柳十兵衛 室生の山賊を討つ 1
山賊たちが潜んでいるであろう山に踏み込んだ十兵衛たち。
彼らがしばらく進むとその道中で牢人・尾崎勘九郎と出会った。聞くところによると彼は春豪房を追ってここまで来たそうだ。
一行は山賊討伐に協力することを条件に、勘九郎の同行を許可。そしてそこからしばらく進んだところで春豪房も発見した。
発見時、彼の足元には山賊と思わしき牢人の死体が転がっていた。
山賊討伐のために獣道を進んでいた十兵衛一行は、その道中にて春豪房と再会する。その時彼は近くの岩に腰掛け休んでおり、そしてその足元には山賊と思わしき男の死骸が転がっていた。
「こ、これは……」
その異様な光景に思わず絶句する一行であったが、当の春豪は現れた十兵衛たちに気さくに声をかけてきた。
「おや。確かお前は室生で会った……。そういえば山賊討伐のためにやってきた御公儀とか言っていたな」
「お、覚えていたか。それで、時にその足元の者は……」
「ああ、この者か。ちょうど今念仏を唱え終わったところだ。それからどうしようかと思っていたところにお前たちが現れた」
まるで世間話でもしているかのように語る春豪であったが、十兵衛が聞きたいのはそんなことではない。
「そういうことではなく……。……その男は貴殿が殺したのか?」
十兵衛が尋ねると春豪は特に躊躇うこともなく「ああ」と頷いた。
「その通りだ。だがいたずらに殺したわけではないぞ。出会い頭にいきなり短刀を抜いてきたのはこの男の方だ。きっと噂になっていた山賊の一人だろうな」
いきさつを淡々と語る春豪。おそらく彼の言うことは正しいのだろう。こんな山中で出会う相手が碌な奴なわけがない。
問題は僧侶の格好をしているにもかかわらず、そこに後悔や慚愧の色が見えない春豪の方である。
(まさか本当に人を殺めてるとは……。これが勘九郎殿の言っていた『救い』なのか……!?)
春豪の時代にそぐわぬ無法っぷりに言葉を失う十兵衛。するとその隙に興奮状態の勘九郎が一歩前に出た。
「さすがは春豪殿。噂にたがわぬ無双っぷり。是非とも某と相対してもらいたい!」
「なっ!?勘九郎殿!?」
「ふむ、何者か?」
「生国丹後、中岡流の尾崎勘九郎なり!某が鍛錬の成果、是非とも受けてもらいたい!」
威勢よく抜刀する勘九郎。それを見て春豪も「ほう」と一言言ったのち、脇に立てかけていた長巻(長い柄のついた太刀)に手をかけようとした。
思いがけず一触即発の空気になるが、ここで正気に戻った十兵衛が慌てて割って入る。
「待て待て待て!約束しただろう、山賊討伐に協力すると!こんなところでむやみに殺し合うな!」
「だが某の目的は彼の者と立ち合うことで……」
「いいや、許さん。それに考えてもみろ!こんなところで騒ぎ立てれば山賊に気付かれて邪魔をされるかもしれないぞ。水入りはお前だって望むところではないだろう!?」
「そ、それはそうだが……」
戦力減少もマズいが、山賊たちに気付かれるのも同じくらいマズい。十兵衛の正論に勘九郎の闘気が少しばかり萎えると、その隙に十兵衛は状況が理解できず固まっている春豪にも声をかけた。
「聞いていた通りだ。某たちはこれから山賊たちを討ちに行く。出来ることなら貴殿にも同行を頼みたいのだが、どうだろうか?」
「ええと、よくはわからんのだが、そこの者とは戦わなくともよいのか?」
「すべてが終わった後で相手をしてやってほしい。勘九郎殿もそれで構わぬな?」
勘九郎は渋々ながらも頷いて納刀する。それを見て春豪も長巻に伸ばしていた手を引っ込めた。
「……まぁ協力してほしいことは理解した。とりあえず話を聞かせてくれるか?」
「もちろんだ。……とりあえずそこの男は脇にのけておこうか」
一行はどうにか話し合えるくらいには落ち着きを取り戻した。十兵衛たちは山賊の死骸を脇に置き、ここまでのことを説明するために各々適当な場所に腰を下ろした。
落ち着いた一行。その中でまず口を開いたのは十兵衛であった
「まずは順番に話していこう。俺たちは知っての通り御公儀からの依頼で山賊調査のためにこの山に来た。そこの勘九郎殿は春豪殿を追ってきたところで俺たちと合流し、今に至る」
勘九郎が黙ってうなずく。
「そこで聞きたいのだが、春豪殿。貴殿はなぜ山賊を討ちにこんなところにまで来たのだ?別にこのあたりに縁があるというわけでもあるまい」
春豪は公的な人間でなければ地元の住人でもない。言ってみれば彼が山賊を退治する義理はどこにもないのだ。
そんな彼がなぜここにいるのか?一時は彼が山賊に入ろうとしているのかとも考えたが、脇に転がっている男の死体を見るにそれはなさそうだ。勘九郎は『
「『救い』のためだ。彼らの
どうやら本当に春豪は山賊たちを『救う』ためにこの山に来たらしい。頭を抱える十兵衛の視界の端で勘九郎が満足げに頷いていた。
「『救い』か……。正直言うとその概念は全くわからないのだがな……。なぜ相手を殺めることが救いとなるのだ?」
「それは……説明するのは少々骨が折れる。わからんというのなら、それでもかまわんと思うぞ」
「むぅ……」
苦い表情をする十兵衛。実のところ、今彼の信条はさほど重要なことではない。大事なのはむやみやたらに襲ってくるかどうかで、その点に関してはこうして話ができている時点で問題はないだろう。
十兵衛がとりあえず「わかった。吞み込もう」と答えると、今度は逆に春豪の方から尋ねて来た。
「そういうそちらはどういった経緯でここまで来たのだ?聞けば初めは三人だけだったとのこと。山賊を討つには少々人手が足りなさすぎやしないか?」
ここで十兵衛はあやかしの噂や鬼蜘蛛丸について話した。
「……なるほど。その噂が本当なら確かに少数精鋭の方がいいかもしれんな」
「図らずも増えてしまったがな。まぁ相手の規模がわからん以上、適量なんて知りようがないのだから仕方がない」
「む?ならば直接見て来てはどうだ?お前たちの言う寺院なら、ここから二町(約200メートル)もないぞ」
春豪の言葉に十兵衛たちは目を丸くした。
「なにっ!そんな近いのか?」
「ああ。曲がった道と木々のせいで見えないが、すぐそこだ。俺はどうやって攻め込もうか考えている時に、そこの男と出くわしたんだ」
春豪はそう言って脇に転がしている山賊の死体を指さした。どうやら十兵衛たちは気付かぬうちに敵のすぐそばにまで来ていたようだ。
「……未だ俺たちが襲われていないということは、こいつは偵察とかではなく、本当に偶然やってきただけなのだろうな」
「いかがいたします、十兵衛様?」
「……本当にすぐそこに廃寺があるんだな?」
「ああ。周囲の木々に隠れれば近付くことも容易だろう。俺はしなかったがな」
十兵衛は少し考えたのち、一人立ち上がった。
「少し見てこよう。こちらに気付いていないか確認する必要もあるしな」
「一人でか?」
「さっきも言ったが、厄介なあやかしがいるかもしれないからな。安心しろ。軽く見てくるだけだ。友蔵、藤五郎。春豪殿たちが不用意なことをしないようしっかりと見張っておけよ」
「はっ!」
友蔵たちの返事を背に、十兵衛は一人獣道の先へと進んでいった。
寺院が近くにあると聞き、一人偵察に出た十兵衛。彼が二つ三つと獣道を曲がると、まもなくして木々の隙間から苔むしたこけら葺きの屋根が見えた。
(春豪殿の言った通り、本当にすぐそばだったな。どれ、山賊たちはいるかな……?)
十兵衛は茂みに隠れながら慎重に進み、寺の境内全体が見渡せるところにまで来た。
もはや名前すら残っていない廃寺。残っている建物は本堂が一棟に小さな五重塔が一基。どちらもかなり昔に打ち捨てられたものだが、雨風をしのげる程度には原型は保たれていた。そしてその本堂縁側にはうごめく複数の人影が見えた。
(いた!人だ!やはりここが山賊たちの塒だったのか!)
十兵衛はさらに近付き目を凝らす。パッと目に付いたのは縁側にいた三人で、見たところ酒を飲みながらサイコロを使った博打遊びに興じているようだ。時折冗談めいた悲鳴や品のない笑い声が聞こえてくる。
また奥の方には寝転がっている人影も見えた。彼らは日向ぼっこでもしているのだろうか、横になったまま酒を飲み、時折大あくびをしている姿が見えた。
(狙われているとは露知らず、のんきな連中だ)
こうして確認できた山賊は八人。加えて本堂の中にも気配はあったが、さすがに人数まではわからなかった。
(中にいるのは二人か三人。ということは敵の規模は十人と少しと言ったところか。予想よりも多いな。……そういえば鬼蜘蛛丸はいるのか?)
十兵衛が集中して気配を探ると、一人あやかしの気配を持つ者がいた。縁側で横になっていた者の一人である。十兵衛は大きく迂回してその顔が見えるところにまで回り込んだ。そこにいたのは間違いなくあの鬼蜘蛛丸であった。
(……いた!鬼蜘蛛丸!まさか本当にいるとはな!)
鬼蜘蛛丸。クモの糸に似た術を使えるあやかしで、かつて遠江国・三ケ日にて牢人徒党を組んで悪行を働いていた。徒党は一つの廃村を巨大なものであり、一時はそれを率いて宿場を襲う計画まで立てていた極悪人である。そんな人物が今この地にいる。十兵衛は慎重に回り込み、息を殺してその一挙手一投足を観察する。
まさかこの地で再起を図るつもりだろうか?そう警戒する十兵衛であったが、どうも様子がおかしい。鬼蜘蛛丸はぼけっと縁側で陽に当たっており、時折思い出したかのように手元の小壺から酒を飲んでいる。その呆けた顔に覇気はなく、改めて見ればよく同一人物だと気付けたほどだった。
(……まるで警戒してない。能力を使っている様子もない。まだ二年と経ってないはずなのに、随分と落ちぶれたものだな……)
十兵衛の知る鬼蜘蛛丸は御公儀相手でも引かぬ野心に燃えており、それに見合うだけの風格もあった。だが今の彼にその頃の面影はなく、ただ怠惰に飲んだくれている一牢人にしか見えない。
敵対していたとはいえ一時は死線を交えた間柄。それだけにその凋落ぶりは見ていられないものがあったが、山賊行為という悪事に手を染めている以上見逃すわけにもいかない。
(……これも縁だ。許せよ)
十兵衛は心の中でそう謝ってから、静かにその場を離れ仲間たちの元へと戻った。
十兵衛が帰還すると、どうやら残った彼らは十兵衛が出ている間に打ち解けていたようで楽し気に談笑していた。最悪勘九郎が先走って春豪と立ち合っているのではないかと覚悟していた十兵衛であったが、いい意味で裏切られた形となった。
「あ、お帰りなさいませ、十兵衛様。首尾はいかがでしたか?」
「ああ。やはりここが山賊の塒だった。一町ほど先の寺院に十人ほどたむろってた」
十兵衛は地面にざっと寺までの道と建物の配置を描き、今しがた見てきたことを説明した。
「人数は十人以上……。数の上では劣勢だな」
「だが向こうは真昼間から飲んだくれて完全に油断していた。数の差はさほど問題にはならぬだろう。問題は鬼蜘蛛丸を討てるかどうかだ」
宇陀の御公儀が山賊たちに手こずっていたのは、敵のあやかしを恐れてのことである。それならば最悪鬼蜘蛛丸一人を討てれば、あとは高通たちに任せることもできる。逆にここで彼を討ち漏らせば非常に面倒くさいことになるだろう。
ここまで話を聞いたところで勘九郎が手を挙げる。
「つまり某たちのお役目は、十兵衛殿をその鬼蜘蛛丸とやらのところにまで導けばいいのですな?」
「そうなるな。こればっかりはいろいろと見える俺でしか相手はできまい」
「ふむ。あやかしと一戦交えてみたかったのですが、それならば仕方ありませんね」
勘九郎は詰まらなさそうな顔をしたが反対まではしなかった。春豪も静かに一つ頷いて異論ないことを示す。
「して具体的にはどう追い詰める?夜まで待って夜襲でもするか?」
「いや、地理感のない場所で夜襲は無謀だ。それにこっちはもうすでに一人殺しているんだ。それに気付かれる前に襲撃をかけたい」
春豪が殺めた山賊と思われる男。この男が何の役割を担っていたのかは知らないが、それでも長いこと戻ってこなければ向こうも異変を感じ取るだろう。そうなる前に勝負に出たい。
「つまりは奇襲ということか?」
勘九郎の問いかけに十兵衛は頷いた。
「まぁそうなるだろうな。即席の面子で細かい戦術などできないだろう。そこで陣形なのだが、こうしようと思っている」
十兵衛は地面につらつらと作戦の絵を描いた。
それから互いに意見を出し合い、細かいところまで詰めたところで一行はいよいよ腰を上げた。
「では行きましょうか」
十兵衛の掛け声に一行は力強く頷いた。
さて、所変わって場所は廃寺の鬼蜘蛛丸。朽ちかけの本殿の縁側に腰掛けていた彼は、ちょうど酒が入っていた小壺を空にしたところだった。
「……ん。空か。まったく、安酒のくせに無くなる速さだけは一丁前だな」
鬼蜘蛛丸は空になった小壺をその辺に転がし、自分もごろんと横になる。程よく回った酔いに五月の陽気が心地よく、自然と大きなあくびも出た。懐の寒さを除けば文句のつけようのない平穏な時間だった。
だがそんな時間は仲間たちの戸惑いの声でかき消される。
「な、なんだ手前は!?何しに来やがった!?」
「……なんだ、騒々しいな」
面倒くさそうに頭を上げる鬼蜘蛛丸。他の仲間たちも首を伸ばして、なんだなんだと声のする方に顔を向けていた。
「何の騒ぎだ?」
「あ、はい。それがどうやら見知らぬ坊主がやってきたみたいで……」
「坊主だと?」
鬼蜘蛛丸は腰を上げて騒ぎのする方へと行ってみた。すると寺へと続く獣道の出口付近に立っている一人の僧侶が見えた。
「まさかこの寺に用があってきたのでしょうか?」
「どうだろう?その割には随分と荒々しい見た目だが……」
現れた僧は身長六尺半ほどの巨漢で、くたびれた僧衣に体長ほどの長巻まで携えている。ただの僧には見えないが、かといって御公儀にしては傾奇過ぎている。
どうしたものかと鬼蜘蛛丸たちが見守っていると、頃合いを見て僧は口上を述べた。
「貴様らが最近このあたりを騒がせている山賊たちだな?御仏の名のもとに、お前たちを捕らえに来た。痛い目を見たくなければ今ここで降参するといい!」
現れた僧はなんと自分たちを捕らえに来たと宣言したのだ。これには一同失笑し、一番近くで聞いていたサイコロで遊んでいた仲間が馬鹿にするように近付く。
「ははははは。こいつは傑作だ。威勢のいいことを言うのは勝手だが、坊主一人で何ができるっていうんだ?」
「まあまあ、せっかくここまで来てくれたんだ。誰か相手をしてやれよ」
「ならば俺が行こう。最近楽な仕事ばかりでなまってたんだ!」
手入れのされていない刀を抜いて笑いながら近付く山賊仲間。しかし僧侶の方は顔色一つ変えずに立っている。
ここで鬼蜘蛛丸は不意に寒気にも似た嫌な予感を覚えた。
(……む?何だ今の感覚は……。何か、何かマズい予感がするぞ……!?)
「お、おい、お前ら。ちょっと待て……」
あやかしゆえの嗅覚かそれとも経験則か、鬼蜘蛛丸は不用意に近付く仲間を止めようとした。しかしそれより早く、彼らの背後の方から悲鳴が上がった。
「ぐぎゃあああっ!?」
「なにっ!?」
唐突な背後からの悲鳴。鬼蜘蛛丸らが慌てて振り返るとそこには見知らぬ武士三人がいて、各々が近くの仲間に切りかかっていた。
「何奴っ、ぐはぁっ!」
「くそっ!お前ら、どこから……ぎゃあああっ!?」
「染助っ!陣七っ!くそっ!?」
急な出来事に困惑する鬼蜘蛛丸。そこにさらに悲鳴が続く。
「ぐぁぁぁぁっ!?」
「は、早い!こいつ、強えぞ!?」
二度目の悲鳴の元凶は初めに現れた僧だった。彼はこの騒ぎに乗じて接近していた仲間に長巻で一太刀入れたのだ。さらに見れば敵の仲間らしき者も増えている。
三人と二人による強襲。ここに来てようやく鬼蜘蛛丸たちは自分たちが襲撃されたことを理解した。
「くそっ!全員身を守れ!こいつら本気だぞ!」
一瞬で酔いが覚めた鬼蜘蛛丸は、そう叫びながら脱兎のごとく本堂に滑り込んだ。
「くそっ!何だってんだ、畜生め!!」
鬼蜘蛛丸は脱兎のごとく駆け出し、本堂の中へと逃げ込んだ。中では別の仲間が震えて右往左往している。
「な、何が起こったんですかい、鬼蜘蛛丸様!?」
「お上の襲撃だ!くそっ、毎度毎度邪魔ばかりしやがって!」
鬼蜘蛛丸は奥に置いてあった自身の槍を手に取ると、本堂入り口の柱の陰に陣取った。ここなら外の様子がわかるのだが、外は想像以上の惨状になっていた。
「畜生!何だってんだ、お前らは……ぐはぁっ!」
「や、やめろ……!もうこんなことはしないから、だから……がはっ!」
襲撃者たちは淡々と山賊仲間たちを処していた。その力量はすさまじく、すでに境内には三つほど事切れた肢体が転がっており、幸い初手で致命傷にならなかった者も複数人に囲まれ追い詰められていた。
「くそっ、このままじゃ嬲り殺しだ!どこか突破できるところは……」
おそらく抵抗したところで勝ち目はない。唯一生き残る目があるとすれば、それはここ本堂に残った仲間たちと一丸になって逃げ出す他ないだろう。鬼蜘蛛丸はわずかな隙を探して襲撃者たちを観察するが、ここでそのうちの一人に見覚えがあることに気付いた。
「……む?あの若造、どこかで見た覚えが……」
襲撃者の中ではおそらく最年少の剣士。その横顔には心がざわめく何かがあった。
そうして眺めていると向こうも気付いたのか、目を合わせたのちニヤリと笑って見せた。
「久しいなぁ、鬼蜘蛛丸。覚えているか?三ケ日以来だなぁ!」
「……柳、十兵衛っ!」
鬼蜘蛛丸は一気にすべてを思い出した。あの男――柳十兵衛こそ、かつて自分が率いていた三ケ日の徒党を壊滅させた張本人である。
瞬間、彼は本堂から飛び出し、なまっていた体も忘れて渾身の一突きを繰り出した。
「きええええっ!」
「はあっ!」
気迫を込めた一閃は十兵衛の刀で弾き返されたものの、返す刀の反撃は身をねじって間一髪で避けた。この男にはここ一年の恨みがあるのだ。そう簡単にはやられてはやれない。
「柳十兵衛っ!待ちわびたぞ!この時を!」
鬼蜘蛛丸が叫ぶと十兵衛も不敵に笑って返した。
「そうだな。俺もお前を討ち漏らしたのが心残りだった。ここで決着をつけてやろうぞ」
「ほざけ!役人の犬風情が!」
刀と槍を互いに構える十兵衛と鬼蜘蛛丸。一年と数か月の時を経て今、二人は決着をつけるために向かい合った。
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