第3話 鍬
「ほれ、掘りに行くぞぉ。」
爺ちゃんの農作業の手伝いに行くことになった。
ただ、何を掘りに行くのか何も聞いていなかったので、「何を掘りに行くのよ」と聞いたところ、「新鮮なものだ。」と言った。
爺ちゃんは詳しいことは言わない。
そんな人だから。
「鍬軽トラに積んどけ。大事なもん耕したり、掘ったりするんだから。」
俺は、言われた通り作業小屋から鍬を二挺持ってきて、軽トラに積んだ。
「あれ、籠とか何か入れるものいらねえの?」
俺がそう聞くと、爺ちゃんは少し不機嫌そうな顔をして、
「新鮮なもんだからいらねぇよ。」と応えた。
畑自体は、家から少し離れた山の中にあるため、軽トラで移動することが多い。
まあ、俺は何を育てているのかよく分からないけど……。
(ん?なんで毎回行ってるのに分からないんだっけ?)
山の中を通り、畑につくと俺と爺ちゃんは、軽トラを降りて早速作業に取り掛かった。
俺は鍬を使って、爺ちゃんの指示された場所を鍬を使って耕し始めた。
意外にこの鍬なれればいいが、最初のうちはやりづらいのなんのって。
足をレの字に開いて、鍬を土に挿し込むまではいいが、土を持ちあげにくいのだ。
「鍬からいろんなものが流れ出て、そこから新しいものが生まれてくるのよ。」
作業しながらで疲れてもいたので、爺ちゃんが何を言っているのか分からなかった。
気づくとどういうわけか俺は、土の中から爺ちゃんの顔を鍬で掬っていることに気づいた。
「え、ナニコレ?」
爺ちゃんの方を見ると、爺ちゃんは、俺の顔と体を次々と鍬で掬っているところだった。
「え、まじなんなん?」
もう何が何やら。
「ほら、新鮮なものが出てきたろう。」
爺ちゃんは満面の笑みだった。
――――
野良仕事が終わって、軽トラに乗る前に、爺ちゃんは言った。
「やっぱり俺んところのは新鮮だよなぁ。お前、ちゃんと前の体は畑に鋤きこんできたんだろう。」
「ああ、やったよ。」
来年もまた鍬を持って畑に行く。
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