第4話 魔女、魔性、弾丸
「怒っちゃった」
語尾はぁと、って感じで言ったのだが橋口は険しい表情を崩さなかった。
「……お嬢も中にいるって言ったらマジでブチ切れた。自由に電話してきたってことは、迎えの人たち無事か分かんないよ」
より険しくなった。まあな。
で、この後すぐ
しかし、今更仕方がない。お嬢には人の庇護欲をそそる異常な何かがあり、私は飛び込んできてしまった。このお嬢ときたら、かつて敵対する組の幹部にすら助けられたことがあるほどの実力なのだ。なんかもう暴力の域。私もこんなこととは思ってなかった。
お嬢の持つ効果は、お嬢に意識がないと観測できない。それを私は、石川の知己として初めてお嬢に会ったその場で認識した。
異常な人間だった。知り合った後で徐々に判明したが、この特性が原因でお嬢の周りでは何人もの人間が死んだり再起不能になったりしている。こういう人間を私たち魔女は『魔性』と呼ぶ。契約や代償やその意志によってではなく、元から魔法相当の力を発し、しかもコントロールできない特異な人間。
ということは、
……いや、今それどころではない。
「因みに他の人たちは」
と私は聞いた。
「お嬢がいるのに事務所に
「たまたま出払ってる。店の揉め事がいくつか重なってな。俺と長谷井さんだけこっちに。手薄になるんで、帰った奴らを呼び戻したところだった」
じゃあそいつらが
そうだ長谷井は、とお嬢が久し振りに喋った。もう泣き顔になっている。
ああそうだよな、と私も思う。長谷井はどうした?
あの雨の日、
「長谷井はいつも、助けてくれるのに」
橋口が少し痛そうな顔をした。目下最大のライバルなんだろうね。それから橋口もお嬢も不思議そうな表情に変わった。私が笑ったからだ。
何かもう潮時っぽいしな。魔女らしく人を惑わせていこうかな。
「長谷井はいつもあんたを
「え、」
「お嬢が別の組の男にストーカーされたのも学校で友達できなかったのも短大から辞めてくれって言われたのもシャブやめらんなかったのも長谷井の仕込みだし、冷たいのキメて雨ン中にブッ倒れてたお嬢を助けたのはほんとは別の人間だ。長谷井は運ばれてきたお嬢を受け取って自分が拾ったと言っただけ。いつも長谷井がお嬢にトラブルを仕掛け、自分の印象を上げてる」
「
何でって、私は魔女だから。
私が
魔女と
深く吸い込んで、煙を吐いた。
煙は見る間に白から紫へ色を変え、煙草を持った手を巻き込んで覆い隠した。密度を増しながら紫から黒へ。煙から強化プラスチックと金属へ。三秒も掛からず、私の手には愛用の
気配。殺気。悪霊のウチにいるからどれが誰のものなのかどうにも渾然一体としているけれど、何にせよ私がするべきことは変わらないし、私の弾丸は
「聞こえてんだろう、
腹から声を出した。手の中のグロック18Cはロングマガジン装着済み。既にフルオートで、ウチから悪霊の壁に着弾開始している。円を描くように。
そのソトから、夜気を斬り裂いて一発の7.62ロシアンが突進してくるのを感じる。
私は
そして、本物の銃じゃないから、本物の銃や弾丸と同じ動きはしない。
私の弾丸は私の望む場所に着弾し、
本人がそう望む限り、必ず。
鋭い轟音が重なりながら鳴り響いて、そして。
私の両膝が撃ち抜かれて血を噴いた。
その瞬間、私は理解した。
やっべ。
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