第15話 復活、スケルトンドラゴン~骨はもう飽きた~
ごろりと転がるミートドラゴンの生首、それはたちまち腐り落ちて骨だけになる身体も同様だ。魔王に首を刎ねられて死んだ。俺が倒せなかったのは心底、残念だし、新しく手に入れた力は暴走形態だし、あまり実りある戦いとは言えなかった。
「ねぇ、ウルスラ? つぎはどーするの?」
「決まっている。大罪幹部を全て滅ぼし、魔王に挑む」
「やっぱりかー」
大罪幹部というのは初めて聞くワードだが、流れからしてこの「暴食」のミートドラゴンのように、大罪に関連した幹部が居るのだろう。そいつらは瀕死になっても魔王を呼び出すような腑抜けじゃないといいのだが……。
イカルガは腰を抜かしたまま。
「ま、魔王……? あんなの倒せんのかよ!? だってミートドラゴンを一撃で!」
「ミートドラゴンなんてらくしょー。だったしー、魔王のじゃまさえなければねー」
「ふはははは! それでこそ相棒!」
「狂ってやがる……」
からんころん、からんころん。
そんな音が鳴り響く。
なんだなんだと辺りを見やれば、散らばったミートドラゴンの骨が一か所に集まっていく。
「なぁにあれ?」
「……まさか」
「おいおいおい嘘だろ!?」
それは竜の形を作り出す。ミートドラゴンのシルエットとは程遠い、スマートな骨格。長い尻尾に鋭い手足。獰猛な相貌に、暗い
「スケルトンドラゴン……!」
「へ? ミートドラゴンじゃなくて?」
「あの野郎、復活しやがった……!」
『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
スケルトンドラゴンと呼ばれた竜の骨が咆哮する。そこにもう理性は無い。
「ちょちょちょ、イカルガ、ホーリーレイ、ホーリーレイ」
「そんな急に言われても……!」
「相棒、俺らでまたこいつを抑えるぞ」
「しっかたないなー。へいへーい、やせてかえってきてももうおそいよー、ていうかガリ過ぎでしょ♪」
嗤ってやった。怒ったように咆哮し突撃してくるスケルトンドラゴン。それを受け止めるミートドラゴンの筋力はS、筋肉が無くなったこいつのパワーなどたかが知れている。こちとらEXでやらせてもらってるんでね。そう思って天地がひっくり返った。
「?」
気づいた時には洞窟の天井を見上げていた。
おかしい。
たしかにスケルトンドラゴンを受け止めたはず――
「おい相棒! そんなとこで倒れるな! 死ぬぞ!」
「はっ!?」
それでようやく俺は吹き飛ばされたのだと悟る。急いで飛び上がって、スケルトンドラゴンの踏みつけを躱す、それは地面に亀裂を走らせた。
「ミートドラゴンの時よりパワーがあがってる??」
「みたいだな、恐らく魔力の
「あいつあの一瞬でそんな事……!」
その時だった。
スケルトンドラゴンが一歩下がる。何かの予兆。ホーリーレイの詠唱を続けるイカルガを守る様に俺達も下がる。対峙する一体と三人。
「毒の吐息だ! 絶対に吸い込むな! 身体が腐り落ちるぞ!
重力によって毒煙が地面を這う。攻略法はミートドラゴン+スケルトンと考えて問題なさそうだ。しかしこのままじゃジリ貧なのも事実。ホーリーレイの詠唱完了まであと数分、どう稼ぐ。毒煙が洞窟に満ちる前にケリを付けなければならない。
「
「馬鹿野郎! あんな暴走技使ってみろ! 毒煙を吸い込んで即死だ!」
「やってみなくちゃ、わかんないじゃんっ?」
「我、光集う元に精霊の呼び声を――」
ホーリーレイの詠唱は続いている。今、スケルトンドラゴンを抑え込めるのは俺しかいない。
祈る――
――
血を纏う俺、四足歩行の獣と化す。俺は跳躍し、天井に爪を立てて捕まる。そのままスケルトンドラゴンに迫る。手足の爪で洞窟の壁を掴みながら。
スケルトンドラゴンはウルスラとイカルガに気を取られ、それに気づかない。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
俺は、私は、その獣性を振るう。砕く、爪で切り裂く、斧で切り裂く、牙で噛み砕く、潰す、捻る、切る斬るkill……。
スケルトンドラゴンを徹底的に潰して行く。粉にする。デジャブ。スケルトンの町を思い出す。なんだ、いつもと変わらないじゃないか。大丈夫、私は正常だ。この力をコントロールしている。
俺は安心感に包まれる。
スケルトンドラゴンの手足がバタバタと本体を求めてもがいている。
邪魔だ、潰す。
その刹那――
骨の手足が宙を飛んで俺を掴む。
「ガァッ!?」
身動きが取れない。スケルトンドラゴンの頭が復活する。毒煙が口内に充満する。吐き出す気だ。その瞬間。
「ったく世話の焼ける!」
「いいか! その頭は壊すなよ!」
「ガァ!」
了解の意を叫びで伝える。伝わっただろうか。後は、復活しようとする胴体、手足を砕く作業が続く。そしてホーリーレイの詠唱が終わる。
「光射せ! ホーリーレイ!」
洞窟の外から極光が差し込む。スケルトンドラゴンは浄化され煙と化した。
終わった。俺は
「ふぅ、らくしょーだったね」
「よく言う」
「本当だよ……お前らワタシがいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「「……」」
俺とウルスラは顔を見合わせた。どうしたのだろう。結局、この暴食の地はホーリーレイもといイカルガがいなくては勝てなかった……?
俺達は仕方なく素直に。
「「ありがとうございましたー」」
と言った。
イカルガは呆れたような顔をしている。それがなんだが可笑しくて笑い合った。平和なひと時、この一瞬だけは、魔王幹部だとか白の王だとか、そう言う事を忘れさせてくれたのだった。
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