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私の隣でお重箱を大切そうに抱えて、猫ヶ原さんが楽しそうに鼻歌を歌いながら並んで歩いている。
並んで歩いてるとはいえ、特に何かを話す訳では無い。それでも、猫ヶ原さんは楽しそうであり、そういう私もとても嬉しかった。なぜなら、この女学校には知り合いは誰一人おらず、昼はぼっち飯を覚悟していたから。だから、特に何かを話す事はなくても、こうして並んで昼ご飯を食べに行く、それだけで良かった。
しばらく歩いて行くと、日当たりの良い中庭へと到着した。中庭はいくつかのベンチとテーブルが置いてあり、それぞれに屋根まで着いている。ちょっとした公園の様である。
その一つへと私を誘う猫ヶ原さん。私は促されるままに猫ヶ原さんの対面の席へと座った。
テーブルの上には先程まで大切に抱えていたお重箱が置かれている。猫ヶ原さんが慣れた手つきでお重箱の包みを解くと、三段重ねの立派なお重箱が姿を現した。お重箱からとても良い香りがしてくる。
その香りに触発された私のお腹からぐぅぅっと大きな音がなった。私は恥ずかしさのあまり、顔が熱く火照てるのが分かる。
「ふふふっ……可愛いわね、華小路さん。私もお腹がぺこぺこよ。さぁ、食べましょう」
にこやかに笑いながら猫ヶ原さんがお重箱の蓋を開けると、そこには茶色一色しかなかった。まぁ、まずは一段目だから肉だらけなんだろう。でも、二段目、三段目には色とりどりの野菜や他のおかず、白米が入っているはず……
順番にお重を開けていく猫ヶ原さんのお重箱の中身は、私の期待とは裏腹に全てが茶色一色の肉料理しか入っていなかった。しかも、それを躊躇なくもりもりと食べていくではないか。
私が呆気に取られて見ていると、それに気がついた猫ヶ原さんが恥ずかしそうに、私って大食いなの……と、呟くように言った。
確かにその三段重ねのお重箱を一人で食べる食欲も凄い。だけど、その肉だけのお重箱をあれよあれよと平らげてしまう事の方がもっと驚いた。
「……猫ヶ原さん、ご飯は要らないの?」
私が恐る恐る尋ねると、猫ヶ原さんは三段目のお重を見せ、それをひとつ取りぱくりと頬張った。
「これ、肉巻きおにぎりよ?」
確かに、半分ほど食べられたその物体は、肉汁のよく滲みて茶色くなった米が、程よく厚みのある肉に巻かれてあった。
「……野菜は食べないの?」
「野菜は嫌いなの」
猫ヶ原さんはそう言うと、お重箱の一段目の半分ほどもない弁当箱の私と同じ早さで食べ終わってしまった。
食べ終わった猫ヶ原さんは丁寧に口のまわりを拭うと、お重箱を重ね片付けている。そして、片付け終わった猫ヶ原さんがすっと立ち上がり、私の隣へと座ってきたのだ。
「ねぇ、華小路さん。出会ったばかりで馴れ馴れしいと思われるかも知れませんが、今後、華小路さんの事を櫻子さんって呼んでも良いかしら……」
少し頬を染めながら上目遣いで尋ねてくる猫ヶ原さんの表情は、私のハートをずきゅぅんっと貫いたのが分かった。
まじまじまじまじマジカルバナナッ!!
良いどころではかない。こちらから土下座してでも『櫻子』と呼んで欲しかった位である。
「もちろんよ、猫ヶ原さん。それに櫻子『さん』じゃなくて、櫻子で良いわよ」
私がそう言うと、猫ヶ原さんは私の手を取り、きらきらとした瞳で見つめて来た。
「ありがとう、櫻子。私の事も凛と呼んでください」
「そうするわ、凛。それから、私達って同級生で友達だし敬語もやめない?」
それに無言で頷く凛。私達は少し密着し過ぎるかと思う位の距離であったが、その時は深く考えずに、中学校時代の事などの話しをして過ごした。
「そう言えば、凛ってとても肉が好きなのね?」
何気なく言った私の一言に凛は、ふふふっととても妖艶な笑みを浮かべた。同性の私が見てもどきりとする様な笑み。そして、凛は私の耳元にそのぷるんとした紅い唇を近付けると、そっと囁いた。
「私は、こう見えても肉食なのよ」
凛の言葉と同時に吐息が耳元に届くと、ぞわりとしたものが身体中を走り抜けていく。思わずぶるりと身震いをしてしまった。
「さぁ、櫻子。教室へと戻りましょう」
凛が立ち上がり私へ手を差し出した。私はその手を掴むと凛の横へと並び教室へと歩き始めた。
しかし、私達は知らなかった。
校舎の屋上から、そんな私達を見ていた人影がいた事を。その人影が私と凛に対してあんな事をしてくるなんて。
でも、それはまた後の話である。
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