櫻子の恋日記~にゃんことわんこと……時々、きつね

ちい。

隣の席の猫ヶ原さん

 いのち短し恋せよ乙女……


 確か……大正時代の流行歌だよね。


 恋せよか……


 私はいつになったら誰と恋をするんだろう……


 いや、恋はして来た。


 誰と……ではなく、ただ、私の一方通行な恋。


 両想いになった事は一度も無く、いつもひたすら私の片想いで恋は終わりを告げる。


 そんな私も昨日から女子高生。


 恋の一つや二つ叶えて見せますっ!!


 って意気込んでみたけど……


 実は私が昨日から通い始めた高校は、女子校なんですよ……


 右も左も、女子だらけ……


 異性は……いない。


 教師も全て女性。


 まぁ……そんなの入試を受ける段階で分かっていたんだけど、まさか、本命の公立に落ちるとはっ!!


 これなら私立も共学を受けていれば……と思ったけど、両親、特に父の希望もあり、また、絶対に本命の公立は落ちないだろうと言う気持ちから、この女子校を受けたんだよ……


 ところでお前、誰って?


 私の名前は……


 華小路はなのこうじ 櫻子さくらこ


 どこかの元華族みたいな名前だって?


 良く言われる……完全に名前負けしてるの分かってる。だって、私は普通のどこにでもいるような女子だから。


 ショートボブに、少し垂れてるけどくりっとした瞳。少しふっくらとした頬。ぷるんとした桜色の唇。痩せ過ぎず太り過ぎの身体。そして、すとんと落ちたAAカップの可愛らしい胸……


 寄せて上げて……すとーんって、何言わせんの?


 ……ごほんごほん。


 話しがそれた。


 私はそれでも恋がしたい。身を焦がす様な熱い恋がしたい。


 そして……叫ぶんだっ!!


 青春だーっ!!って。


 もちろん、彼氏と一緒にね。


 私がそんな事を考えているうちに、学校中に予鈴が鳴り響く。その予鈴で我に返った私は慌てて校門を抜け、教室へと向かった。入学式の次の日から遅刻する訳にはいかない。


 ばたばたと廊下を走り、教室の前で息を整えると窓から教室の中を覗いた。セーフ。先生はまだ来ていない。私はゆっくりと教室入口の扉を開くと、何食わぬ顔をして自分の席へと座った。


「おはよう、華小路さん」

 

 隣の席の長くて艶やかな黒髪をした美少女。少し猫を思わせる様な瞳。すらりとした体躯に、ぼよんっとした胸。幼稚園舎からこの女学校で学ばれている、とてもとてもTOTEMO綺麗で品のある素敵な女の子。


 猫ヶ原ねこがはら りん


 凛という名前の通り、凛として、可憐で私なんかが話しかける事もおこがましい。ごめんなさい、隣の席で、本当にごめんなさい。


『おはよう、猫ヶ原さん』


「挨拶してくれてありがとうございます」


「……え?」


 私は猫ヶ原に知られない様に細心の注意を払いながら、心の中でお礼を言ったつもりなのに、言うべき言葉と心の中の言葉が逆になってしまっていた。


「いやいやいやいや……おはよう、猫ヶ原さん」


 私は恥ずかしさから茹で蛸の様に顔を真っ赤にさせ慌てて挨拶をしなおした。その姿をきょとんとした顔で私を見ている猫ヶ原さん。


 あわわわわ……


 絶対に変な奴だと思われた。


 私は穴があったら入れ……いや、入りたい気持ちになり、机へと突っ伏した。


 すると、猫ヶ原さんの方からふふふっと声を押し殺して笑う声が聞こえてくる。


 やっぱり、変な奴だと思われてる。


「ふふふっ……面白い人ね、華小路さん。良かったら私とお友達になっていただけませんか?」


 きぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁーーっ!!


 MASAKA、まさかの友達申請っ!!


「……ぐふふっ、喜んで」


 私はにやつきそうになる表情を必死で堪え、猫ヶ原さんへ答える。やばい……涎垂れそう……卒倒しそう……


 私の答えに猫ヶ原さんが目が潰れそうになるほどの眩しく神々しい笑顔で微笑んでくれる。あぁ……思わず猫ヶ原さんへ恋に落ちそう……否、私……堕ちても良いよ……猫ヶ原さん……


 しかし、私は知らなかった。


 本当の猫ヶ原さんを。


 そりゃぁそうだわ。だって、猫ヶ原さんと出会ったのって昨日の入学式の時だもの。


 まさかこれから猫ヶ原さんと私のとんでもない日常が始まるとは夢にも思いもしなかった。


 まぁ……それはまだまだ後の事なんだけどね。

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