第三話 初めてのイメチェン
今日は学校のない休日である。
俺はいつも通り堕落して過ごそうとした。
昨日、星川に指南書を貰ったので、ベッドに寝転がりながら読み進めてみることにした。
指南書はかなり分厚いので最後まで読み切るのに数日かかってしまうレベルだ。
頭を抱えてしまう量なので、要点かいつまみながら読むことにした。
「さて、読むか……指南書マニュアル。其の一、美容院に行ってトレンドに合わせた髪型で清潔感を保つこと」
ふむふむ……それで、それで?
毎日学校行く前はワックスをつけて髪を整えてそれから……
って学校行く前は髪を整えるって大体みんなやってそうだけど美容院にまで足を運ぶのって気恥ずかしいな……
担当の美容師さんに話しかけること自体もかったるいし……
あとはファッションや運動についても細かく書かれていたけど想像以上に気が重かった。
星川は帰国子女だが星川財閥という超お金持ちのお嬢様でもある。
何でも、マニュアルでは星川が経営しているジムに毎日通い、体重測定を行う。そして、担当の方にコーチングして貰いながら食事の管理など気が思いやられることが記載されていた。
流石に全部読むのは身が持たないので昼寝でもしようかって思った時に突然電話が掛かってきた。
携帯が鳴ったが、見たことのない電話番号なので躊躇ったあと出てみた。
「あ、陰キャオタクくぅ〜ん♪ 遥だよ。マニュアルはきちんと読んでくれたかな?」
「まだ、読んでない。何で俺の電話番号知っているんだ?」
読んだって素直に言うのはなんか小っ恥ずかしいから、咄嗟に嘘ついてしまった。
「かっなしぃなぁ〜〜。ボクは君が変わることは信じているからね!ちなみに電話番号は君の仲良しの明里ちゃんから教えてもらったよッ……!」
「くっ…….アイツか……」
「明里ちゃんが教えてくれたからね♪ 今日は土曜日だから明日10時に小手川駅改札あたりに来てね! 色々連れていくから君を変えてみせるよ!じゃあね」
ガチャ……ツーツー。
俺の話も聞くまでもなく、星川はいつものテンションで言いたいことを話しそのまま電話を切ってしまった。
「はあ……先が思いやられる……俺、この先どうなるんだろうな」
ぼっーとしながら星川が言っていたことを考えたりしていた。悶々とした時間が続く。
因みに、明里ちゃんというのは俺が唯一学校で話せる女の子で、幼なじみの
全く連絡先など教えられたりしたら困る。
アイツはすぐ人と仲良くなるから、ややこしいことになるから、勘弁して欲しい。俺とは正反対の性格だ。
学年は同じでクラスも同じ、はたまた幼稚園から付き合い。
家まで近所で隣だと流石に不気味だと思ってしまう。
「か、神様……俺に良いことが起きないかな……」
俺はぼそりと呟いた。
このまま二人の餌・食・にならないか心配である。
気づいたら僕はそのまま寝てしまった。
ー翌日ー
昨日の疲れが酷く、そのまま眠ってしまった。
起きて時計を眺めるともう9時半だった。
「9時半?! あーやっべ!! 星川と約束していたんだった。小手川駅に向かわなきゃ!! 怒られる」
小手川駅は隣駅で電車で10分かかるため、俺は急いでシャワー浴びて適当な服を着て現地へと向かった。
「ぜぇ……ぜぇ……悪いな、待たせた」
「定刻には間に合ったけど、おっそいよ!!30分前にはいないと!! レディーファースト大事!!」
「お前がいきなり電話よこしたんだろうが!」
「あーえへへ♪ じゃあ、時間ないから美容院に連れていくね!!ただの美容院じゃなくて高級サロンなんだからね!!」
星川の言うまま彼女の細い腕に引っ張られながら俺たちは高級サロンとやらに向かうことになった。
「なんだ……ここは!!」
中に入ると煌びやかな空間が広まり、床は大理石で出来ていて、天井にはいかにも高価そうなシャンデリアが幾つもあり、所謂高級サロンそのものだった。
「えへへ♪ 私のパパが経営している美容院だよ! ファッション誌にも載っているし、テレビに出ているモデルや芸能人も来るよ!! 高いけど、腕前は確かだし予約もなかなか取れないからねーー♪」
「わーった。入れば良いんだろ!」
ドアを恐る恐る引いてみた。
美容院のスタッフが10名以上並び、星川や俺を迎えてくれる。
「いらっしゃいませ、お嬢様!!」
「げぇっ、、、何だよここは……俺は明らかに場違いじゃないか!!」
「グダグダ言わないの!! むぅー!! 雪瀬さん今日はお願いね!」
「はい、かしこまりました。お嬢様」
雪瀬さんというのはいかにも、モデルや雑誌に載るような清々しい雰囲気で女性から好かれそうな雰囲気の人だった。
担当スタッフの雪瀬さんは星川が言うには全国的に有名でSNSでも著名人らしい。
中々、予約も取れず星川のお願いだから来たそうだ。
「お嬢様、今日は来てくれてありがとうございます!! それで、そちらの方は……?」
「この子はね、ボクの友達!! 友達をイメチェンするの!! 良いでしょう!!」
「お嬢様……にも友達がいたのですね……」
なぜか雪瀬さんの目が少し潤んでいたのは気のせいか。
「ボク、終わるまで出かけているね! それじゃ!」
星川は美容院から出ていってしまった。
友達!? アイツならたくさんいると思うが……俺は疑問を残して案内された場所に移動し座るのだった。
「それで、初めましてですよね! えっとお名前は……」
「初めまして、雛沢優です。星川さんに呼ばれて来ました」
「ああ、お嬢様からですね! まさか、彼氏さんです!? わー嬉しい〜♪ お嬢様の彼氏ですよーー」
「違っーー!」
雪瀬さんの一言で残りのスタッフの方も興津々と俺をじっと眺めてくる。
凄くやりづらい……
まるで動物園の檻にいるパンダになったみたいだ…….
「では、雛沢さん。今日はよろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします……」
全く俺はあまり美容院に来たことがないので、雪瀬さんが勧めた通りに髪を切ることにした。
1時間後ーー
俺は鏡をじーっと見つめていた。中に写っている俺は段違いに変わっていた。
ボサボサの髪が整えられ、見た目や印象ものそれとは打って変わっていたから驚いた。
「お嬢様〜 終わりましたよ!! 今回はファッション誌でも取り上げられたトレンドの髪型を活かしつつ、爽やかな雰囲気で髪もボサボサだったのでブローして整えました。前髪も長いのでスッキリしましたし、これで印象が段違いに変わると思います」
「ありがとう〜♪ 雪瀬さん!! また、頼むかもしれない!!」
「はい、お嬢様! 喜んで」
「にひひーっ! 陰キャオタ……雛沢君ね。どう?今回髪切ったけどどうかな」
なぜか、星川は俺の呼び方を変えてくれた。
「ああ、確かに違うよ。前とは印象が大分違うな……」
「そうそう、良いでしょー!明日からはイメチェンデビューだねっ!!ちなみに美容院だけじゃないからね。僕の指南書通りに動いてもらうからっ」
星川は黒い笑みを浮かべながらそう言った。
ほんと、悪魔みたいだ。
「じゃあ、今日の用が美容院だったので明日また学校で話そう!! 僕の鬼の指導についてきてね!」
「いやじゃああああああ!」
ーー翌日ーー
いつものような刺激のない毎日。俺はいつも平然と学校に向かっている。
しかし、今日は一段と誰かに見られている気がする。
教室に着いても誰かのヒソヒソ声が鳴り止まない。
「ヒソヒソ……あれ?うちの学年にこんなイケメンいたっけ?」
「気のせいだよ……いるわけないないないって雛沢じゃん!」
「うっそー! 変わったじゃん! あんな、根暗だったのに! 話しかけようかなっ」
「って……真美。安直な発言はやめなさいよ!」
「えー!!」
「雛沢は人と話すのを嫌っているし近寄りがたい存在よ。やめなさい!」
「はーい!! はーい!!」
「はいは一回。わかった?」
二人のやりとりによりクラスメイトの視線が俺に集中する。
また、気が思いやられる展開になったのだった。
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