何かを裏切った青年

キノハタ

裏切りついて考えた

 もしかしたらあの時頑張るべきだったのかな。


 前を見るべきだったのかな。


 自分を犠牲にして、人を傷つけてしまわないべきだったのかな。


 僕は自分を守ると決めたけど。そのために裏切ったけど。


 そうやって、わかったことがある。


 裏切りとは本当に、本当に何もかも捨ててしまうことなんだ。


 あそこで得た経験も、信用も、感情も、何もかも。


 それでも前に進みたかったのかい?


 それでも自分の心を守りたかったのかい?


 それでも歌いたかったのかい?


 わからない。


 あのときはそれが正しいと思ったけど、それがどうなのかは分からなかった。


 でも過去はもう変わらない。


 選択肢は巻き戻せない。


 大事な選択だった。


 きっとどちらを選んでも、何が正しいのかはわからないままだったんだろう。


 どちらを選んでも、これでよかったのかなって考え続けたんだろう。


 わからない。


 わからないんだ。


 きっと、どう転んでも痛かったろう。


 ただ、それでも、どう転ぶかは自分で選んだんだ。


 そう、想った。


 時は進む。今は続く。


 今できることは、この痛みを抱えてなお、前を向くことだけだ。


 終わりは見えない。それを思うと、怖い。


 怖い。


 そうか。


 いつか僕の人生も終わりが来るんだもんな。怖いな。


 でも、怖いけど、歩こうか。


 気楽に、鼻歌歌いながら、楽しんで、おっかなびっくり歩いていこう。


 どうなるかはわからない。わからないならせめて楽しんで歩いていきたい。


 いつか、嫌でも終わりは来るのだから。


 とりあえず、心配ごとは棚上げにでもして。


 今を歩いていこう。


 人を裏切って、憎まれて、そうまでして自分を守った。生き延びた。


 そうまでして、僕は僕を突き通した。


 突き通したんだ。


 さあ、続きを始めようか。


 これが僕の人生だ。


 精々、高らかに唄うさ、声高に吼えるさ、あらん限りを叫び続けるさ。


 これが僕だと、歌い続けるさ。


 歓声と罵倒と、好奇と無関心と、親愛と孤独を花束にして受け取りながら。


 僕は僕を歌い続けるんだ。


 いつまでも、いつまでも。





 フィナーレはまだこない。

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何かを裏切った青年 キノハタ @kinohata

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