第ニ話 彼女の提案
春が終わり、エアコンが欲しい季節となった。
日差しが眩しい……悶々とした熱さだ。
中間テストも終わり、少し一段落したとでも言っておこう。
いつもと同じ毎日が始まり、変わり映えしないそんな毎日。
何か新しいことにチャレンジしてみたいが挑戦する勇気も出てこない。
特に何かする訳でもないが、この熱さでは流石に髪を切りたい。髪の毛もボサボサで前が見えない……どうしたものか。
取り敢えず、いつものように支度をして学校へと向かった。
学校の正門を潜った後、立ち尽くしていたら後ろから声がするのが聞こえた。
振り返ったら彼女ー星川遥がいた。
今にも頭がぶつかりそうな勢いで、彼女がどんどん近づいてくる。
「陰キャオタク君だっけぇ……? 君に話があるから立ち止まりなさい!」
「……んだよ、話しかけんなよっ!」
「あ、な、たに用があるの!」
「他の奴にあたれよ!俺に構う理由なんてないだろ!」
「とりあえず良い……? 放課後、西門にある時計台の下で待ってて! ボクの言うことは絶対だから!それじゃ! また放課後ねっー!」
俺の話を聞くまでもなく星川はそそくさと教室へと向かった。
「何の用だよ……! 俺に話す用もねぇのによ。まぁ、話だけでも面倒臭いが聞いてやるか。」
なんだかんだ言って、俺は彼女の言いなりになっている気がするの気のせいだろうか。
テスト明けというのもあって、淡々と授業を受けて、1日があっという間に終わってしまった。
気づいたら日も暮れていたので俺は取り敢えず星川が指定した場所に向かった。
まだ、星川は来ていなかったので近くのベンチに座って待つことにした。
5分後に彼女の声が聞こえてきた。
「待たせたね……! 陰キャオタク君!来てくれたんだ、ありがとう!ボクは君が来てくれて嬉しいよ!」
「俺は雛沢優だ! ちゃんと名前があるから、その陰キャオタクで呼ぶのをやめてくれ……! あと、俺はお前と同じ学年だ!」
「ひ、ひなみざわ……ゆう?まあ、何でもいいや……ボクは星川遥だよ! クラスは違うけどよろしくね!」
「色々と言いたいことはあるが、今はやめておこう……俺は用があるって言われたから来ただけだ。悪いか?」
「ふーん……まあ、いいや。じゃあ、時間も時間だし座りながら話そっか」
「はあ...」
星川の一方通行な話し方に、俺は思わず溜息をついた。
「ボクはね、君を変えたいって言ったよね? 覚えてるかなっ〜?」
「ああ、確かに...言っていたな。」
俺は星川を睨みつけながらそう言った。
「そうそう、君クラス内ではいっつも浮いてるでしょ! いかにも幽霊みたいな存在だし! だから、ボクが君をイメチェンして学年一のイケメンにしたいの!」
「そんなの知るか……! ってか、大体何で俺に構うんだよ!」
「なんかね、君を見ているとさ、ほっとけなくて……昔仲良かったアイツに似てるんだよね! だから助けてあげたくてさ!」
星川の上から目線のセリフに俺は少しイラついた。
「髪も長いし、ボサボサだし、眼鏡かけてるし、暗い印象が強いよね。私服もダサそうだし……」
100歩譲って、髪が長いのも、ボサボサなのも、メガネかけてるのもいいとして、なんで私服のセンスまでダメだしされにゃならんのだ!
「だから、お願いーー! 一回だけお願い聞いてくれないかなっ!頼むからっ!」
「知るかっ! 俺は今のままが良いんだ!」
「一生のお願いっっーー!」
「だーーもうっ! うっせぇなぁ。そんな用なら俺は帰る! 馬鹿らしい。お前とは知り合いでもなんでもねぇし。」
星川が後ろで何度か呟いてたが俺は彼女の言葉を無視してそのまま帰路に着いてしまった。
自宅に着き、いつものようにヘッドセットつけてゲームをする。ただ、今日はプレイする気力が無くそのままベッドに潜り込んでしまった……
「俺は……もう人と関わることはやめたんだ……昔みたいにアイツとも絡んだりしない……」
そのまま一日が終わり、気づいたら朝を迎えてしまった。
また、いつもと同じように学校正門を潜ると星川が俺に話しかけてきた。
「昨日はごめんね。無理に頼んじゃったよね……いきなり話しかけて……面識もないし……突っ込んだりして。ボクは君にはもう話しかけたりしないから……」
星川は涙が溢れるのを我慢しながら話していた。動揺しているのがはっきりと分かるくらい、言葉の文脈がおかしかった。
その姿を見ていられなかったので俺は渋々と彼女の昨日の提案を引き受けたのだった……
「やったーー!」
「陰キャオタク君って優しいんだねー!これからもよろしくね!」
だから、名前があるっつーの。
俺は悔しくもアイツにまんまと引っかかってしまったのだ。
女の子の涙は嘘でできているのは案外本当のことかもしれない。
「星川ーーーッ!さっきのお前の涙はなんなんだよ!」
「え〜っ!ボク泣いてたっけ? それじゃ、宜しくねっ!」
星川はいつものように教室に向かってしまった。
良い意味でも悪い意味でも取れる俺の新しい学園生活がこうして始まったのだった……果たして俺はどこに進もうとしているのだろうか。
ー放課後ー
星川が放課後時計台の下のベンチにいて欲しいとまた言っていたので時計台へと向かった。
「あ、陰キャオタク君! 待ってくれたんだね。ありがとう〜!」
俺を待たせといて、ニヤニヤしながらやってくる星川。
「ってかお前、アメリカ生まれなのに日本語よく喋れるな。まだ帰国してまもない筈だろ?」
前から疑問に思っていたけど、こいつは帰国子女の割に日本語が上手すぎる。
「あ、うん……ボク日本のアニメ作品が好きでさ! 早く上京したかったんだよね! ちゃんと喋れるようになりたいからさ! 例えば日本のアニメでーー」
相変わらず、星川の話の内容は支離滅裂だ。
これ以上聞いても意味が無いから、俺は本題を切り出した。
「あっ、星川。そういえば、お願いの内容聞かせてくれよ。」
「わかった、本題に移るね。つまり、君の見た目が悪いから提案があるんだよ。」
見た目が悪いって、こいつははっきりと俺のダメなところを要約しやがりました。
「君の見た目、正直に言って暗いし話しかけずらい!! だからボクがプロデュースしてあげる!!」
そして、彼女は指を3本立てた。
「1つ目は、髪が長いからまずは美容院にいって髪を切ろう! ただ、切るだけじゃなくてさファッション誌に出るようなトレンドに合わせた髪型でね! あと眼鏡は外してコンタクトにすることね。」
指を1本降ろして彼女は続けた。
「2つ目は、私服もきっとダサいのしかないだろうから買い物に付き合うよ!ファッション誌買って一緒に勉強しよっか!服以外にも小物も買ったりしてあとは清潔感もーー」
また、指を1本降ろして。
「3つ目は、君基礎体力ないからボクが定期的に見て一緒に運動をしよう!カロリーや食事にも意識してもらうからね!」
最後の指を降ろして、星川は満足そうに笑った。
「げっ、そんなにあるのかよ!」
「良い〜? ボクの言うことは絶対だからね!」
「わ、わかった……」
ここまで清々しく言われると、なぜか反抗する気も失せた。
「まだ、色々あるけれど、今日僕が考えた指南書(マニュアル)を明日までに読んでおくこと! 少なくとも3ヶ月目ぐらいには今の見た目とはかけ離れて欲しいので!それじゃ、まったね〜!」
ぶっ厚い「マニュアル」を俺に渡して、星川はさっさとこの場から離れた。
悔しいが、星川はなぜか憎めない。そして、俺はいつの間にかそんな彼女釣られてしまった。
明日から俺の学園生活が今より一段と変わるだろうとそんな予感がしたのだった。
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