叔母が話しかける。


「来たわよ。」


『えっ!?』


叔母が指差した先に見えたのは巨大なリムジンカーがホテルに入って来る光景だった。


車寄せを進んだリムジンカーは、私たちの前にピタリと止まる。


直ぐにドアマンが車に近付き、慣れた手つきで後部座席のドアを開ける。


「どうぞ、マダム。」


「ありがとう」


叔母はな表情のまま、私に指示を出す。


「あなたが先に乗りなさい。」


叔母にうながされ、私は恐る恐るリムジンカーに乗り込む。


リムジンカーに乗るなんて、もちろん初めての体験だ。


私と叔母が乗り込んだところで、再び車のドアは閉じられ、リムジンはなめらかに動き出す。


「びっくりした?」


「これでびっくりしない人がいるなら、会ってみたいよ!」


いたずらっぽく笑う叔母に対し、私は精一杯の抗議をする。


しばらくして少し落ち着きを取り戻した私は、リムジンに乗せられてからずっと感じていた疑問を口にする。


「いくら私達がゲストだからって、一々リムジンでお出迎えなんて、大袈裟おおげさ過ぎない?」


「それがアメリカン・スタイルなの。それにリムジンで送迎そうげいするのだって、ちゃんと意味があるのよ。」


「どんな?」


「直ぐに分かるわ」


そう、リムジンカーの送迎など、今日のイベントの序章じょしょうに過ぎない事を、私は直ぐに理解する事になる。

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