第26話 異世界大都市
異世界大都市。
今ボク達がいる街はまさにその表現が適切であろう位に栄えていて、見渡す限りに露店と人で溢れかえっている。
街を歩けばすぐさま小柄なボク達は人にもまれて迷子なんてオチが見える。
そう、街を歩けばの話。
「ねえノエルお姉さん、何時まで寝転んでる気ですか! せっかくの都会なんですよ!! 外出ましょうよ!! 」
「えー嫌ですよー。ここまでの長旅で疲れましたし諸々の調査は明日からという事で、良くないですか?」
亡霊の街を出てからはや一週間。
ボク達は異世界大都市「ノヴァ」という街に今日辿り着くことが出来た。
本来なら都会ならではの観光名所に目を光らせて「ルア行きますよ!!」と街中を駆け巡るべきなんだろうけど、生憎この世界の都会事情には興味がないしそもそも人混みが苦手だ。
「外出たいです!!」
「いやいや、無理に外に出て迷子になっても助けませんからね」
なので街に到着早々に宿を取り、むくれるルアを余所目に久しぶりのベッドで横になっている。
この一週間の野宿続きだったからベッドが染みる!
「回復ポーション美味ァ。あ、そこにある分全部取ってくれません?」
「むう、完全にだらける気じゃないですか」
「ここまでホウキを運転したのはボクですよ? 少しは労わってくれても良くないですかぁ?」
「うわ私こういうタイプ嫌い」
ルアに毒突かれても気にすること無くガラス容器に入ったポーションを口に含む。
喉を通る冷えた感覚が駆け巡る。
まさか異世界にこんな優れものがあったとは。
たまたま露店で買った「回復ポーション」というアイテム、疲れは取れるし味も甘くて美味しい。
今飲んでいるのは三本目で正直疲れは回復しきっているけど、味がいいから飲む手が止まらない。
「うーーーっポーション最高!!」
⚫
朝を告げる日差しが銀の髪を照らし、同行人が激しく身体を揺さぶる。
目が覚めた。
「ノエルお姉さん!! 起きて下さい!! 今日こそちゃんとしてもらいますよ!」
「ちょ、身体揺さぶらないで下さい⋯⋯! 起きましたから!!」
目が覚めたと訴えるとやっと同行人の揺さぶる手が止まった。
酔う、うえぇ⋯⋯。
「今日は一段と起こし方が激しいですね⋯⋯。何かありました?」
「強引にでも起こさないと今日も一日何もしない気がしまして!」
「そんな訳ないじゃないですか、一休みしたら動く予定でしたよ。⋯⋯とりあえずポーション取ってくれます?」
「回復ポーションなら昨日全部ノエルお姉さんが飲みましたよ!」
え、 一ダース買ったのに? ボク全部飲んだの?
言われてみれば確かに昨日はだらけすぎたかもしれない。
ルアにも全く構ってなかったし、何となく怒られても仕方ない気がしてきた。
仕方ない、そろそろ動こう。
「じゃあ今日はこの街の図書館から回っていきますか。ノヴァの街の図書館には世界各地の情報が集まってるらしいですよ。宿の店主から聞きました」
「じゃあ⋯⋯案内して下さい」
「場所を聞いた程度ですので、迷っても不貞腐れないでくださいね?」
「別にそのくらいで不貞腐れないですよ」
ふくれっ面で言われても説得力ないんだけどな。
今日はなるべくルアのご機嫌を損ねないようにするか。
ボクは手早く身支度をして、白いゴスロリ服に袖を通す。
「行きますよ」と宿を出て慣れない土地で慣れない人混みを掻き分けて歩く。
「はぐれないでくださいね。都会の波は恐ろしいですよ」
「はい! 波に飲まれないようにします!!」
周りから見たら田舎者丸出しな会話をしつつ、ルアの手を握る。
二人とも小柄だからはぐれた時結構大変だろうし、手を繋いでいた方がいい。
ノヴァの街の図書館は案外簡単に辿り着いた。
「わー!! 本がいっぱいです!」と大声を出すルアに「図書館では静かに」と軽く窘めからお目当ての資料を物色する。
「ノエルお姉さん、私文字読めないのでそれっぽい表紙の物を見つけたらお知らせしますね」
「ん、了解です」
コソコソと耳元に語り終えた後、ルアは本を探しに行った。
ボク一人になって気付いたが図書館は三階まであり屋敷のような広さだ。
「ボク一人でこの広さから目当ての本を見つけられますかね」
「おやお嬢さん、お困りですか?」
「お嬢さんではないですが⋯⋯困ってますね」
「では私めが案内させて頂きます」
図書館の紳士そうな司書の方が話しかけてきた。
なので獣人の街と魔王軍について知りたいと言ったら慣れた足取りで案内してもらった。
今度から何処に分からない本がある時は素直に司書さんに聞こう。
数冊気になった本を手に取り、座れる場所があったので腰掛けて頁をめくる。
「魔王については見知った情報しかないですね。容姿や残忍性だけしか書いていない上にどれもふわっとしてます」
残念だけど魔王について有益な情報は得られなかった。まあ魔王の配下のルリーナさん達ですら分からない事が多いんだから仕方ないか。
「獣人の街については⋯⋯あ、書いてますね。ここから近いですね。すぐそばですね」
獣人の街についての情報はバッチリ記載されていてこの街から近い距離にある事がわかった。
案外ルアとは思ったよりも早いお別れになりそう。
「あっ、ノエルお姉さん。いい感じに情報集まってますか?? こっちはからっきしですよー」
「分かりましたよ。獣人だけがくらす街の場所」
「え!? 本当ですか!?」
「図書館ではお静かに」
驚くのは分かるけど図書館ではお静かにという事で口元に指を当てて咎める。
ルアの表情は嬉々としていて、故郷に帰れる事を心から喜んでいるように見える。
そうだよね、元々ルアは故郷で普通に過ごして、普通に人生を終えるはずだったんだ。
一刻も早く帰りたいに決まってるしボクも帰してあげたいと思ったから旅に同行させているんだ。
別に何も不都合なんてない。
「良かったですね。明日にでもこの街をたちましょうか」
「はい!! やっと家族の顔が見られます!!」
やっぱり嬉しそう。
あんな顔今まで見たことない。ボクの知らない顔。
ああいう顔を家族や友人の前で沢山見せてきたのかな。
「そろそろお腹空きました! お昼にしませんか?」
「ああ⋯⋯はい⋯⋯。行きましょうか」
何処か落胆した様子のボクにルアは首を傾げつつも、図書館を出た。
適当にノヴァの街を歩きつつ適当な食事処に入った。
朝から出発して図書館に入り浸り時刻は昼頃、
店に入った事で食欲をそそる香りが漂いお腹の音が鳴る。
「あの席に座りましょう。丁度二人がけです」
「いいですね! 私またお子様ランチが食べたいです!!」
「またですか? 別に構いませんけどたまには別の物を頼んでみては⋯⋯」
他愛ない会話を続けていると別席から酒臭さと共に二人の男達の大声での会話が聞こえてきた。会話の内容もゲスい。
他の人の迷惑というものを是非考えて頂きたい。
「昼間からお酒を飲み歩く奴なんてやっぱりろくな奴じゃないですね」
「あはは⋯⋯。ノエルお姉さんうるさいの嫌いですもんね」
ご立腹なボクにルアが困ったように苦笑を浮かべる。
ん? アイツらコッチに来るような⋯⋯。
ああいうタイプは嫌いだから極力絡まれたくない。
こっちに近付いてきてるけど話しかけて来ないことを願う。
「そこの可愛いお嬢ちゃん達何やってるの? ねえ」
「ちょ、おま! 話しかけ方キモすぎだろ!」
「⋯⋯⋯⋯見てわかるかと思いますが、食事をしに来ました」
最悪。絡まれた。
でもルアと関わらせたくないからボクが応対しよう。
「ねえ飯食い終わったら予定ある? 俺らと付き合ってよ」
「いえ、旅人なので今日でこの街を出ます。なのでアナタ達に付き合う暇はありません」
「あ、暇なのね。じゃあ遊ぶでけってーい!!」
「は!? 話聞いてました!?」
男に乱暴に腕を掴まれ、「行くぞ」と引っ張られる。
魔法で蹴散らしてしまおうかと思ったが身体が動かない。
転生前の記憶か、ボクを蔑んできたのは主にこういう奴等だったのを思い出す。
ろくに反抗の言葉も行動も出来ないまま席から立たされてしまった。
何をされるかは明白だし性別を明かしてもルアに矛先がむくと不味い。
この状況、どうしたら⋯⋯⋯⋯。
お姫様志望の勇者の冒険奇譚〜王と魔王を倒したら男の娘のボクをお姫様にしてくれると約束したので冒険にでた〜 しゃる @sharu09
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