第7話 大砂漠でオオサソリをざぁこざぁこ♡


「んじゃさっそくクエスト受けようぜ!」


 イカルガは言う。ギルドの中、掲示板に貼り出された紙切れ一枚を引っぺがす。

 それを俺の方へと見せびらかしながら。


「オオサソリ討伐、難易度☆三つ、どうだ?」

「……いいんじゃない?」


 よくわからないが、あの魔王よりヤバい相手などいなかろう。

 そんな判断で俺は承諾した。

 ギルド受付にクエストの紙を差し出すイカルガ。

 受付嬢がそれを承認する。


「お二人のランクは合わせてBです。正直、ギリギリのラインですが、本当に受けますか?」

「あたぼうよ!」

「はーい、大丈夫っ!」


 幼女らしく幼女らしく……。

 俺達はギルドの食堂で腹ごしらえをした後、そのままギルドとオアシスを飛び出し、砂漠へと躍り出た。


「さて、オオサソリはどこかなー。『感知サーチ』」


 イカルガも感知サーチを使えるのか。あのステータスに載っていたたくさんの魔法一覧、当たり前なのかもしれない。初期スキルだしな。


「見つけた、東の方角! こいつは大物だぜ!」

「じゃ、いこっか」


 俺は駆け出そうとする、と。


「ちょ!? ちょっと待った! 走って行く気か!? 馬鹿じゃないのか!?」

「え、でも他に方法ないよ?」

「いやあるだろ、飛行魔法とか!」

「ひこーまほー」

「なんだその反応!」


 そんな便利なものがあるのかと驚きを隠せない。

 しかし、自分は走れるのだから。


「イカルガは飛行魔法で行きなよ、あたしは走って行くよ。オオサソリの前で合流しよう」


 そう言って俺は駆け出した。


「おい待てよ! ってもうあんな遠くに……速すぎんだろ……」


 辺り一面の景色が変わらない砂模様。

 砂に足を取られないようにバランスを取るのが結構難しい。

 だが、それも走っている内に慣れて来る。


 ――ぱーぱーぱーぱらららっぱー


 ミケの謎SEだ。レベルアップか? しかしなんで今。


 ――新スキル『悪路走破』を手に入れました。


 なるほど、砂地を走っていたおかげでそんなスキルが手に入ったらしい。

 というかそういうシステムか。

 これは日常生活の鍛錬も欠かさずやらなければいけないタイプの世界ゲームだ。

 しかしゲーム感覚でやるとさっきの魔王みたいに足元すくわれかねないのも注意だ。

 するとそういえば、イカルガと感知サーチ情報を共有してなかった事に気づく。

 俺はため息をついて改めて感知サーチする。


「東の方じゃわからないっての……あっちか」


 俺は走る方角を微調整して再び走る、足が軽い。これが悪路走破か。

 いよいよもってオオサソリの下へとたどり着く。

 そこはちょっとした洞窟だった。薄暗い。

 空からイカルガが降って来た。


「まさか本当に走ってくるとはな……」

「まさか本当に飛んで来るなんてね」


 そんな言葉を互いに交わしながら、いざ洞窟へと踏み込む。

 

頂戴プリーズ


 どこからともなく松明を取り出すイカルガ。


「それも魔法?」

「ああ、俺の魔法倉庫にしまってあるものならなんでも取り出せる」


 松明の灯りが洞窟を照らす。意外と短い洞窟の奥、眠りこけるオオサソリの姿がそこにはあった。


「こりゃ楽勝だな」

「だねっ」


 俺は血の戦斧ブラッディアックスを構える。

 跳び上がりオオサソリへと叩き付けた。しかし。


「弾かれた!?」

「おい馬鹿、起きちまうだろうが!」


 無駄に硬いオオサソリの表皮。

 戦斧の切れ味が足りない!


「イカルガちゃん! なんでもいいからオオサソリを出血させて!」

「はぁ!? なんで……ってああもうオオサソリが起きちまう! 分かったよもう、なんか作戦があんだな!? 『傷開きプラスダメージ』!」


 するとどうだ、俺が一撃入れた場所、弾かれた場所に、亀裂が入る。ノーダメージではなかったのだ。それに加えて、イカルガの魔法で傷口が開いた。

 緑色の血飛沫を上げるオオサソリ、完全に目を覚ます。しかし遅い。


「たあっ!」


 戦斧を振るって血を吸い取る、切れ味の上がった戦斧はオオサソリの脚を刎ね飛ばす。


「あっは! 無駄に硬いだけだったね! ざこーい♡」

「さすがネームド、嗜虐的な殺戮者サディスティックマーダー

「ほら、がんばれ♡」


 他の脚を刎ね飛ばしながら俺は言う。

 オオサソリは寝起きで対処出来ないまま死んでいく。

 血をどんどん吸い取り強化されていく戦斧。

 オオサソリの頭をかち割る。


「はい、おーしまいっと」

「すげぇよネームド」

「ねぇ、そのネームドって何? さっきも言ってたけど」

「ギルドの水晶にステータスが表示されたろ。そこに二つ名が示されてる奴の事さ、実力者にしかつかねーんだぜ?」

「ふぅん」

「興味なさげだな?」

「だってあたし、普通の幼女だもん」


 幼女は自分の事を幼女とは言わないだろうが、そこはご愛嬌だ。


「で、これからどうするの?」

「ちょっと待ってろ『念写フォト』」


 オオサソリの死体に向かって指で四角形を形作り、それを向けるイカルガ。

 パシャリなんて音が聞こえた気がした。


「これでよし、この魔法写を持って行けば報酬になる」

「その魔法、どうやって覚えるの?」


 これから絶対に必要になるやつだろそれ。


「簡単だよ、オアシスに帰ったら教えてやる」


 魔法は他人に伝授出来る仕組みシステムらしい。

 助かった。とりあえずイカルガと主に帰路につく。

 と言ってもまたも陸路と空路で分かれたのだが。

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