第6話 交渉とお披露目?

「保護……と言うと、アレか? 王侯貴族からって事か?」

「まぁ、そういう事になりますかね」

 だってね。幼少期からずっとルイーナ王国にいた私は、この世界を知らない。

 この国に来たのだって、たまたま転移魔法で隣国になら飛べたと言うのと、当時飛べる国の中で一番暮らしやすかったと言うだけ。


 殿下や私を名目上養女にしていた公爵の態度が露骨に悪く、イヤな予感しかしなかったからあの国から逃げる準備をしていた。

 そんな私にアイストルストの人達はとても親切だった。

 そして、リッカル殿下に合わせて幼い子どもになっていた私を孤児と勘違いして、魔力がある薬草を下級ポーションにして冒険者ギルドに売る事を教えてくれた。

 だから、ここを拠点に、さらに各国に飛んでみて移住先を決める予定だった。


 それを貴族や、ましてや王族と関わるなんて、とんでもない話だ。


 目の前の、冒険ギルド長ガウルさんは、腕組みをして悩んでいるようだった。

 う~ん。これは……ダメかな?

 私は諦めようと口を開こうとする。するとガウルさんは私の横に座っているソフィアさんに向かってこういった。

「ソフィア。ギルドは誰も出入りできないようにしているんだよな」

「もちろんです。すぐに封鎖して誰も外に出してません」

 ガウルさんの問いに、ソフィアさんは胸を張って言う。

「よし。下へ降りるぞ。ナタリーも付いて来い」

 そう言って、ガウルさんを先頭に私たちは、下の受付の所まで降りて行った。



 ギルド内に閉じ込められていた冒険者たちは意外にも静かに待っていた。

 まぁ、短い時間だし。建物の上に寮があるのでギルドの一階には、食堂もある。

 職員に対する信頼もあるのだろう、皆のんびりとしていた。


「あ~。先ほど話を聞いてしまった者もいるだろう」

 そんな風にガウルさんは話を切り出した。

「いつも下級ポーションを納品してくれているナタリーが、同じ料金で回復魔法を使ってくれることになった。効果は下級ポーションと同じか、少し下がるかだが」

 そう言うと、冒険者たちはどよっとなる。

「最初はな。王宮に……と言う話をしたのだが、ナタリーはここでみんなの手当てをしたいそうだ」

「だけどそんな格安で……って言うか、王宮にバレたら連れて行かれるんじゃないか?」

 年配の冒険者が訊いてくる。

「格安なのはナタリーをギルド内で保護すると言う約束だからだ」


「言わなきゃいいんだな」

「大丈夫。王宮の奴らなんて、ここまで来ないし」

「俺たちでナタリーを守れば良いんだよな」

 みんな口々にそう言っている。その顔は明るい。


「いや。あえて、ナタリーを連れて、王宮に挨拶に行こうと思っている」

 冒険者たちの盛り上がりに水を差すかのように、ガウルさんは言った。

「え? でも、私は……」

「あのな。とてもじゃ無いけど、王宮からなど守りきれんぞ。だから、王宮の魔術師団の師団長に謁見をするんだ」

「謁見……って」

「同じ王族でも現場で指揮をしている、あのクラスには会いやすいからな」

 なるほど……って、だけど……。


 私は怪訝そうな顔をしていたんだと思う。

「大丈夫。ここで働いても誰にも文句を言わせないようにするために会いに行くんだからな」

 ガウルさんはそう言って、任せとけとばかりに自分の胸をポンと叩いた。

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