柳十兵衛 怪しい術の出所を探る 2
忠長を狙う悪しき者がいないか調査を始めた十兵衛一行。しかしそれらしい手掛かりは何も掴めぬまま早くも二日が経過した。
そんな折、雅行が逆転の発想をする。それは「敵が忠長の善意を肥大化させているのではないか」というものだ。確かに善意であっても暴走すれば失態に変わりないし、駿府の術師たちに気付かれなかったのも頷ける。
可能性を感じた一行はこの線一本に絞り調査をすることに決めた。その手始めとして、まずは十兵衛と与六郎が夜の駿府の町の調査に出かけるのであった。
時刻は草木も眠る丑三つ時。寒風が肌を刺す夜の駿府の町を、十兵衛と与六郎の二人は音もなく駆けていた。二人の目的は駿府城の忠長にかけられている術の痕跡を探ること。そのため彼らはまず駿府城を囲む水堀の一つ・三ノ丸堀のほとりにまで来ていた。
当時の駿府城は三重の水堀を有していたが、その最外殻に位置していたのがこの三ノ丸堀である。ただし最外殻といってもその幅は狭い所でも15メートル以上あり、その内側には上級武士たちの屋敷が建ち並ぶ。おそらく寝ずの番も各所にいるのだろう。いかに十兵衛たちであっても近付けるのはここが限界であった。
「城に近付けるのはここまででしょうね。いくら深夜とはいえここから先は寝ずの番もいるはずです。いかがなさいますか、十兵衛様?」
「安心しろ、これ以上近付くつもりはない。雅行からいいものを借りてきたからな」
堀のほとり、柳の木の陰に隠れていた十兵衛はそう言うと、懐をガサゴソと漁ったのち様々な文様が描かれた一尺四方の一枚の板を取り出した。
「それは?」
「
十兵衛が取り出したのは式盤、あるいは
ただし六壬神課は陰陽寮の秘中の秘の占術であるため、素人裸足の十兵衛ではこの盤の実力を十全に引き出すことはできないだろう。
「……つまり使えないということですか?」
「心配するな。そのために雅行が少し手を加えてくれた。まずこうやって草をちぎって乗せてだな……」
十兵衛は足元に生えていた雑草を適当にちぎり、手で軽く揉んだのち式盤の中央に乗せた。
「こうした状態で力を込めると……」
「……あっ!光った!」
十兵衛が式盤に呪術的な力を込めると、中央に置いていた草がほのかに発光した。それは秋の蛍よりも弱々しい光であったが、確かに一目瞭然の反応であった。
「詳しい原理は知らないが、夏に見られる『草蛍』と似たような現象だそうだ。ともかくこれで城に近付かなくともまじないの発生源を突き止めることができるというわけだ。では行こうか」
十兵衛は再度雑草をちぎって盤の上に乗せ、三の丸堀に沿って歩き出した。
呪術に反応する道具、式盤を持って夜の駿府の町を進む十兵衛たち。だがなかなか目当ての反応は返ってこなかった。
「なかなか反応がありませんね。本当に見つかるのでしょうか?」
「おや、信用していないのか?」
「い、いえ!そのようなことはありませぬが……。ただそのような道具があるのなら、もっと早いうちに使えばよかったのではと思いまして……」
与六郎の言う通り十兵衛たちは昨日一昨日の調査ではこの式盤は使ってはいなかった。だがもちろんそれには理由があった。
「あぁそのことか。仕方あるまい。こいつは繊細過ぎて日中では関係ない術の反応まで拾ってしまうからな。だがこの時間ならほとんどの者が寝ているだろうし、寺や神社も近くにない」
この時代の城下町では武家は武家地に、町人は町人地に、寺社は寺社地にと住む場所が明確に区分されていた。そして今十兵衛たちが歩いていたのは寺や神社のない武家地であるため、無関係の術を拾う可能性はかなり低い。もちろん個々人で健康祈願等の祈祷を行う家もあるにはあるだろうが、しかし今は深夜の丑三つ時。普通の人間ならば横になっている時間であるため、これも気にかける必要はない。
つまり反応があればそれが本命である可能性が高いということだ。そして半刻ほど歩き回ったのち、いよいよ式盤の上に反応が現れた。
「来た!これだ!」
見れば式盤の上に乗せた草がほのかに発光していた。決して強い光ではない。しかし時間や場所を考えれば明らかに異常な反応である。十中八九、目的の術師と見て間違いないだろう。そしてこの反応をたどっていけばその犯人の元にまで行くことができるはずだ。
「それでここはどこだ?城の北東部ということはわかるが……」
きょろきょろと周囲を見渡す十兵衛。十兵衛は式盤に集中していたため自分がどのあたりを歩いているのかあまり頓着していなかったのだ。これに与六郎が答える。
「
「ふむ、気になるな。その川とやらに行ってみるか」
十兵衛たちがもう少し堀に沿って進んでみると、与六郎の言った通り一本の小さな川があった。見れば水落の地名の通り、堀から排出された水が小川となって北東へと真っすぐ伸びている。そしてここで式盤の反応が最大値となる。
「どうやらここのようだな。少し見てみるか」
十兵衛はそう言うと式盤を与六郎に預けて川岸にまで降りてみた。堀から排出された水によってできた川・横内川。水量が堀に依存しているためか、その川幅は狭く水深も浅く見える。小舟が一隻通れるか通れないかという程度の川であり、それゆえ誰も気にも留めないような目立たぬ水路であった。
(だからこそ何かを仕掛けるには都合のいい場所だ)
十兵衛は腕まくりをするとそのまま右手を川の中に突っ込んだ。骨まで冷えそうな冷水であったが十兵衛は気にせず気を探る。するとかすかではあるが下流の方から何かしらの術式が城の方に流れているのを感じ取った。
「この気配は『術の道』……!やはりここを使っていたようだな!」
確信を得た十兵衛は堤に上がる。
「どうやら当たりのようだ。この川の下流から術が通っている気配がした。この川はどこに続いている?」
「横内川は不要な水を北東の巴川に流すための用水路で、その方向に真っすぐ伸びております。ここから北東ですと……
「将軍家に縁のある寺……。いや、余計な推察はするべきではないな。ともかく追える所まで追っていくぞ」
「はっ」
こうして二人は術の出所を探るため、気配を頼りに横内川沿いの道を進んでいった。
術が流れる道を発見した十兵衛と与六郎。二人はその出所を探るため、気配を頼りに横内川を下っていく。横内川は北東に真っすぐに伸びており、その道中には徳川家とも縁が深い蓮永寺もあった。一応万が一の可能性も覚悟もしていた十兵衛たちであったが、幸い術の気配は懸念していた蓮永寺を越えてさらに北東へと続く。
そうしてそのまま巴川に合流するのではと思われた矢先、術の気配は北へと流れる細い支流に指針を変えた。その先は人家もまばらな竜爪山に続く丘陵地帯であった。
「一気に本丸に近付いたという感じだな。与六郎。町から俺たちを追ってきてる奴はいるか?」
「いえ、尾行も待ち伏せも感じられません。このまま進んでも大丈夫でしょう」
「よし。ならばこのまま一気に行くか」
十兵衛たちは術の気配を追って細い川沿いの道に入った。これだけ市街地から離れると木々も多く、足場も見通しも悪い。不意の遭遇に備え二人は慎重に進んでいく。
そうして四半刻ほど歩くと、夜目の利く与六郎が何やら建物の影を発見した。
「むっ、十兵衛様!何やら屋敷が見えますよ!」
もう少し進むと十兵衛も月明かりの下でそれを視認した。木々の隙間から見えたのは確かに屋敷の板張り屋根だった。しかも近付いて気付いたことだが広さもかなりある。暗いため全体像は見えないが、おそらくざっと二百坪――下級・中級の武家屋敷程度はあるだろう。それが板張りの高い囲いで囲まれていた。こんな辺鄙な場所にしては場違いなほどに立派な屋敷である。
「立派な屋敷ですね。どれ、一つ忍び込んでみますか」
ここまで来たのだから出来る所まで調べてしまおう。そう意気込んで乗り込もうとした与六郎であったが、十兵衛はその袖をつかんで待ったをかけた。思わず振り向く与六郎。そして彼はギョッとした。止めた十兵衛の顔がひどく険しいものになっていたからだ。冬だというのに額には緊張の汗も見える。
「……何かの術でもかけられているのですか?」
与六郎が気付かず十兵衛が気付いたのならばそういうことだろう。予想通り十兵衛はこくりと頷いて返した。
「かなり厳重な加護の術だ。俺一人ではどうしようもできん。場所はつかんだんだし、一度父上に報告に戻った方がいいだろう」
これに与六郎は素直にうなずいた。二人は屋敷の場所と大きさだけを確認すると、そそくさと駿府にまで引き返した。
駿府の北の丘陵部にて謎の屋敷を発見した十兵衛と与六郎。しかし彼らは不用意に踏み込んだりせず、最小限の情報だけ収集して駿府の町まで戻ってきた。
二人が駿府に戻った時にはもう日は昇っており、往来にはこれから仕事に向かう武士や奉公人たちでごった返していた。二人は彼らの間を縫うように進み屋敷に戻る。屋敷では宗矩や雅行たちが二人の帰りを待っていた。
「ただいま戻りました」
「おぉ戻ったか、七郎。それで首尾はどうだった?」
「怪しい屋敷を発見いたしました。術が使用された形跡からほぼ間違いないかと。……ところで父上たちはまさかずっと起きていたのですか?」
「安心しろ、少しは寝た。それよりももうそろそろ出ないといけないからな。早いとこ詳しい話を聞かせてくれ」
「はっ。それではその屋敷の位置ですが……」
十兵衛たちは早速発見した屋敷について報告した。駿府城の北東を流れる横内川。それを下った先にある小さな支流。その先にあった妙に立派な屋敷……。地図上に印をつけても雅行や蜂助はもちろん、数年駿府で暮らしている友重ですらその屋敷に心当たりがなかった。
ただ唯一宗矩だけが報告が進むにつれて無言のまま険しい表情となっていく。その押し黙った様子は心当たりがあることを如実に物語っていた。
「以上が俺たちが発見した屋敷についてだが……父上、何かお心当たりでも?」
「……」
宗矩の返答は沈黙だったが、思い当たる節があることは明確だった。
「心当たりがあるのならばお話しください、父上。時間がないとおっしゃっていたのは父上ではありませぬか!」
十兵衛が詰めるも宗矩は変わらず答えず、ただひたすらに険しい表情で地図に書かれた印を見つめていた。このままでは埒が明かないと感じたのか、与六郎が探りを入れる。
「とりあえず必要なのは情報です。場所はわかりましたし、昼にでも行商人の振りをして尋ねてみようと思うのですが……」
「ま、待て!不用意な真似をするな!」
「宗矩様……」
「……やはり父上はここが誰の屋敷なのかご存じなのですね?」
「くっ……!」
言い渋っていた宗矩であったが、一行の責めるような視線に観念したようで、弱々しく口を開いた。
「……知っておる。かなり昔の話だがな」
「やはり!それでこの屋敷は誰の屋敷なのですか!?」
宗矩は大きく一つ息を吐いたのち、小さく呟いた。
「ここは神君様(家康)がお造りになられた隠し御殿の一つ……、それで間違いないだろう」
「!?」
一行は息を呑み、しばらく部屋は沈黙に包まれた。
家康の隠し御殿。
宗矩曰く、十兵衛たちが見つけたこの屋敷は戦国時代の頃、駿府を抑えた家康が万が一に備えて用意していた隠れ家とのことだった。万が一とはつまり西から攻められた時に逃げ隠れる用の屋敷、現代風に言えばセーフハウスというやつである。幸運にも家康や秀忠の在位中にこの屋敷が使われることはなかったが、逆に言えばそのために極一部の側近たちしか知らない特別な屋敷であった。
そんな屋敷にて忠長に向けた呪詛が行われていた。
「……ということは、大御所様(秀忠)が大納言様(忠長)を貶めるための呪詛を!?」
思わぬ可能性に十兵衛らは絶句するが、宗矩がすぐに諫める。
「ま、待て!それは早計だ!あの屋敷は緊急時に備えて用意していた屋敷。ならば平和となった後は誰かにお譲りになられたのかもしれん!」
「ありうる話ですが……それでも生半な者が受領したということはないでしょう?」
「それは……その通りだが……!」
確かに将軍家の持ち家とはいえ秀忠が黒幕というのは早まった推察である。おそらく管理は別の者がしていたはずだし、太平の世となった後は誰かに下賜していたとしてもおかしくはない。とはいえそれでも半端な者に与えてはいないはず。家老、番頭格、あるいはそれに準ずる地位の者に譲渡したはずだ。誰にせよ宗矩よりもはるかに家格の高い者であることは間違いないだろう。
皆が押し黙る中、与六郎が一つの案を出す。
「宗矩様。ここは調査をこれまでにして、あとは江戸の上様らに任せるという方法もございまする」
なるほど確かに、ここに来て明らかに格上の相手が現れてしまった。ただでさえ今の宗矩は越権行為スレスレの調査をしているのだ。ならばここは一度引いて、後のことは家光に一任するというのも一つの手ではある。
しかし宗矩はそれを拒否した。
「いや、ここで半端に引いては後日揉み消されるかもしれない。それでは上様の意に叶わぬ結果となってしまう。ここは是が非でも何かしらの証拠を手に入れるべきだろう。行けそうか、七郎?」
ここでの「行けそうか?」は「潜入して証拠を盗ってこれるか?」という問いである。これにはさすがの十兵衛もすぐには返答できなかった。
「……少し考えさせてください」
秀忠に関わる屋敷への潜入。当然バレれば並みの処罰では済まないだろう。十兵衛が躊躇うのももっともなことで、宗矩もその心中を察し、スンと興奮を解いた。
「……そうか。まぁ仕方あるまい。とりあえず私はもう出る。昨日も言ったが今日は鞠子宿に行くことになってるからな。今日のうちに帰ってこれるとは思うが……それまでに決めておくことだ」
そう言うと宗矩は立ち上がり、側近たちを連れて屋敷を出た。残されたのは柳生庄から同行している十兵衛たち五人のみ。そして十兵衛は次の行動をどうするか、その決定権を与えられたのであった。
宗矩が側近たちを連れて屋敷を出ると、十兵衛は疲れが一気に来たかのように床に崩れた。
「はぁぁぁぁっ……」
「じゅ、十兵衛様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。ただ……さすがに参った……。こんな話になるなんてな……」
「大御所様ですからね。さすがに直接関係はしてないでしょうが、私も言葉を失いましたよ……」
大御所・徳川秀忠。言うまでもなく先代将軍であり、家光・忠長の実父である。そんな人物が忠長を狙う術師たちと関係しているかもしれない。その可能性は十兵衛たちの許容容量をはるかに逸脱していた。
「もはや一地方領主が解決できる案件ではないだろうに……、なのにどうして父上はああも決断できるのだろうか?」
「決断ですか?」
「ああ。だってそうだろう?いくら上様の頼みとはいえ、一歩間違えれば大御所様の勘気を招きかねない。そうなれば俺たちなんて風の前のチリに同じ。ならば普通は臆するもんなんじゃないか?」
にもかかわらず宗矩はさらに踏み込んで調査する気である。十兵衛の疑問はもっともなことで、与六郎もどう答えればいいのか迷っていた。そこに雅行が割って入る。
「こういった時は現将軍の方が優先されるんじゃないのか?」
「理屈ではそうかもしれないが、実際大御所様はまだまだご健在だからなぁ」
この時秀忠御年五十歳。将軍職こそ家光に譲ったものの、その政治的影響力がいまだ健在なのは誰もが知るところであった。
「とはいえどちらかに着くのなら現将軍の方だろうよ。これから先、どちらが先に亡くなるかといえばそりゃあ当然大御所様の方だからな」
「おいおい。不敬が過ぎるぞ」
「だが事実だろう?ならば今後の、御家のことを考えれば現将軍の方にいい顔するのが道理だろうよ」
「御家のため、か……」
雅行の推察は筋が通っていたし腑にも落ちた。しかし『御家のため』というところにだけは引っかかりを覚える。納得できないという意味ではない。自分が同じような立場になった時、宗矩のように合理的に決断できるとは到底思えなかったからだ。
十兵衛とて柳生家の嫡男として育てられてきた身である。彼なりに御家を守る覚悟は持っていたつもりであった。しかしいざ宗矩と比べると、彼ほどの決断力はまだ十兵衛にはない。
(確かに御家は大事だが、ああも簡単に決断できるものだろうか?……あるいは決断できるのが家長なのか?)
この時十兵衛こと柳生三厳は二十二歳。時代を考えれば家督を譲られていてもおかしくない年齢だ。だが実際は未だ宗矩が実権を握っており、そしてそれでうまく行っていた。
しかしだからといっていつまでもこのままではいられない。現時点で宗矩は秀忠よりも年長の五十八歳。いつぽっくり逝ってもおかしくない年齢だ。縁起でもない話だが、来年急に十兵衛に家督が譲られる可能性だって十分に考えられる。
(そうなったら俺は『御家のため』の決断ができるのだろうか……?)
十兵衛は宗矩に潜入できるかと聞かれ「少し考えさせてほしい」と返した。だがこれは御家のためを思ってではなく、後で罰せられるのではないかと臆したがための判断だった。
情けない。十兵衛は己が未熟さを痛感する。そしてそんな自分が主導権を握るべきではないとも考えた。
(驕っていたな。俺が父上や上様の邪魔をしてどうする。今はただ自分ができることをするしかないというのに)
今はまだ未熟な身。ならばここは父の判断を信じた方がいいだろう。情けないが、今はこれが精一杯の奉公である。
「与六郎、雅行。もし俺が屋敷に侵入すると言ったら、お前たちは協力してくれるか?」
訊かれた二人は迷うことなく頷いた。
「十兵衛様の手足となることを誓いましょう」
「まぁ加護の術がかけられているのなら俺の力が必要だろうからな」
「ありがとう、感謝する。……まぁ詳しい話は父上が帰ってきてからだがな」
決断したことで十兵衛は自分が昨日から寝ていなかったことを思い出した。大事な作戦の前である。一度寝て頭をスッキリとさせた方がいいだろう。そして起きてなお決心が変わらなければ、思った通りにやってみればいい。
十兵衛は朝食をかっ喰らい、そのまま横になって眠り、そして起きた。
「……今何時だ?」
「あっ、十兵衛様。お目覚めになられたのですね。時刻は先程七つ(午後三時頃)の鐘が鳴ったところです。宗矩様たちも間もなく帰ってくることでしょう」
「そうか。いい時間に起きれたようだな」
上体を起こした十兵衛はそのままぐっと伸びをした。よく寝たおかげか数日ぶりに血の巡りが良くなったような気もする。そして自身の心中に向かい合うと、自分の決心が揺らいでいないことに気付いた。
まもなくして鞠子宿に出ていた宗矩たちが戻ってきた。宗矩は報告もそこそこに、スッキリとした顔をしている十兵衛に尋ねた。
「どうだ、七郎?やってくれるか?」
「はい。上様と父上のために、出来る限りのことをしようと思います」
今度は迷うことなく返答できた。続けて十兵衛は与六郎と雅行に改めて同行を依頼。二人はこれを了承した。
「二人とも、感謝する。それでは日が沈んだら動こうか」
時刻は暮れ六つ半刻前。まもなく駿府が夜のとばりに包まれる、そんな時刻であった。
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