第8話 大砂漠の女王、砂賊登場。


 オアシスギルドに帰って来て『念写』を受付の水晶に照らし出すと、受付嬢から報酬が貰えた。


「驚きました、本当にオオサソリを狩ってくるなんて、本当に嗜虐的な殺戮者サディスティックマーダーなんですね」

「あはは、その呼び方やめてほしーなーなんてー」

「いいじゃねぇか相棒! このまま天下にその名を轟かせてやろうぜ!」


 天下に轟くのはマズい。また魔王が来る……!


「あははー、ソダネー」


 しかし世間体との板挟みで無下にも出来ない……!


「さ、この金で一杯やろうぜ!」

「う、うん」


 そんな時だった。

 ギルドに駆け込んでくる男が一人。


「大変だ! 砂賊が来たぞぉ!」


 騒めくギルド内、またか、また来やがったか、畜生。などと言った声が響く。


「え、なになに」

「砂賊だ。略奪を繰り返す無法者……ギルドも手を焼いてる……」 


 海賊の砂漠版だろうか? そんなものがいるとは。

 むう、つまり相手は人間か?

 人間相手にこの血の戦斧ブラッディアックスを振るうのはいささか気が引ける。

 しかし、困ってる人たちを見捨てても置けないだろう。

 仕方ない。やろう。


「あのー、よければあたしが止めて来ますよ、その砂賊ってひとたち」


 静まり返るギルド。あれ、おかしなこと言ったかな。

 しかし、一転。


「うおお!! 幼女様が行ってくれるなら安心だ!」

「やっと砂賊から解放される!」

「このオアシスに平穏が戻るんだ!」


 ギルドが歓声に包まれる。

 おっとぉ? 過度な期待は止めて欲しいぞぉ?


「本気か相棒? あの砂漠の女王相手に……」

「砂漠の女王?」

「そうだ、お前と同じ幼女だ」

「……転生者って事か」


 転生者が幼女裁判を潜り抜けて、略奪を繰り返している?

 どういう事だ? それのどこが幼女なんだ。

 いや待てよ、確か幼女裁判の項目は三つ。

 持ってる武器。

 言動。

 魔王の莫大な魔力に耐えきれるかどうか。

 この内、二つに合格すればいい。

 つまりだ。


「……幼女裁判で魔王の魔力を受け止めた……?」


 それしか答えはない。

 イカルガが黙って頷いた。

 どうやらそうらしい。


「元々はこの近くにあった村の神殿から召喚された幼女だった。けどある日来た魔王から魔力を与えられて以降、魔王軍の手先みたいになっちまった。モンスターを従えて暴れ回る砂賊にな。おかげでもうその村も神殿も無い」


 大変な事になった。自分よりレベルが上の幼女。

 勝てるか怪しくなってきた。

 しかし安請け合いしてしまったからには後には引けない。

 仕方ないから一杯やってから行こうそうしようと現実逃避していると。


「砂賊の船が近くまでやって来やがった! ギルドに砲撃する気だ!」

「マズい事になった相棒! 俺は魔法で障壁を張って来る! 相棒はその間に砂賊本体を叩いてくれ!」

「えっ」


 二の句が継げぬまま、置いていかれた。

 えぇ……どうしろと。

 仕方なくギルドを出る。

 オアシスは阿鼻叫喚だった。

 逃げ惑う人々。

 撃ち込まれる砲撃にて砂柱が上がる。

 確かに遠くに砂漠を駆ける船が見えた。

 なんかデカいミミズに引っ張られながら進んでいる。


「……あのミミズをやっつければ止まるかなぁ」


 そんな風に楽にすめばいいが。

 仕方ないからオアシスを飛び出した。

 

 砂漠を駆ける。

 筋力EXに身を任せ、船へと急接近する。

 砲撃を右へ左へと躱してミミズへ迫る。

 乱杭歯を剥き出しにしたミミズが襲って来る。

 戦斧を構え、両断する。


「あっは! よわーい♡ 来世で頑張ってね♪」


 これが嗜虐的な殺戮者サディスティックマーダーか。

 我ながら理想の幼女像からどんどん外れていくのを実感する。

 しかし、これで船は停止した。

 かに思われた。

 


「……感知サーチ


 船自体に魔力反応、魔法で浮いている。

 それに中心部に極大の魔力。あれが女王か。

 船対俺の第二ラウンドが始まった。


開放リベレーション!」


 衝撃波を飛ばす。

 船の一部が弾け飛ぶ。

 俺はにやりと笑った。


「あはっ! そんなボロ船で相手になるのかなー☆」


 途端に降り注ぐ砲撃をステップで躱す。

 開放を繰り返し、船を削る。


「ざぁこざぁこ♡ もっと出しなさいよほらー♡」


 煽る煽る、これ誰が設定した性格なんだ。


 ――私です。


 ミケェ!

 閑話休題。


 そんなこんなでボロボロになった船と無傷の俺。

 意外にもあっさり決着が付いたかに思われた。

 その時だった。

 錨が船から落ちてきた。

 地面に激突すると砂ぼこりを巻き上げる。

 いや……? 錨だけではない。

 誰か、いる。


「お前も幼女か、では聞こう。お前はおっぱいについてどう思う」


 そこに居たのは。


「ロ、ロリ巨乳……?」


 錨を肩に担いだトランジスタグラマーな幼女だった。

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