第8話 カフェの女

 汗ばむような5月のある午後、季節外れのコートを着た、若いがひどく地味な、蝋燭のような肌をした、図書館職員風の女が、頬杖をつきながらカフェで何かを思いつめていた。こんな女には夫も彼氏もいないだろうと決め付けたが、女が呼んでいた文庫本の表紙に「オー・ヘンリー」の文字を発見したた途端、隆司はこの女の複雑な境遇に思い馳せた。なぜならば、こんな暑い5月に一人でオー・ヘンリーの短編集を読む女が、一筋縄の人生を歩むはずがないと思ったからだ。

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