6

 これで終わり……


 そう思った時だった。


 私と紫陽花の間に夕顔が割り込み、私の上段回し蹴りをするっと受け流し、そのまま体を捻りながら裏拳を放ってきた。夕顔のスカートが体の動きに合わせひらりと舞い上がる。体重の乗った裏拳。私は夕顔から上段回し蹴りを捌かれ、不安定な格好であった。


『避けきれないっ!!』


 私がそう覚悟を決めた時、夕顔の裏拳は私へと当たらず空を切っていた。そう凛が咄嗟に私の襟首を掴み後ろへと引っ張ったのだ。


「どういうつもりですか、夕顔?」


 夕顔と私の間へと入る凛。その顔はトイレで見たあの憤怒の表情である。ぞわぞわっと凛の長い黒髪が逆だってきている。


「ふへっふへっふへっ……悪いなぁ、体が勝手に動いてしもうたんよ」


 悪びれる事もなくそう言う夕顔のその顔には、見る者をぞっとさせるような笑みが張り付いている。


「あなたの相手は私がします」


黒猫あんたが私の?願ったり叶ったりや……なら、本気出さなあかんなぁ……ふへっふへっふへっ」


 夕顔が首をごりっと鳴らしこれでもかという位の笑みを浮かべている。その夕顔を目の前にしても動じる事なく睨み続ける凛の姿に私は驚きを隠せなかった。


 あの上品で清楚な凛が私の為に怒っている。それに、夕顔の話しぶりだと凛は相当の腕を持っている様子であった。


 なに?ここに通うお嬢様達はみんな武術か何かの心得があるの?


 そんな私の戸惑いなど知る由もない二人は、互いに絶妙な距離を保ちながら移動している。その間には気と気がぶつかり合い二人を包む空間に歪みが生じている。


「えぇんか、黒猫ぉ。大切なご親友殿に……あんたの本性がばれるで?」


「……櫻子を……櫻子の為なら」


「健気やなぁ……ほんなら行くで?」


 夕顔の気が一気に膨らんだ。そして、膨張しすぎた気が空気を破裂させる様な音させると共に、二人の間にあった距離を一気に詰めてきた。

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