猫ヶ原さんとお弁当
1
「華小路さん、お昼はどうなさるおつもりですか?」
お昼休みが近づいて来た頃に、それまで真面目に授業を受けていた隣の席の猫ヶ原さんから突然話しかけられた。
「一応、お弁当を持ってきてるから、自分の席で食べようかなと思ってるけど……」
正直に言うと、ここの学食は高い。幼稚園舎から高校までの一貫校。いわゆるお嬢様学校。私の様な庶民からしてみれば、高いのである。
何?黒毛和牛のカレーライス、1000円?
何?黒毛和牛のコロッケパン、500円?
何?きなこ豚の豚カツ定食、1500円?
いやいやいやいや……そこは普通の安い肉で良いからさ、学生に優しい金額にしてよ……
でも学校曰く、これでも価格はかなり抑えているらしい。なんじゃそりゃ?両親もよくこんなところに私を入学させようと思ったのだろうか?
もしかしたら、私が知らないだけでうちって隠れセレブ?実は宝くじ1等前後賞当たった?油田でも掘り当てた?
んな訳ないか……
ただ私が少し……ほんの少し雑で、妄想癖があって、品がないから少しでも良くなってもらおうと思われている事くらい分かる。
ごめんね……お父様、お母様。名前負けしない様に一生懸命、女の品性を学んで来るわ……
……なんっってぇ。
そんなに女の子らしくなってもらいたかったのなら、なんで空手を学ばした?柔道を習わした?挙句の果てに家にサンドバッグ買った?
でも、許してあげる。だって……入学早々、こんな
そんな私の想いなどつゆ知らずの猫ヶ原さんが私へと思いもよらぬ一言を……
「ねぇ、華小路さん、私とお昼ご飯を食べませんか。良い場所があるのです」
きたきたきたきた北別府!!
猫ヶ原さんからの食事の誘いっ!!
「ありがとう、喜んで」
私はすぐに返事を返した。その間、約0.5秒。この女学校で密かに『黒猫姫』と呼ばれている猫ヶ原さんと昼食デート。
「良かったわ」
私の返事ににこりと猫ヶ原さんが微笑む。その笑顔は今までの人生の中で見た事の無い、とても素敵で可愛らしい笑顔。やばいやばいYABAI、鼻血出そう。ほんとに惚れるわ……この女学校に入学したせいで、私は新たな性癖に目覚めそうであった。
猫ヶ原さんとの昼食が楽しみ過ぎて、昼休みになるまでの授業に全く集中出来なかった。そんなこんなで、気付けば授業の終わりを知らせるチャイムがなり、待ちに待った昼休みとなった。
隣の席で終わった授業の片付けをしている猫ヶ原さんの綺麗な横顔……それに私は魂を抜かれた様に、ただぼんやりと見つめてしまっている。
「なぁに、華小路さん」
私の視線に気付いた猫ヶ原さんが、またあの神の微笑みを私へと向ける。
あわわわわ……
私はお腹空いたねとへらりと笑い誤魔化すと、鞄の中から弁当を取り出した。そんな私へと猫ヶ原さんはそうですねと再度、微笑んでくれた。
そして、猫ヶ原さんもまた、鞄の中から大きな包みを取り出し、机の上へと置いた。猫ヶ原さんのお弁当である。見た感じ、三段はあるお重箱。さすが猫ヶ原さん。
……三段はあるお重箱?
はて?
今日は体育祭だっけ?遠足だっけ?
なんで乙女の鞄の中から、そんな大きなお重箱が?
まさかまさか、私の分も?
いやいやいやいや……否、それは無いだろう。
「どうなされました、華小路さん。さぁ、お昼ご飯に行きましょう」
私が猫ヶ原さんのお重箱に困惑しているのなんて関係なしに、猫ヶ原さんはすぅっと席から立ち上がった。
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