第2話 【カルチャーショック】

入学直後の大学生は、それなりに忙しい。


学生証や通学定期券を始めとした細かい手続きが沢山あり、講義についてもオリエンテーションへの参加や英語以外の第二外国語の選択をしなければならない。


大学は高校と違い、必修科目以外は授業を選択する必要があるため、履修りしゅう計画も自分で立てる事になる。


卒業に必要な単位数は決まっているので、専門課程に進む前に出来るだけ沢山の単位を取っておいた方が後々有利だ。


私にとっては余計な事を考える暇が無くなるため、忙しい毎日はかえって有難かった。


学校に馴染なじむために手っ取り早く友達を見つけるだけであれば、サークルに入るのが一番の近道である事は分かっているのだが、そのためにサークルに入るのも何か違う気がして、なかなか行動に移せないでいた。


自分にとっての充実した学生生活が何であるかを見つけられないまま、あっという間にゴールデンウィークも過ぎ、授業が本格的に始まった頃には、少しは周りを見回す余裕が出てきた。


私が最初に気が付いたのは、学内には附属高校出身者のグループが厳然げんぜんとして存在するという事実だ。


附属高校からの内部進学者は、高校時代の友人関係が大学でもそのまま引き継がれるため、極端に言えば肩書が大学生に変わるだけで、置かれた環境は高校時代とさほど変わらない。


そのため内部進学者達からは、新しい環境への不安といった要素は全く感じられない。


彼らの多くは保守的で、私のような外部生に興味は無く、積極的に関わろうともしないため、こちらからはにわかに近寄りがたい集団を形成している。


そのため同じ麗央れいおう大学生でありながら、実際には入学直後から内部進学者のグループと外部生のグループに自然と分かれていく事になる。


そして私は、内部進学者のグループはもちろん、外部生のグループにも属していない。


どのグループにも属さず、我が道を行くというと聞こえは良いが、実際には孤立しているというのが真実だ。


次に気が付いたのは、同級生たちのファッションだ。


特に内部進学者の女子学生のファッションは高度に洗練されており、それらに無頓着むとんちゃくである私ですら、彼女たちが身に付けている服やアイテムが尋常でない事が分かる。


それよりも意外だったのは、地方出身の外部生であっても内部進学者程ではないものの、十分に洗練されている女子が多いという事実だ。


わざわざ東京の麗央れいおう大学に進むような女子学生は、地方の名家出身めいかしゅっしんである場合も多く、一見すると内部進学者と同じような格好をしているのだが、良く見るとファッション雑誌の受け売りのような印象があり、着こなしの部分で内部進学者には敵わない。


とはいえ一応は東京出身の私より洗練されているのも事実である。


下町育ちの私はブランドにはあまり興味が無く、清潔でこざっぱりした格好であれば十分という考えであった。


両親や親戚、近所の友達も皆同じようなもので、私の地元にブランドで着飾っている人など誰もいなかった。


そんな私の地元の「常識」は、ここ麗央れいおうでは「非常識」になりかねないのだ。


私にとって、麗央れいおうでの毎日はカルチャーショックの連続であった。

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