第7話 仮にも救っていたんだな
「私、お兄ちゃんが好き」
「というか何で俺が好きになったんだ?」
「お姉ちゃんを助けたあの日から好きだよ。お兄ちゃんの事」
ニコッとしてそう言ってくる幸子に赤面する俺。
俺達は空を見上げながらボーッとしていた。
3時限目が始まってしまったが、だ。
特に俺達は動かずに寄り添ったままだった。
恋人関係でも無い。
だけど相手は俺が好きだという話を聞いていた。
そんな話を聞いている中で.....俺は何だか話題が欲しくなり。
そのまま幸子に向いた。
「幸子。俺さ。何で幸奈を恐れているか知っているか」
「.....夜に置いて行った以外は分からないよ?何で?」
「詳しく話してやろうか。暇だし」
「.....うん。聞きたいかも」
「.....そうか」
俺は話し出す。
過去の話を.....思い出しながら、だ。
それは夏のあの日の天候の悪い日、だ。
つい川辺で遊び過ぎていた日、だ。
☆
「俺な。幸奈と一緒に遠くまで行ってみようと思ったんだ。当時はまだ挑む事が好きだったからな。自然とか舐めていたし」
「.....そうなんだ」
「.....ああ。んで.....やって来た遠くの川辺で結構2人で遊んでいたんだよな。ヤゴとか捕りながら、だ。そしたら午後5時ぐらいになっていてな」
「.....遊び過ぎたって事だね」
「ああ。それからだよ。ここから帰るには2時間は掛かるって気が付いたんだ。そんな遠くまで冒険していたみたいで。当時としては馬鹿だったよな。代わり番こで漕いで自転車走らせたりさ」
俺は思い出しながら苦笑する。
いや、割とマジにアホだったと思う。
何故そこまで.....してやって来ていて。
そして気が付かなかったのか。
いやまあ子供だったから何とも言えないんだけど、と思いつつ風の音を聞く。
「そして俺達はまだ小3だったんだ。だから泊まる場所とか考えれなくてな。.....それで急いで帰ったんだけど.....途中で自転車が壊れてな」
「.....そうなんだね」
「自転車のペダルが壊れたんだ。それから自転車を捨てて歩いて帰る事にしたけど.....時間はどんどん遅くなってな。多分もう夜だった」
「.....そんなに?」
「ああ。んで.....結局俺は当時はお化けも怖かったから物音で駆け出してしまって.....そして夜だったから何も見えなくて.....絶望だったよ。何処の道かも分からない、幸奈は居なくなった、ってね」
それからだったな。
俺は必死に.....探したんだよな。
我に帰って、だ。
幸奈を、である.....が。
ん?この後、幸奈をどう発見したんだ俺?
「何か覚えてないな。何でだろう」
「.....お兄ちゃん。額に傷があるよね」
「.....有るな。.....いやちょっと待て。何で知ってんだよ」
「私知ってるよ。.....何がどうなったのか」
「.....え?」
そして幸子は俺の手を握ってくる。
それから俺を柔かに見上げながら.....雲を見る仕草をする。
続きを知っている?
と思っていると幸子はこう言った。
「お兄ちゃんはね。血を流してでもお姉ちゃんを守っていたからね。お姉ちゃんを抱える様にして気を失っていたけど」
「.....え.....?」
「多分.....犬とかにお兄ちゃんが襲われたんだろうって言ってたよ。.....お兄ちゃんに関わらないけどね。その時の事もあってお父さんは」
「.....それで俺はあの時、病院に寝ていたのか。記憶が無いんだが」
「.....だから私はお兄ちゃんが好き。憧れのヒーローだから。お姉ちゃんもだからきっと.....お兄ちゃんが好きなんだけど.....でも口に出せない。だから嫉妬もあってどうしたら良いか分からなくてお姉ちゃんは土方さんと付き合っているんだと思う。何か計画があるんだろうけど」
俺の額には原因が記憶に無い十字の傷が有る。
だけどこれが何処で負った傷で何故病院で寝ていたのか。
ようやっと分かったが.....何で両親はこれを話してくれなかったのだ。
考えながら俺は顎に手を添えるが。
答えが見つかった。
「.....そうか。先に発見した幸奈の親父さんが病院に俺を連れて行ってから全部の説明で嘘を吐いたのか.....」
「.....多分そうだね。.....だからお兄ちゃんは記憶が曖昧なんだろうね。.....お姉ちゃんを救っているよ。お兄ちゃんは」
「.....だからお前は俺が好きなのか」
「お姉ちゃんを救ってくれたから。.....そして私はお兄ちゃんが好きになった」
「.....」
俺は歯に噛む幸子を見ながら考える。
幸奈。
アイツには何の計画があるのだろう。
でもそうは見えないけどな。
ずっとその。
やっぱり土方先輩を好いている様にしか見えないし。
一体.....、と、だ。
すると幸子が立ち上がった。
「お兄ちゃん。.....このままデートする?どうせ3時限目は間に合わないしこのまま帰れないよね」
「.....いや。するのは良いが何処でデートするんだよ。あまり派手に動くと教師にバレるぞ」
「.....中学校に私の秘密の場所があるの。そこ行こう。綺麗な花が咲いているの」
「いやいや。俺、高校生なんだけど.....」
「今は人居ないって。中学校の用務員さんも今は席を外しているから」
そして俺の手を柔和に優しく握ってくる幸子。
それから俺を引っ張って行く。
死角の道を通りながら中学校に、だ。
俺は抵抗していたが。
まあこういうのも良いか、と思いつつ。
俺は花園とやらに向かった。
幸奈の事を.....考えながら、だ。
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