第16話 疑問、その二


 

 夢の中、揺蕩う光芒。この感覚は覚えがある。地球とローリガルドの境界。ミケとの交信タイムだ。十二単に不思議な三色の髪の毛をした少女が現れる。


「お久しぶりです」

「おう、なんか此処に来ると不思議な気分だ」

「そうでしょうね、此処は死後の世界のようなモノですから」

「さながら臨死体験か……」


 笑えるような、笑えないような。まあいい。色々と聞かなきゃいけない事があるだろう。というか、物申したい事がある。俺は一つ溜め息を吐く。首を傾げるミケ。


「なあミケ」

「はい、なんでしょう」

「なんか違う」

「はい?」


 俺は結構、意を決して言い放った。


獣性開放ビーストリベレーションはなんか違う」

「えぇ!?」


 なんかすごい驚かれた。いやだってさぁ。幼女の暴走形態ってなんだよ。分かんねぇよ。俺に生まれつつある別人格っぽいのはなんか喜んでるっていうか、恍惚としてたけど……あいつに主導権を握らせちゃいけない気がする。俺のアイデンティティとして。その事もミケに伝える。


「……そうですか、あれも貴方の願望を酌んだものだったのですが」

「……俺の願望じゃなくて、持ち物からの推測だよね? それも結構、邪推に近い」

「邪推とは失敬な」

「いやいやいや」


 互いに譲らない。時間も無いし、決着は着けておきたい。


「譲らないつもりなら弱みを握らせてもらうぞ」

「むっ、なんですか」

「幼女裁判」

「ぐっ!? その事はもう責めないと!」

「人間の手の平なめんな! ぐるぐる回るんだよ!」

「誇るとこですか! この馬鹿!」


 ぐぬぬと言った表情でミケは歯を食いしばる。そしてしばらくしてやれやれと首を振る。そのポーズはどっちかと言えば俺の物じゃないのか。


「分かりました譲歩しましょう。獣性開放のスキル変更と別人格の封印。それで構いませんか?」

「……おお! おお! やってくれるのか! 出来るのか!」

「私はしがない猫又なんですからね。あんまり期待しないで下さい……むむむっ」


 俺の身体に光が集う。そしてパキンと何かが割れる音が響いた。えっ。今の人体(今は魂)からしていい音?


「はい出来ましたよ」

「あ、ありがとう」

「今日は疲れたので帰ります」

「あっ、ちょっと待った」

「はい? なんです? そろそろ夜明けですよ?」

「魔王幹部の事、教えてくれ」


 ミケがきょとん、となる。


「ふむ、そういえば暴食を倒したんですね」

「そんなあっさり、結構苦労したよ?」

「そうですかね、奴は七人衆の中でも雑魚……」

「七人衆って何!? あんなのが七人もいんの!?」


 スケルトンの都市を丸々一つ作り上げてしまうような化け物がまだ残り六体? 魔王討伐なんて夢のまた夢じゃないか。俺はがっくりと肩を落とす。そこにポンと手を置くミケ。慰めてくれるのか……?


「どんまい!」

「軽いなオイ!」

「まあそれは冗談として」

「悪質だよ!」


 こんなキャラだっけこいつ……。


人外獣理じんがいじゅうり、というのをご存じですか?」

「いや知らんが」

「七人衆に与えられた異能です。今回の暴食は『再生骨体都市さいせいこったいとし』となります」

「へー……んで?」

「それを貴方に授けましょう。そうすれば他の七人衆とも渡り合えるようになるはずです」

「その再生骨体都市とやらを扱い切れる自信が無いのだが!?」

「そこは、気合いで」


 気合い、便利な言葉だ。気合い、嫌いな言葉だ。しかし、やるしかない。文字通り二度目の人生なのだ。ここで踏ん張らなくていつ踏ん張る。俺は頬を叩いて覚悟を決める。


「よし! 頼む!」

「ではこの詠唱を覚えてください。『喰らえ、喰らえ、喰らえ。生とはこの世に生まれた者に課せられた絶対の摂理である。死とは、逃れられぬカルマである。故に――三色みしきの女神よ、私は再生を望みます。血肉が腐り流れ消えても残る骨が永遠に動くような絶対的な再生を。この世に顕現せよ人外獣理第一番、再生骨体都市』……以上です」


 ――うん。


「なげぇ!」

「わがままですね……」

「いや長いもん! 前線じゃ実用性皆無だよ!?」


 いつも後ろにスタンバっているイカルガのようなポジションならともかく、今の俺は戦斧を持ったアタッカーなのだ。そんな詠唱をしてる時間は無い。


「では、詠唱破棄の契約をしましょう。契約主である私と」


 やっぱり三色の女神ってミケ本人の事だったのか……。


「なんでミケが契約主なんだ?」


 根本的な疑問が湧き出る。すると、ミケはそんな簡単な事も分からないのか。とでも言いたげな溜め息を吐く。こ、こいつ……!


「いいですか? 人外獣理とは元々、白の王の技です」

「へー」

「それを倒し、技を簒奪したのは貴方です」

「いつの間に」


 ミケ、これを簡単にスルー。


「そして信仰の対象を失った人外獣理が行き着く先は自然、私というわけです」

「いや分からん。ウルスラのとこの神様って線もあるだろ」

「ありません。あっちの神様はお忙しいですから。こんな風にマンツーマンで接するのは貴方と私だけです」


 うーむ、他にも転生者が居る中で、それはデカいアドバンテージなんだろうが……イマイチ納得がいかない。悪い神様にたぶらかされているみたいだ。しかし、今は飲み込むしかない。


「分かったよ、三色の女神(笑)」

「今なんか余計なワード混ぜましたね? 分かるんですよ? 神通力で」

「ほーん」

「疑ってますね? 天罰、下しましょうか?」

「猫又」

「怒りました」


 俺は落雷に撃たれた。夢の中じゃなかったら即死だった。


「いってぇ!?」

「ふん、では詠唱破棄の契約を行います」

「……はい」

「では……『我、命じるは人外たる獣のことわり。しかして、その祈りは容易いものであらんとす。ならば叶えよう。念じよ!』……はい念じて」

「えっ、あっ、はい」


 人外獣理とやらが短くなりますように……。人外獣理とやらが短くなりますように……。


「はい、これで『人外獣理第一番、発動』と言うだけで再生骨体都市が展開出来るようになりましたよ。これで貴方は実質、不死身です」

「骨だけは嫌だけどな……」

「大量のスケルトンの部下のおまけ付きです」

「そっちが本命かな……」


 ――ろ。――きろ。――起きろ。


「ん? なんか聞こえる?」

「ほら、寝坊ですよ」

「え?」

「起きろ! 寝坊助!」

「うわぁ!? ってイカルガ?」


 此処はウルスラの船の上だった。場所は砂漠……ではない。海の上。新天地へと向けて、俺達は旅立っていたのだった。

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