第7話 王宮内の薬草畑

 そして数日後、私は王宮内の薬草を育てている中庭で風に吹かれていた。

 中庭と言っても、大農園のように広い。

 見ただけでわかる、ここで育てている薬草は中級より上のポーション用だ。

 薬草自体に魔力が無いので、支援系の魔術師さんたちがポーションを作っているらしい。


 で、なんでこんなところにいるのかと言うと、魔術師団の師団長さんを待っているからだ。

 本当に国によって違うんだなと思う。

 この国と違って、ルイーナ王国では魔術師の地位は低く、組織もそんなに大きくなかった。どちらかと言うと、研究職的な感じで。



「ああ。ナタリー、待たせたな」

 私をここに連れて来たガウルさんが私に声を掛けてきた。

 横には長い衣を着た男の人がいる。

「ジョルジュ。彼女がナタリーだ」

 え……と。師団長って王族じゃなかったっけ?

「ナタリー。彼はジョルジュ・ド・スフィントス。魔術師団の師団長だ」

「あの……ギルド長?」

 何でタメ口? って思ってガウルさんの顔を見たら、しっかり伝わったみたいで。

「ああ。俺とジョルジュはいとこ同士だからな」

 って、あんたも王族か……。


 私は気を取り直して深呼吸をする。

「冒険者ギルドに下級ポーションを納品してるナタリーです」

 ペコンと頭を下げて、挨拶をした。

「ジョルジュ・ド・スフィントスです。魔術師団を取りまとめています。それで、ナタリー……えっと」

「平民の孤児なので、家名は無いです」

 この国も、平民はみんな家名は無かったはずだし、本来の私にも家名は無い。

 師団長は少し私を探るように見てから

「そうですか」

 とだけ言った。


「それで、治癒魔法が使えるという事ですが……」

 使ません。そんな、チート魔法。

「下級ポーション程度の軽いけがを治すだけの回復魔法です。薬草が頂けなくなって、このままだと食べていけなくなるので。ギルド長にお願いして」

 何だかやりにくいな。冷静な目でじっと見られている。


 治癒魔法、ありとあらゆる病気やけがを治す魔法と言う意味で、人間は使っている。

 それに対して回復魔法は、軽いケガ等を治療できる程度という認識だ。

 そもそも、この二つは人間が勝手に分類しているだけの同じ魔法だ。

 術師の魔力や力量の差だけだもの。

 

 沈黙の後、師団長はどこからか小型ナイフを取り出し、自分の腕をスパッと切った。白い衣に血が流れてじんわり紅くなっていっている。


「では、この傷を治してみて下さい」

 そう言って、私の前に傷付いた腕を出した。

 ナイフをよく見ると、サビついた古い物のようだった。

 そうなると傷を塞ぐだけでは……。


 私は師団長の腕の傷の所に手をかざした。

 やわらかな光と共に、傷が消えていく。衣や腕に付いた血までは消さないけどね。

 違う魔法だし。


 師団長は少し驚いているようだった。

「キレイに……消毒と中の細かい異物まで取り除けるのですね」

「はぁ」

 何を感心しているのか分からない。

 師団長は、さっと自分の衣に手をかざして血の跡を消して言う。


「このまま王宮で働きませんか? 何不自由無く」

「いやです」

「身分も……給金だって」

「い・や・です」

 私がそう言う前に、

 ガウルさんが私の前に立って庇ってくれた。

「ナタリーは、冒険者のものだ。そっちは魔術師達がいるだろう」

 ガウルさんと師団長がなんだかにらみ合っている。……逃げようかな。

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