第9話 のべつ

 祖父の兵吉に小遣をねだるのは苦手だった。ギャンブル好きで遊びに行っても何時もいるとは限らない祖父は、珍しい動物のような存在であって、そういう人に何かをねだる塩梅というものが決めづらいのだった。ある時「小遣いはのべつにはやらねぇよ」と兵吉が言うと、間髪をいれずに祖母のキノが「あんたがそれを言っても決まりが悪かろうね」と強く当てこすった。すると猿のような顔をした浴衣姿の兵吉は、懐(ふところ)からくしゃくしゃの500円札を取り出し、「ま、今日のは、のべつには入りゃしねぇよ」と言った。

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