柳生宗矩 坂崎家残党たちと交戦する 1
江戸に向かう残党一派とそれを待ち構える宗矩一行。両者は確実に接近していき、いよいよ今日この日のうちにかち合うまでの距離になっていた。
柳生一行とかち合うであろうその日、孝蔵率いる残党一派は正午ごろに鞠子宿へとたどり着いた。
東海道・鞠子宿。京都方面からは
しかし今日の孝蔵らの目的は東ではない。日はまだ高く足もそれほど疲れてなかったが、孝蔵たちは宿場に着くなり適当な茶屋に入ってその座敷の奥の方を占拠した。そして部下数人に町に出て情報を集めてくるようにと指示を出す。
「道中での噂が本当ならこの宿場でも宗矩の噂が流れているはずだ。奴らを狙うかどうかはそれ次第。上手く探って来いよ」
「はっ!」
部下たちは威勢良く返事をすると、各自町へと散っていった。
「さて、果たして本当に宗矩たちはいるのだろうか……」
かつての主君の仇を討つために江戸へと向かっていた孝蔵一行。しかし彼らはその道中にて、仇の一人である柳生宗矩がこの鞠子宿近辺に来ているという噂を耳にした。これが本当ならばこれ以上の好機はない。だが都合が良すぎて罠である可能性も否めない。ゆえに彼らは慎重に最寄りの宿場で情報を集めることにした。そしてまもなく部下の一人が興奮した様子で戻ってきた。
「孝蔵さん。やはり柳生の連中は近くに来ているようです。おかしな噂が流れてましたよ」
「おかしな噂?どんなものだ?」
「『江戸から柳生一行が、鞠子宿南方に巣食うあやかしを討伐に来た』とかなんとか……。他にも『近付けば切られるかもしれないから、仕官の話がしたければ駿府に戻ってからしろ』ってのもありましたね。どう思いますか?」
孝蔵は「ふぅむ」と考える。
「……おそらくだが、あやかしやら仕官云々は人払いのための嘘だろうな。奴ら、よほど殿の件を知られたくないとみられる。まったく、こそこそと見苦しい連中だ」
孝蔵があざけると他の部下たちも「そうだそうだ」と盛り上がった。そして孝蔵はそのまま座敷の奥に座っている平四郎の方を向く。
「そんな臆病者など我らで討ってしまおう。……平四郎様もそれでよろしかったですね?」
「……私は見届けると決めた者。いまさら意見を言う気はないさ」
どうやら平四郎は完全な傍観者になることを選んだようだ。
孝蔵は「承知いたしました」と一礼すると、残っていた串団子をすべて頬張り立ち上がった。
「時は来た!今こそ我らの意気を示す時ぞ!」
「おおっ!」
こうして宿場を出た孝蔵たちは東海道を外れ、宗矩たちが待つ南の草原へと進み始めた。
一方その頃柳生側。この時柳生の剣士たちは、すでに鞠子宿南部の平野にて残党たちを迎え撃つ準備を整えていた。といっても人数が人数なため特別仰々しい陣を敷いたりまではしてない。彼らは各自素振りや刀の手入れ、あるいは足元のぬかるみや起伏の確認などを行っていた。彼らもまた決戦に向けて強い意気込みで臨んでいる。
また当の宗矩はすぐ近くのお堂にて念入りに足を揉んでいた。今回は自分も最前に立って戦うことになるだろう。老い衰えたつもりはなかったが、もう若くないことは否めない。悔いの残らぬ結末にするために、宗矩は丁寧に足の筋肉をほぐしながらその時が来るのを静かに待っていた。
「具合はどうですかな、宗矩様?」
尋ねたのは
「それなりに、といったところでしょうか。まぁ万全は期しますよ。それよりも気になるのは向こうがきちんと釣られてくれるかどうかです」
「残党たちですか?きっと来るでしょう。鞠子宿に入ったという報告は来ていますし、それらしい噂も流してありますしね」
「『いい餌がある』とでも?」
宗矩が苦笑しながら尋ねると、綱元も少しばかり口角を上げて返す。
「ええ、極上の餌があると。まぁ万が一釣れなかったとしても見張りがついているので見失うことはないでしょう。……ですがその心配はなくなったようですね」
宗矩と綱元は同時にお堂の外を向いた。まもなくして家臣の一人が駆けてきて、そのお堂の戸を叩いた。
「宗矩様。北に不審な人影が現れたとのことです。おそらく出羽守の残党たちかと……」
「来たか。では行ってまいります」
スクっと立ち上がり腰に二刀を差した宗矩を、綱元は「どうかお気をつけて」と見送った。
お堂を出た宗矩は報告に来た家臣と共に、外で待機していた他の家臣たちと合流する。彼らは準備の手を止め警戒した様子で一か所に集まっていた。
「どれ、人影とやらはどこにおる?」
「殿!あちらの……小川を一本挟んだ先にございます」
「……なるほど。確かにまっすぐこちらに向かってきてるな」
宗矩が言われた方向に目を凝らすと、北に約四町(約400メートル)ほどのところに十人ほどの人影が見えた。距離があるためまだ顔の識別はできないが、全員男で年は二十代から三十代というところ。このあたりには主だった村はないため、どこぞの村人たちが偶然通りかかったというわけではない。
「残党たちだな」
「ええ。ここからでも殺気が感じ取れるくらいです」
見通しのいい原っぱだけに互いが互いを見ていることはすぐに分かった。残党たちは自分たちが見られているにも関わらず、確信めいた足取りで宗矩たちに近付いてくる。宗矩たちも負けじと目を逸らすことなく彼らを待ち受けた。
さて、両者がじりじりと距離を詰めているこの間に、宗矩たちが決戦の地に選んだこの鞠子宿南部について説明をしておこう。
この頃の鞠子宿南部――現在で言う静岡平野最西部は人家もまばらで、背の低い草木が茂る平野部が広がっていた。これは近くを流れる
この川の特徴は、(この時代の川としては珍しいことではなかったが、)都市部から離れているために護岸工事がされていないという点だった。これにより大雨が降るたびに川は氾濫し、水が引くまでの数日間周囲はちょっとした湿地帯となった。そんな土地なため視界を遮るような背の高い木々は生えてこず、定住するような者もあらわれない。結果この一帯は人知れず果し合いをするには都合のいい、見晴らしのいい草原が広がっていたというわけだ。
この見晴らしのよさは幾つかの点で宗矩たちに有利に働いた。まず第一に残党たちが確実に見つけてくれるという点である。今回の策は宗矩を餌にして残党たちをおびき寄せるというものだ。ゆえに見つけて近付いてもらわなければ意味がない。宗矩がお堂の外に家臣たちを並べていたのもそのためである。
加えて隠れることもできないため、こっそりと近付かれる心配もない。相手がこちらを発見した時は同時にこちらも相手を発見している。そして一度互いに視認すればもう見失うこともない。もちろん一度引いて体勢を立て直すことも可能だろうが、武士の性分として一度見つかった以上は背を向けて逃げ出すなんて真似はしないだろう。
実際残党たちは宗矩たちを見つけるや、戦術を選べる優位を捨ててまっすぐ宗矩たちに向かってきている。その足取りは自信に満ちていたが、逆に言えば戦争に必要な狡猾さのようなものは感じられない。彼らはあふれ出る殺気を除けば、まるで共にスポーツをする約束でもをしていたかのように、一見健全に近付いてきていた。
(どうやら無事に釣れたようだな。あとはここからどうするか、だ)
柳生一行と残党一派。彼らの距離はいつの間にか二十間(約40メートル)もないほどに縮まっていた。このあたりで「それ以上近付くな」という意図を込めて柳生側・荘田
「貴殿ら、何用だ?某らは駿府の御公儀からお役目を受けてここにいる。用がないなら立ち去ってもらえるか」
残党たちはピタリと止まり、そして一派の中でも中堅格の男――
「ふん。くだらない芝居はよせ。我らが何者か、わからぬほど愚鈍ではあるまい」
「……名乗りもできんとは、無粋な連中だ」
教高がそう言いながら残党たちの顔を眺めていると、ふと見知った顔に気付いて目を止めた。相手も目が合ったのに気付いたのだろう、バツが悪そうに目を逸らす。そこにいたのは人質として柳生庄から連れていかれた坂崎直盛の嫡男・平四郎であった。
「む、平四郎様……。本当に同行していたとはな……」
平四郎が彼らに付き従っていたことは三厳からの手紙や観測班からの報告で知っていた。もし彼が残党側について戦うというのなら、その時は敵として切り捨てる他ないとあらかじめ言われてもいる。
だが今のところ平四郎は逃げ出すそぶりこそないものの、腰に刀もなく戦うような雰囲気でもない。
(さて、どうするか。殿はできるだけ殺したくないような様子だったが……)
宗矩はすでに坂崎直盛を謀殺している上に、その際交わした御家存続の約束も反故にしている。ならばせめて平四郎の命だけは守りたいと思っているようだが、彼が敵に回ってしまえばそれも難しい。
教高はしばらくどうしたものかと考えていたが、やがて面倒くさくなったため直接本人に真意を問うことにした。
「平四郎様、いるのはわかっております!あなたがどういう立ち位置を選んだのか、今ここではっきりと宣言していただきたい!」
教高に呼ばれると平四郎はびくりと肩を震わせたのち、決心した表情で前に出てきた。
「お久しぶりです、教高殿。某が捕虜となったことはもうご存じですね?」
「まぁ一応は。その割には待遇は良さそうですが」
今現在も平四郎に縄の類はかけられていない。隙を突いて走りだせば宗矩たちの元に戻ることもできるだろう。しかし平四郎は変わらず残党たちの側に立っていた。
「そうですね、言い訳のしようもない。ですが彼らの気持ちもわかってください。彼らは父を、主君を守るために生きてきたのです。その思いを汲んではくれないでしょうか?」
「平四郎様。もうそのような時代でないことは貴殿も理解しておいででしょう?」
「……もちろん承知しております。ですがそれで全部乗り切れると思っているのですか?いったい今この世の中に、くすぶっている牢人たちが何人いると思っているのですか!?せめて自身に関係のある因縁くらい向き合ってはどうですか、宗矩様!」
「……っ!」
平四郎は家臣たちの後ろに控えていた宗矩をまっすぐに見た。今度は宗矩の方がバツが悪そうに顔をゆがめたが、目線までは逸らさなかった。
「……今は太平の世に向けて歩んでいる時。思うがままに暴力を振るうことを是とすれば、いつまでたっても争いのない平和な世はやってこない。ゆえに無益に剣を振る者を咎めるのは当然のこと」
「だから自分たちの謀殺は認めて、こちらの挙兵は認めぬと?それは道理が通ってないように聞こえますが?」
「その道理を認めれば戦火の炎はいつまで経っても消えませぬ!」
「認めなければ勝手に消えるわけでもないでしょう!現に彼らの不満は消えてないではないですか!」
互いに睨み合う宗矩と平四郎。両者の意見は平行線で、まるで交わる気配がない。二人とも落としどころがないとわかっているからこそ睨み続けることしかできなかった。
そんな両者の間に孝蔵が割って入る。
「まぁその話はこの辺でいいじゃないですか、平四郎様。向こうがどんな信条を持っていようと、この場ですることに変わりはないのですから」
そう言うと孝蔵はスッと刀を抜いた。合わせて他の残党たちも抜刀し、その白刃を露わにする。そう、どんなお題目を掲げようとも戦いを挑まれれば応じる他なく、そして負けた方はそれ以上何も語ることはできない。残念だがそれが真実だった。
十一本の白刃を向けられた宗矩はわずかに鯉口を切って孝蔵を見据えた。
「……一つ確認したいことがある」
「なんでしょう?」
「平四郎様はこの切り合いに加わるのか?それとも人質に刃を当てていなければ戦えないクチか?」
宗矩にしては安い挑発だったが孝蔵はにやりと笑って乗ってくれた。
「いいでしょう。こちらとしても人質を取ってたから勝てた卑怯者などと言われたくないですからな」
孝蔵が合図を出すと平四郎は残党たちからさらに20メートルほど後方に下がった。この距離なら巻き込まれることはないだろう。
「これでこちらは十一人。そちらも
「……戦うことでしか生きる意味を見出せぬ痴れ者め。自身の短絡さを悔やむがいい」
柳生側十一人も続けて抜刀し構えた。
こうして駿河西部の草原にて柳生家側十一人、坂崎家側十一人とが向かい合う運びとなった。
十二年の時を経て対峙する柳生と坂崎。今のところまだ睨み合っているだけであるが、互いにいつでも飛び掛かる用意はできていた。あとはきっかけを待つばかり。両者の緊張感はまさに頂点に達しようとしていた。
そんな折だった、不意に残党側から一人の若い牢人が前に出てくる。
「孝蔵さん。すみませんが一番槍は私に任せてはくれないでしょうか?私の剣が柳生にどこまで通用するか、今度こそ確かめたくございます」
一行の視線が自然とその青年剣士へと向けられる。一番槍に名乗り出た青年は二十代中頃、背は中背で筋肉質。そして腕に自信のある若者の、不敵な笑みを浮かべていた。
「勝成か。面白い、好きにするといい」
「ありがとうございます。……さあ!そちらに俺と一対一で戦う度胸のある者はいるか!?」
孝蔵の許しを貰った勝成と呼ばれた青年は、前に出て柳生一行を煽った。そして入れ替わるように他の残党たちは刀を納めて一歩引き、「おう、やってやれ!」「お前の剣を見せてやれ!」とはやし立てている。
教高はそんな残党たちの様子を見て小さく呆れたように溜め息を吐いた。
(こいつら、合戦を辻喧嘩か何かと勘違いしているな。まったく、緊張感のない……)
正直、素直に宗矩たちに近付いて来た時点で残党たちの甘さには気付いていた。どうしても勝ちたいというのなら安いロマンに流されることなく、武器なり人員なりを十分に集めて戦いに挑むべきである。だが孝蔵たちは特に利点がないにもかかわらず真正面からやってきた。図らずも自分たちの刹那主義を露呈させてしまった形となったのだ。
(やはりこいつらはただ戦いたいだけの旧時代の亡霊だ。とはいえ一騎打ちを挑まれたからには無下にすることもできんな)
一対一を申し込まれた以上、ここで乗らなければそれはそれで武士の名折れである。ちらと振り向けば宗矩も同意するように頷いた。そして教高は背後に控える仲間たちの中から一人の剣士に目を留めた。
「……源内。やれるな?」
「もちろんにございます」
教高の指名で前に出てきたのは同じく二十代中頃の剣士・小瀬
「乗ってしまいましたが、よろしかったでしょうか?」
「構わんさ。敵一人を減らす機会を得られたのだ。ご相伴にあずかろうではないか」
宗矩たちも一歩下がり、二人のための舞台を作ってやった。その中心にて源内と勝成の二人は向かい合う。構えは共に正眼で間合いは約八間(約15メートル)とやや遠目。まずは互いに近付くことから始めるだろう。
「一刀流、田口
「新陰流、小瀬
両者互いに名乗りを上げたのち、二人はそれぞれ一歩間合いを詰めた。
両軍の先鋒として対峙する柳生側・小瀬源内と坂崎側・田口勝成。向かう合う二人は年も背格好もよく似ていた。それだけに二人の力量差はそのまま両軍の力量差の目安となりうるだろう。
ゆえに源内は攻め急いだりせずに落ち着いて相手の力量を見極めることにした。
(一刀流と言ってたな。残党たちが自信を持って送り出したんだ。油断はできないぞ)
相手も同じことを思ったのだろう、勝成はそれに付き合い、二人はしばらく足運びだけで攻防を繰り広げた。相手が前に出ればこちらが一歩引き、逆に後ろに下がればこっちが一歩前に出る。そんな押し引きを数度したのち、源内は早くも相手の未熟さを見抜いた。
(こやつ……、それらしい動きをしているが基本ができていない。さては偽物に師事したな?)
勝成が名乗った流派・一刀流は戦国時代の末期に伊東一刀斎が創始した流派であり、この時代では彼の弟子である小野忠明が二代将軍・秀忠の剣術指南役となったことで高い知名度を持っていた。そして高い知名度があるということは、それだけ名を語る二流三流が多くいるということだ。
似たような流れを持つ新陰流も勝手に流派を名乗る輩には悩まされてきた。勝成もおそらくそんな語りの師匠から剣を習ったのだろう。彼の剣には若さゆえの勢いがあるだけで、恐れるような修練の痕跡はまるで感じられなかった。
(興覚めだな。やぶれかぶれの反撃にだけ気を付ければ敵ではあるまい)
そこに気付けばあとは早かった。源内は流れるように間合いを詰めて勝成の左腕めがけて刀を振り下ろす。
「っ!させるかっ!」
勝成は若さと身体能力で反応してこれを払ったが、実はこれは誘いの剣だった。剣を払ったことにより隙の生じた右腕を源内は軽く切り上げる。勝成の右腕に一本の血でできた線が引かれた。
「くそっ!ちょこまかと!」
「落ち着け、勝成!たいした傷ではないぞ!」
「わかっております!」
さすがに傷一本では闘志は衰えない。だが源内は焦ってなどいなかった。なにせこれは前座に過ぎないのだ。ここで大事なのは無傷でこの前座を終わらせることである。
とはいえ時間をかけすぎるのも考え物だ。源内がちらと見れば、残党たちの何人かは今にも助けに飛び出そうとしている。
(……これ以上時間をかけるのは逆に危険かもな。ならばここで決める!)
「はぁぁぁぁぁっ!!」
それまで勝成を軽い太刀筋で翻弄していた源内は一気に剣気を高め、必殺の気配を放つ。
「ひぃっ!?」
気圧された勝成は初めの勝気な態度はどこへ行ったのか、死の恐怖から尻もちをつき、そのまま乱暴に刀を振った。当然そんな剣では源内の剣を止めることはできない。
「はぁっ!」
「ぎゃぁっ!?」
源内の振るった刀は安直に伸ばした勝成の左腕を大きく裂いた。決着には十分な一太刀だ。地面に血飛沫が飛び、そしてそれを見るや残党数名が助力のために飛び出した。
「勝成っ!!」
さすがの源内も三人に囲まれれば厳しいだろう。しかしこれには柳生の仲間が対処する。
「水を差すな!この痴れ者めっ!」
残党たちに呼応して柳生側も二人の剣士が飛び出した。一人は「キェェェェッ」と叫びながら居合で抜刀し、もう一人も上段に構えて威嚇する。これにより残党たちは一瞬ひるみ、その隙に源内は自軍に合流することができた。
「申し訳ございません。仕留めきれませんでした」
「なに、十分さ。それよりも気を抜くなよ。本番はこれから――上品な戦いもここまでだぞ」
「はっ」
合流した柳生家家臣たちは改めて抜刀し、残党たちの次の一手に備える。
対し孝蔵たちは明らかに先程までの余裕がなくなっていた。怒りと敵意とほんの少しの恐怖。彼らの目は、平四郎が野犬のようだと評した殺気の籠った鋭い目つきとなっていた。
「くそっ、柳生め!よくも勝成を!」
「ふんっ、いまさら何を言っている!まさか剣術稽古か何かかと思っていたのか?互いに殺し合うためにこの場に来たのだろう!?」
「くっ!……やはり正道では敵わぬか。ならば皆の者!行くぞっ!」
孝蔵の掛け声に合わせて残党たちは印籠や結んだ薬包紙を取り出した。中に入っているのは例の丸薬だ。彼らはこの決戦のために全員で丸薬を分け合っていたのだ。
「数が少ない分効果時間は短い!効果が出次第一気に片付けるぞ!」
「おうっ!」
どうやら向こうもいよいよ本気になったようだ。勝成も含めた十一人が一気に丸薬を飲み下した。これにより残党全員が同時に強化されたことになる。
恐ろしいことではあったが、ここまでは宗矩たちにとっても想定の範囲内だった。
「やはり秘薬とやらを使ってきたか!だがこちらも準備はしてある!皆の者、『鳥かご』を作れ!」
「はっ!」
宗矩の号令の下、柳生の剣士たちも秘策のために動き出した。
彼らの勝負は第二幕へと移っていった。
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