柳十兵衛 怪しい術の出所を探る 3
調査の末に一軒の怪しい屋敷を発見した十兵衛たち。しかしその屋敷はかつて家康が有事の際の隠れ家として建てた屋敷の一つであった。
そんな所をつつけばどんな大物が飛び出してくるかわからない。臆する十兵衛たちであったが、宗矩はなおも調査を命じてきた。
宗矩の行動は一見意固地になっているようにも見えたが、その中に柳生家家長としての意地を見た十兵衛は宗矩に従い、例の屋敷の調査に向かうことに決めたのであった。
例の屋敷の調査には十兵衛、与六郎、雅行の三人が向かうこととなった。彼らは夜闇に紛れるため、あえて暮れ六つの鐘が鳴る直前に駿府の町を出る。
「お、おい!こんな時間に外に出るのか!?もうちょっとで門も閉まっちまうぞ!?」
心配する町の門番をよそに横内川沿いの細道を下っていく十兵衛たち。そのまま半刻ほど歩くと例の支流へと分かれているところにまでたどり着くが、彼らは一度ここを通り過ぎ巴川と合流するところまで歩いて行った。
一行が一度巴川まで向かったのは日没までの時間潰しと、件の屋敷が囮であるかどうかを見極めるためであった。敵の用意周到さからダミーとなる建物の一つや二つくらい用意していてもおかしくはない。その確認のためにあえて別の道を進んでみたのだが、結果巴川近辺では術の気配は感じ取れなかった。これはつまり例の屋敷が呪詛を行っている本丸で間違いないということだ。
「これであの屋敷で確定だな。それじゃあいい感じに日も落ちたし、そろそろ向かおうか」
十兵衛たちは引き返して今度こそ例の支流沿いの道を進む。
支流は竜爪山へとつながる丘陵地帯へと続いており、道は起伏や生えっぱなしの木々のせいでどんどん歩きづらくなっていく。そんな道を十五分ほど進むと、ようやく例の屋敷が見えてきた。昨日と同じように見張りらしき者の姿は見えなかったが、一行は念のためにほっかむりで顔を隠し、まずは屋敷の観察から始めることにした。
「あれが例の屋敷か。確かにこんな山奥には不釣り合いなくらい立派な屋敷だな」
駿府郊外に建つ徳川家康が遺した非常用の屋敷。大きさは中級の武家屋敷ほどで、周囲には板張りの囲いが隙間なく並べられている。この囲いは十兵衛たちの背丈よりも高く、外からは屋敷の屋根がかろうじて見える程度だった。ちなみに周囲の木々もご丁寧に枝が落とされており、昇ってそこから中を覗くこともできなくされている。「無理をすれば昇れないこともないでしょうが、おそらく敵に気付かれてしまうでしょうね」とは与六郎の評である。
そしてこれは十兵衛と雅行にしかわからぬことであるが、この屋敷は目に見えぬ結界術でも守られていた。巨大な結界術は屋敷を覆い尽くすように施されており、この中に無関係の者が一歩でも踏み込めばすぐさま侵入者として探知されてしまうことだろう。
「不相応に立派な屋敷だろ。それに屋敷を守っている術の方も」
「ああ。どうやら屋敷全体を覆っているようだな」
「突破できそうか?」
残念ながら十兵衛の知識ではこの結界を越える手段を思いつけなかった。だが陰陽寮生の雅行ならばあるいは……。
そんな期待を向けられている雅行は、しばらく結界を観察したのち控えめに頷いた。
「一度全体を見てみないことには何とも言えないが……だがまったく穴がないというわけでもなさそうだ」
「行けるのか!?」
「まだ断言はできないが、こちらの予想通りなら突破する方法はある。とりあえず、まずはぐるりと屋敷を見て回ろうか」
どうやら雅行は突破手段に心当たりがあるようだ。一行は確証を得るために彼の要請に従い屋敷の周囲をぐるりと回ることにした。
「なるほど……。やはり予想通りだな……」
屋敷の周囲を観測して回る十兵衛たち。しかし屋敷は四方を板張りの囲いで隙間なく囲っているため中の様子は観察できない。加えて十兵衛の目には強固な結界術も見えている。一見すると付け入る隙などなさそうに見えたが、どうやら雅行には違うように見えているらしい。
一周して確信を持った雅行は迷うことなく屋敷の北東に向けて歩き出した。
「間違いない。屋敷を守っている術は『
「『照応』?」
「『照応』というのは姿かたちを似せて術をかけやすくする技法のことだ。例えば特定の人物に向けて術を使うとき、髪や血で人形を作って依り代にすることがあるだろう?あれは人形と対象を似せて効果が出やすくしているんだ。原理はこれと同じ。あの屋敷は今、駿府城を模した状態になっている」
「駿府城の!?」
驚く十兵衛と与六郎であったが、雅行はまるで講義でもしているかのように淡々と解説する。
「駿府の町が四方に四神を配置しているのは知っているな?あの屋敷も四方に三将ずつ、十二天将を配置して力場の形を似せているんだ。そうすることで術が駿府の町に馴染むようになる。また駿府城を模しているということは、その呪術的な防衛体制も模しているということ。つまりあの屋敷に忍び込むのは城に忍び込むのと同じくらい難易度が高いということだ」
「そんな……。そんなところにどうやって忍び込めばいいんだ?」
「安心しろ。照応はいい所だけでなく悪い所も似せてしまう。今の駿府城には外から簡単に侵入できる場所があるだろう?」
「?」
十兵衛と与六郎はすぐにはピンとこなかったが、数歩歩いたところで与六郎が察した。
「そうか!横内川ですね!」
「ご名答。駿府城は現在北東を流れる横内川から術の侵入を許している。ということは照応で駿府城を模しているあの屋敷も、同じように北東部に術式的な脆弱性があるということだ。……そろそろだな」
雅行の先導で歩いていた一行は、気付けば屋敷の北東部にたどり着いていた。そのままいい場所を探そうとした雅行であったが、今度は与六郎がこれを止める。
「お待ちになってください。そこかしこに鳴子が仕掛けられております」
「おっと、こういうのもあるのか。助かったよ。しかしこういったものも用意してあるとは、やはりここが穴のようだな」
確かに他の場所にはこのような罠は仕掛けられていなかった。皮肉にも敵の万全を期すための一手が、雅行の推察を裏付ける形となった。
「潜入地点はここで決まりだ。それでは結界突破のための術をかけるぞ」
屋敷の北東部に良い潜入地点を見つけた十兵衛たち。彼らはここから屋敷内に潜入することに決めた。
「忍び込む地点はここで決まりだな。さて、それじゃあ早速始めるか?」
雅行の問いかけに十兵衛と与六郎は迷わず頷いた。
「ああ、頼む。始めてくれ」
「よしきた。任せておけ」
そう言うと雅行は威勢よく腕まくりをしてしゃがみこみ、近くの地面に何かを描き始めた。まずは半畳ほどの正方形。続けてその周囲にうねうねとした紋様をいくつも描いていく。それは十兵衛ですらも概要がわからないほどの複雑な術式であった。
「……それで結界を打ち消せるのか?」
十兵衛の質問に雅行は手を止めることなく答えた。
「いや、それは無理だ。あんな馬鹿デカい術式、普通に解除しようとしても丸三日はかかる。だから今回は『同化』する」
「同化?」
「そう。あの結界は特定の『九字の加護』を受けていない者が通過した時に反応するようになっている。ということはその『加護』をお前たちにかけてやれば、結界は反応しなくなるというわけだ」
なるほどと頷く十兵衛。結界が異物を探知するタイプだというのなら、異物とみなされない存在になればいいという話だ。しかし言うは簡単だが実行するのは簡単ではない。他者の術をまねるにはそれ相応の高度な技術や知識が必要となるはずだ。
「大丈夫なのか?九字といっても色々と種類があるだろう?」
修験道や陰陽道などで護身のために唱えられてきた呪文・九字。一番有名なのは『
「安心しろ。さっき屋敷は四方に十二天将を配置していると言っただろう。今回の九字はその交点を利用したものだ。ゆえに十二天将の並びを見れば自ずと九字も見えてくるというわけだ。……それでも二つほど問題があるのだがな」
「問題?」
「一つ目は敵の術の精度が高すぎて完全な模倣は不可能だったという点だ。色々と準備して時間もかけたら出来ただろうが、そうもいかないんだろ?もしかしたら結界通過時に多少の反応が出てしまうかもしれないが、まぁそこは覚悟しておいてくれ」
「見つかってしまうということか?」
今回十兵衛たちは潜入任務ということで音が出かねない刀やクナイといった武器は置いてきた。そのため出来ることなら戦闘は避けたかったのだが、雅行はどうしようもないといった顔で首を振った。
「そこは何とも言えん。もしかしたら一発で侵入者だとバレてしまうかもしれないし、動物か何かと勘違いされるかもしれない。もちろん気付かれずに終わる可能性もある。なんにせよ向こうの警備体制次第ということだ。それともう一つ。これはあくまで推察に過ぎないが……、この術はおそらく
「土御門だと!?」
思わず目を見開いて驚く十兵衛。術師の世界で『土御門』といえば、歴代陰陽頭を幾人も輩出した陰陽術の大家・土御門家のことである。雅行はこの結界術にその土御門家特有の技法が使われていると言う。
「土御門式とは……。まさか陰陽寮が関わっているのか!?」
「いや、在野に下った術師も多いからそこまでは言い切れん。だが術の精度からかなり格の高い術師がいる恐れがある。十分用心してくれよ。……よし、できた!」
そうこう話しているうちに雅行の術式も完成した。彼が地面に書いたのは半畳ほどの正方形と、それを取り囲む幾つもの紋様であった。
「『照応』には『照応』。この四角はあの屋敷を模してある。中に立ってくれ。同化のための呪詛を唱える。それをお前たちも中で復唱しろ」
十兵衛と与六郎が言われた通りにそこに立つと、雅行は早速同化のための九字を唱え始めた。
「朱雀、玄武、白虎、
続けて復唱する十兵衛と与六郎。それを数度繰り返すと十兵衛たちの体はカッと熱を帯び、そしてその熱は体に馴染むように緩やかに引いていった。
「よし。これでお前たちが異物として感知されることはなくなったはずだ。ただし先程も言った通り完璧な模倣ではないからな。細かいところは適宜そちらで対処してくれよ」
「承知した。それじゃあお前は川の下流の方で待っていてくれ」
ここから先は十兵衛たちの領分であるため、仕事を終えた雅行は先に安全なところまで下がらせる。雅行も自分の身体能力は把握しているため異論なく頷いた。
「わかってる。それじゃあいい報せを待ってるからな」
「おう、任せておけ」
そう言うと十兵衛と与六郎はひらりと板張りの囲いを飛び越え、屋敷に侵入するのであった。
北東の囲いを越えた先は何もない開けた空間となっていた。十兵衛と与六郎の二人は音もなく着地すると、すぐさま近くの木陰まで駆けて身を隠した。
「……どうやら見張りの類はいなさそうですね」
「そのようだな。だが結界の方は少し触れてしまったかもしれん。しばらく身を潜めて様子を見た方がいいだろう」
「む。雅行様の術は失敗したのですか?」
「何とも言えん。一瞬産毛が焼けるような感覚がした程度だ。だが敵がしっかりと監視を置いていたら気付いたかもしれん。ともかく時間はあるんだ。少し待ってみよう」
十兵衛の提案に従い、二人は侵入地点から少し離れた木陰に隠れて様子を窺うことにした。そのまましばらく待っていると遠くから二つの足音が聞こえてくる。
その足音は十兵衛たちが隠れている木のすぐ横を通ったのち、彼らが先程乗り越えた囲いのところにまでやってきた。一人は陰陽術師が着るような白い
「……壁に異変はなし。近くに不審な気配もないし、気のせいだったんじゃないか?」
「うぅむ……。確かに一瞬何者かが囲いを越えた反応があったのだが……」
「といっても俺はそっち方面はわからんからなぁ。イタチか何かではないのか?」
「いや、そういった生物は近付けないようになっているはずなのだが……」
どうやら雅行の懸念通り、一瞬敵の結界に引っかかってしまったらしい。ただ反応が小さかったため向こうも侵入者だと確信が持てず、こうして目視で確認に来たようだ。
男たちはしばらく入念に壁を確認していたが、何も異変がないことがわかるとすごすごと母屋の方に引きさがっていった。彼らの気配が完全に消えると、十兵衛と与六郎はふぅと安堵の息を吐く。
「どうやら真面目に見張りを立てているようだな」
「ええ。ですがそれは奴らが後ろめたいことをしていることの証左でもあります」
「わかってる。……改めて確認しておこうか。俺たちの目的は誰かが大納言様に術をかけるよう命じたその証拠を見つけることだ」
無言で頷く与六郎。彼らの目的は忠長を狙う不審な動きを追跡し、その証拠を集めることである。家光はそれを利用して老中たちと対等に渡り合うつもりであった。
「どちらかを上様に提出できれば、あとは上様が動いてくださる。だが安易な証拠はここにはないだろう。だから俺たちは敵の術式を第一に狙うことにする」
しかし相手も馬鹿ではない。おそらくここに直接的な証拠となるもの――計画書や稟議書の類は残されてはいないだろう。屋敷にいる者も巧妙に素性を隠しているはずだ。そのため十兵衛たちは術式の発見と記録・報告を第一目標とすることにした。
敵は効果が弱めの術を長期間かけ続ける戦法を取っている。その期間は数か月から数年に及ぶだろうが、そのための術式を毎日一から組むのは効率的ではない。おそらく彼らは術の一部を魔法陣や
十兵衛たちの目標はこの術式を暴くことである。これを紙に写すなりして報告すれば、江戸のお抱え術師たちがこれを分析し忠長を狙った悪質なものだと気付くだろう。遠回りではあるがこれでも家光の目的は達成されるはずだ。
「となると怪しいのは母屋から独立しているあの建物でしょうか?」
「ああ。大きさも大規模な術式を行使するのに申し分ないからな」
中に入ったことでわかったことだが、敷地内には大きく二つの建物があった。一つはこじんまりとした一般的な武家屋敷のような建物で、おそらくこちらが普段の居住区・母屋なのだろう。もう一つが入母屋屋根の立方体風の建物で、一見すると神社の本殿を思わせる外観をしていた。
普通の武家屋敷にこのような本殿風の建物はないため、呪詛が行われているのならここだろう。二人は夜闇に紛れて音もなくこの建物に近付いた。
「正面は視界が開けすぎてますね。裏手に回りましょうか」
本殿正面に見張りの姿は見えなかったが、念のために裏手の茂みに隠れる二人。そしてまずは十兵衛が呪術的な罠がないかを確認する。
「……どうやら罠はないようだ。おそらく余計な術をかけることで呪詛の純度が下がるのを嫌がったのだろう」
「では私が行けますね。少々お待ちください」
罠がないとわかれば次は与六郎の仕事である。彼は素早く床下、壁、屋根回りを伝って中の気配を探った。
「お待たせしました。中には五人ほどいるようです。建物の中央に四人、正面入り口の内側に一人。全員起きております」
「入り口付近の一人は寝ずの番だろうな。となると残る四人が術師というわけか。中に入れそうなところはあったか?」
「それがあるにはあったのですが、こうも静かな夜ですと気付かれる恐れがありまして……」
与六郎によると窓やら建付けの悪い床板といった潜入できそうな箇所は何か所か見つけたそうだが、どれも中の人間に気付かれかねない場所とのことだった。潜入後しばらく中で術式を書き写さないといけないことを考えると、早期に発見されるのは好ましいことではない。
十兵衛はしばらく考えたのち、一つの解決策を思いついた。
「とはいえここが本丸なのは間違いない。……よし、わかった。俺が囮となろう。その隙に与六郎は術を盗み見て、書き写してくれ」
「ここは俺が囮になる。その隙に与六郎はこの建物に忍び込んでくれ」
「十兵衛様……!」
十兵衛の提案は自分が囮となるから、その隙に目的の術式を盗み見てきてほしいというものだった。
これに与六郎は何とも言えぬ苦しげな顔をしたが、反対まではしなかった。与六郎自身もそれが最善策の一つだとわかっていたからだ。
「しかし本当に某でいいのですか?術式ならば十兵衛様が見た方がよろしいのでは?」
「主観の意見では証拠として弱かろう。何より潜入できなければ意味がないからな。それならばお前の方が適任だ」
「承知いたしました。必ずや証拠を書き写してきてまいりましょう」
作戦がまとまった二人は本殿風の建物から離れ、ここの武士や術師たちが普段生活しているであろう母屋の方に忍び込んだ。こちらは向こうほど警戒されていなかったため、容易く奥まで入り込めた。
二人は一応稟議書のようなものはないかと軽く漁ったがそれらしいものは見つけられなかった。代わりに途中の部屋にて一本の予備の刀を発見した。十兵衛はそれをゆっくりと抜き月明かりの下で軽く確かめる。
「可もなく不可もなくといったところか。まぁ何もないよりはマシだな」
今回は潜入任務だったため自前の刀は置いてきた。だが囮役として駆け回ればやがて戦闘も起きるだろう。十兵衛はそれを腰に下げ、やがて倉庫らしき部屋にたどり着いた。
「この部屋がいいかな?庭にすぐに出れるし、寝室も近い。ここならすぐに気付いてくれるはずだ」
「よろしいかと。それでは十兵衛様、二百数えたのちに敵を引きつけてくださいまし」
十兵衛たちの計画は、まず十兵衛が騒ぎを起こして屋敷の者を庭に集める。その騒動に乗じて与六郎が本殿風の建物に忍び込み、用意された術式を隠れて紙に書き写すというものだった。
計画を確認したのち、スッと消える与六郎。そして十兵衛は打ち合わせ通り二百数えると、近くにあったつづらを乱雑に漁った。
間もなくして予定通り屋敷の者がこの音に気付いた。
「ん?何の音だ?」
音に気付いたのは夜番の一人で、先程囲いの確認に来ていた武士の男であった。彼が寒さを紛らわせるために手足をこすっていると、ふと自分以外の物音を耳にする。初めは冬の強風が戸を叩いているのだと思っていたが、そういえば今日はさほど風は強くない。気になって近付いてみるとその音はどこかの部屋から出ているものだった。
「この部屋か?おーい、誰かいるのかー?」
侵入者がいるとは欠片も思っていない気の抜けた声だった。わざわざ戸を開けるような素振りもなく、十兵衛が黙って身を潜めていればそのままやり過ごすこともできただろう。だがそれでは目的を達せられない。十兵衛は男が部屋の前に来たことを確認すると、あえて勢いよく戸を開いて庭に飛び出した。
ガタタッ
「むっ!何事だっ!?……あっ、お前はっ!?」
異変に気付いて部屋に入ってきた男は、今まさに庭に逃げようとしているほっかむり姿の侵入者を発見した。男は一瞬信じられないものを見たかのように目を見開いていたが、根が優秀なのだろう、次の瞬間には屋敷全域に聞こえるように叫んでいた。
「曲者だぁっ!起きろぉっ!侵入者が現れたぞぉっ!!」
事態は十兵衛たちの思惑通りに進行していく。おそらくもう少ししたらこの騒ぎに乗じて与六郎が本殿の方に忍び込むはずだ。彼の腕ならば脱出までに十五分とかからないだろう。なのでせめて十分くらいはこちらで敵を引き付けておきたいのだが……。
「賊だと!?どこだ!?」
「こっちだ!松明を持ってこい!」
「絶対に逃がすんじゃねぇぞ!」
(ほう。存外動きが早いな。これは少々手こずるかもな)
思ったよりも敵の動きが早い。これは引き際を間違えたら大惨事となるだろう。
(さて、刀一本でどこまでできるか……)
そんなことを思いながら、十兵衛は敵を誘い込むために屋敷の庭へと駆けていくのであった。
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