第2話 魔女のスマホは死ぬ
とはいえ私は、特別戦闘に優れた魔女というわけではない。正直、喧嘩強い魔女ってのは攻撃魔法をコレクションした奇人か、元々物理の喧嘩が強いか、バチクソ頭がいいか、いずれにせよレア物なのだ。私は物理喧嘩派だったが今は流石に年を取ったし、そもそもここはやくざの事務所。いるのはただの人間でも、数が多いし飛び道具を持ってるから油断はできない。
とりあえず、勝手知ったるビル内を走ってお嬢を探した。お嬢はあまり理性的な方じゃないから、一緒にいるという若衆の橋口が正気を保っているかどうかがカギである。
「
いつもの部屋から声がして、お嬢が顔を出している。
「他に誰いる?
駆け寄りながら聞くと、呼びましたよ、と橋口の低い声が答えた。お嬢の後ろに立つ元柔道部を見て、あらら、と思う。ブチ切れていらっしゃる。
「……石川の野郎、半端な仕事しやがって。連絡つかねえって抜かすんでね、若い連中を迎えにやりました。あんたもですよ、
「ちょっと
なるほど、石川が
人間は見たものにストーリーを当てはめる。そしてやくざは、しくじりの落とし前を求める。微妙に面倒くさいことになってきた。
「迎えにって、
「どうだかね。
「盛大に誤解してんなあ……」
「とりあえずお嬢の安全確保が第一だ。
「難しいよ、ここ体内だから。怪異はまず原因が分からないと」
ひたりと首筋に刃物が当たる感触があった。そうね、格闘技経験者、図体デカいのに猫みたいに動けるヤツいるよね。やだぁ、流石に首ごと飛ばされたら面倒くさい。
面倒くさい橋口が面倒くさい面構えで私を見ていた。
「お願いしてるんじゃないんですよ。立場分かるか?」
「あんたがどう思ってるかは分かるよ」
お嬢は口を挟まない。
それにしても、ここからの単独突破は本当に難しいんだがな。
「
片手に持ったスマホを揺らしながら私は言った。ガラスフィルムはバキバキに割れている。
「駄目だ」
「こういうのはウチとソトの両側からブチ抜くほうが安全なんだよ」
「あいつは石川の弟子だろ。何するか、」
ぱりらりらるららりるぽん!
スマホに着信があった。
ぱりらりらるららりるぽん! ぱりらりらるららりるぽん!
スマホに着信相手の名前が表示される。めちゃくちゃ珍しい。
「噂をすればよ。出るかんね」
橋口は
大体、橋口が
「はいよ
『
ですよね〜。
『誰かが封を喰った』
「だな。石川がこんなヘマするはずない」
『中に入ったのか、
「後の祭りよ。お嬢がいるもんだからつい来ちゃった」
めきょ、と片手の中で何かがひしゃげ、こちらを見ていた橋口が表情を変えた。ひゃっ、と可愛い声を上げてお嬢が橋口の後ろに一歩引く。
私のスマホが曲がってる。上辺と下辺が見事にねじれの位置に。画面はもう点灯していない。死んだ。それなのに声はした。
『……
ああ、怒った。本気で。
本気の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます