第6話 テープ

この作業を早く終わらせなくてはいけない。


きちんと線に沿って、テープを引く。


なんてことはないのだが、この蒸し暑い体育館の中でやる作業は、地獄だ。


背を屈めながら行う作業で、真っすぐに線に沿って、テープを引く。


なんてことはない作業だが、汗で目がかすんでどうしてもずれてしまう。


一ミリでもずれるとすぐに年配の罵声が飛んでくる。


「おいっ!ずれてんじゃねぇかっ!」


それは、分かってるが、こんな無意味なことをやらせるのは、どう見ても拷問でしかない。


「す……、すみません。す、少し……だけ、や、休ませてもらえませんか?」


弱音を吐いた奴がいた。


両腕両足が細く、たくましい体つきではないため、いかにもぶっ倒れそうであった。


なぜああいう奴までここに残っているのか分からない。


人のこと言えないが……。


「も、もうダメです…。」ドタンッ!ブチッ!


ぶっ倒れると同時に、あのか弱い体が引き裂かれた。


「おいっ!テープもってこい!お前らこいつを早くテープでぐるぐる巻いてつなげ!」


「いくら、テープでつないでもそれは別なテープなので、元のテープではないですよ。」


すかさず俺は反論した。


「お前も引きちぎれたいか?」


どすの利いた声で俺を脅してきやがった。


だが、俺はそれ以上何も言わなかった。


テープであのか弱い体をぐるぐる巻きにすると、そいつはさっきみたいに動けるようになった。


作業はまだまだ続く。


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